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ー人生ー

#12

「弦の音」

それから少しした後、皆は寝付けついた。
夜更け、軸柊奏は不思議な静けさに包まれていた。
誰も話していないのに、確かに“音”がある。
それは旋律ではなく、張り詰めた一本の弦が、今にも切れそうに震える音だった。
スペルはその音の出所を辿り、屋根裏へ向かう。
    ——そこにいたのは弦音だった。
「……やっぱり来た」
月明かりの中、弦音は床に座り、古びた弦楽器を膝に置いていた。
だが弦は一本しか張られていない。
「それ、何」
「私の人生」
即答だった。
スペルは息を呑む。
神の感覚が、否定も肯定もせずに疼いている。
「私はね、“選ばれなかった可能性”」
弦音は弦を指で弾いた。
音は短く、すぐに消える。
「この星が生まれる前、無数の未来があった。
 争いで滅ぶ星、繁栄しすぎて壊れる星、何も生まれない星」
弦音は笑う。
「私は“失われた未来”の残響。
 形を持たなかったはずの存在」
「……じゃあ、なんで生きてる」
「生きてないよ」
その言葉は、驚くほど軽かった。
「ただ、ここに“在る”だけ。
 止まった時計の、鳴り終わった音」
スペルは思い出す。
ゼウスの言った言葉——人生は時計だ、と。
「でもさ」
弦音は一本の弦を、ゆっくりと撫でた。
「止まった時計でも、
 誰かが“時間を見た”瞬間、意味が生まれる」
「私は、誰かに聞かれるために残った」
佳世の怯えた目。
夏紀の笑顔。
居場所を探す人間たち。
スペルの胸が、少しだけ熱くなる。
「人生ってさ」
弦音はスペルを見る。
「長さじゃない。役目でもない」
「“誰かの中で、鳴ったかどうか”」
弦を弾く。
今度は、確かに音が続いた。
——短くても、確かに“生きていた”。
スペルは空を仰ぐ。
止まらない時計の針。
だがその音を、誰と聞くかで、人生は変わる。
「……私は」
「どうしたの?」
「いや...」
呟いた言葉は、まだ答えにならない。
それでも、
人生という問いは、
この家で、確かに鳴り始めていた。

作者メッセージ

居場所を見つけたからってミステリアスが好きなのでそれは変わりませんψ(`∇´)ψ

2026/02/05 16:45

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
コメント

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創作長期ファンタジー天文

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