夏紀から連絡が来たのは、夕方だった。
「ねえスペル、病院に一緒に来てほしいの」
理由は多く語られなかった。ただ、声が少し掠れていた。夏紀の知り合いの少女が、長く入院しているという。医者の言葉を、どうしても一人で聞けないらしい。
病院の廊下は、夕方になると音が減る。人の気配はあるのに、誰も声を出さない。スペルと夏紀は並んで歩いていたが、会話はなかった。
「……ここ」
夏紀が足を止めた先のドアには、何の表示もない、
ただの白い扉。
けれど、その向こう側にあるのは、取り消せない言葉だ。
中にいたのは、少女一人。
ベッドの上で膝を抱え、窓の外を見ていた。
「トキ」
夏紀が名前を呼ぶ。
少女は振り返り、弱々しく笑った。
「夏紀……来てくれたんだ」
「うん。あと……」
一瞬、言葉に詰まる。
「この人が、スペル」
「……変な名前」
トキはそう言ってから、小さく咳き込んだ。
医師は淡々としていた。
検査結果、進行状況、治療の限界。
感情を挟まない説明は、刃物より正確だ。
「余命は、三ヶ月ほどです」
空気が止まる。
夏紀の指が震えた。
「……三ヶ月?」
トキは、思ったより落ち着いた声だった。
「それ、長いですか?短いですか?」
医師は答えない。
代わりに、スペルが言った。
「人による」
トキはスペルを見る。
「あなたは、どう思いますか」
「短い」
嘘はつかなかった。
「でも、ゼロじゃない」
トキは少し考えてから、ふっと息を吐いた。
「……そっか。じゃあ、まだ生きられるね」
その言葉に、夏紀は目を伏せた。
「将来の夢とかないのか?」
「あったけど、忘れちゃった」
スペルだけが、聞いていた。
“終わりを知った声”の、微かな揺れを。
「ねえスペル、病院に一緒に来てほしいの」
理由は多く語られなかった。ただ、声が少し掠れていた。夏紀の知り合いの少女が、長く入院しているという。医者の言葉を、どうしても一人で聞けないらしい。
病院の廊下は、夕方になると音が減る。人の気配はあるのに、誰も声を出さない。スペルと夏紀は並んで歩いていたが、会話はなかった。
「……ここ」
夏紀が足を止めた先のドアには、何の表示もない、
ただの白い扉。
けれど、その向こう側にあるのは、取り消せない言葉だ。
中にいたのは、少女一人。
ベッドの上で膝を抱え、窓の外を見ていた。
「トキ」
夏紀が名前を呼ぶ。
少女は振り返り、弱々しく笑った。
「夏紀……来てくれたんだ」
「うん。あと……」
一瞬、言葉に詰まる。
「この人が、スペル」
「……変な名前」
トキはそう言ってから、小さく咳き込んだ。
医師は淡々としていた。
検査結果、進行状況、治療の限界。
感情を挟まない説明は、刃物より正確だ。
「余命は、三ヶ月ほどです」
空気が止まる。
夏紀の指が震えた。
「……三ヶ月?」
トキは、思ったより落ち着いた声だった。
「それ、長いですか?短いですか?」
医師は答えない。
代わりに、スペルが言った。
「人による」
トキはスペルを見る。
「あなたは、どう思いますか」
「短い」
嘘はつかなかった。
「でも、ゼロじゃない」
トキは少し考えてから、ふっと息を吐いた。
「……そっか。じゃあ、まだ生きられるね」
その言葉に、夏紀は目を伏せた。
「将来の夢とかないのか?」
「あったけど、忘れちゃった」
スペルだけが、聞いていた。
“終わりを知った声”の、微かな揺れを。
- 1.「人生」
- 2.「奇跡の星」
- 3.「夏紀」
- 4.「とある隣人は」
- 5.「立場」
- 6.徒花の行方
- 7.「幼女は」
- 8.「笑顔」
- 9.「軸柊奏」
- 10.徒花の行方
- 11.「居場所」
- 12.「弦の音」
- 13.「答え」
- 14.「日常編」
- 15.「悩むものか」
- 16.「歪み」
- 17.「信頼」
- 18.「余命」
- 19.「時歌」
- 20.「日常編」
- 21.「神として」
- 22.「忘却列車」
- 23.「微熱」
- 24.「クリスマス」
- 25.「プレゼント」
- 26.「鳴っている」
- 27.「バレンタイン」
- 28.「日常」
- 29.「誰」
- 30.「戦場」
- 31.「アレス」
- 32.「日常編」
- 33.「破会議壊」
- 34.「徒花の行方」
- 35.「戦の予兆」
- 36.「日常編」