それから少しした後、皆は寝付けついた。
夜更け、軸柊奏は不思議な静けさに包まれていた。
誰も話していないのに、確かに“音”がある。
それは旋律ではなく、張り詰めた一本の弦が、今にも切れそうに震える音だった。
スペルはその音の出所を辿り、屋根裏へ向かう。
——そこにいたのは弦音だった。
「……やっぱり来た」
月明かりの中、弦音は床に座り、古びた弦楽器を膝に置いていた。
だが弦は一本しか張られていない。
「それ、何」
「私の人生」
即答だった。
スペルは息を呑む。
神の感覚が、否定も肯定もせずに疼いている。
「私はね、“選ばれなかった可能性”」
弦音は弦を指で弾いた。
音は短く、すぐに消える。
「この星が生まれる前、無数の未来があった。
争いで滅ぶ星、繁栄しすぎて壊れる星、何も生まれない星」
弦音は笑う。
「私は“失われた未来”の残響。
形を持たなかったはずの存在」
「……じゃあ、なんで生きてる」
「生きてないよ」
その言葉は、驚くほど軽かった。
「ただ、ここに“在る”だけ。
止まった時計の、鳴り終わった音」
スペルは思い出す。
ゼウスの言った言葉——人生は時計だ、と。
「でもさ」
弦音は一本の弦を、ゆっくりと撫でた。
「止まった時計でも、
誰かが“時間を見た”瞬間、意味が生まれる」
「私は、誰かに聞かれるために残った」
佳世の怯えた目。
夏紀の笑顔。
居場所を探す人間たち。
スペルの胸が、少しだけ熱くなる。
「人生ってさ」
弦音はスペルを見る。
「長さじゃない。役目でもない」
「“誰かの中で、鳴ったかどうか”」
弦を弾く。
今度は、確かに音が続いた。
——短くても、確かに“生きていた”。
スペルは空を仰ぐ。
止まらない時計の針。
だがその音を、誰と聞くかで、人生は変わる。
「……私は」
「どうしたの?」
「いや...」
呟いた言葉は、まだ答えにならない。
それでも、
人生という問いは、
この家で、確かに鳴り始めていた。
夜更け、軸柊奏は不思議な静けさに包まれていた。
誰も話していないのに、確かに“音”がある。
それは旋律ではなく、張り詰めた一本の弦が、今にも切れそうに震える音だった。
スペルはその音の出所を辿り、屋根裏へ向かう。
——そこにいたのは弦音だった。
「……やっぱり来た」
月明かりの中、弦音は床に座り、古びた弦楽器を膝に置いていた。
だが弦は一本しか張られていない。
「それ、何」
「私の人生」
即答だった。
スペルは息を呑む。
神の感覚が、否定も肯定もせずに疼いている。
「私はね、“選ばれなかった可能性”」
弦音は弦を指で弾いた。
音は短く、すぐに消える。
「この星が生まれる前、無数の未来があった。
争いで滅ぶ星、繁栄しすぎて壊れる星、何も生まれない星」
弦音は笑う。
「私は“失われた未来”の残響。
形を持たなかったはずの存在」
「……じゃあ、なんで生きてる」
「生きてないよ」
その言葉は、驚くほど軽かった。
「ただ、ここに“在る”だけ。
止まった時計の、鳴り終わった音」
スペルは思い出す。
ゼウスの言った言葉——人生は時計だ、と。
「でもさ」
弦音は一本の弦を、ゆっくりと撫でた。
「止まった時計でも、
誰かが“時間を見た”瞬間、意味が生まれる」
「私は、誰かに聞かれるために残った」
佳世の怯えた目。
夏紀の笑顔。
居場所を探す人間たち。
スペルの胸が、少しだけ熱くなる。
「人生ってさ」
弦音はスペルを見る。
「長さじゃない。役目でもない」
「“誰かの中で、鳴ったかどうか”」
弦を弾く。
今度は、確かに音が続いた。
——短くても、確かに“生きていた”。
スペルは空を仰ぐ。
止まらない時計の針。
だがその音を、誰と聞くかで、人生は変わる。
「……私は」
「どうしたの?」
「いや...」
呟いた言葉は、まだ答えにならない。
それでも、
人生という問いは、
この家で、確かに鳴り始めていた。
- 1.「人生」
- 2.「奇跡の星」
- 3.「夏紀」
- 4.「とある隣人は」
- 5.「立場」
- 6.徒花の行方
- 7.「幼女は」
- 8.「笑顔」
- 9.「軸柊奏」
- 10.徒花の行方
- 11.「居場所」
- 12.「弦の音」
- 13.「答え」
- 14.「日常編」
- 15.「悩むものか」
- 16.「歪み」
- 17.「信頼」
- 18.「余命」
- 19.「時歌」
- 20.「日常編」
- 21.「神として」
- 22.「忘却列車」
- 23.「微熱」
- 24.「クリスマス」
- 25.「プレゼント」
- 26.「鳴っている」
- 27.「バレンタイン」
- 28.「日常」
- 29.「誰」
- 30.「戦場」
- 31.「アレス」
- 32.「日常編」
- 33.「破会議壊」
- 34.「徒花の行方」
- 35.「戦の予兆」
- 36.「日常編」