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ー人生ー

#13

「答え」

軸柊奏を出る時、空はまだ夜と朝の境目だった。
佳世は眠っている。
弦音は何も言わず、ただ手を振った。
——まるで、行き先を知っているみたいに。
「行ってくる」
誰に向けた言葉でもない。
それでも、スペルはそう呟いて、地を蹴った。
     ◇
神々の座す場所は、相変わらず無機質だった。
星の運行図、積み上げられた資料、止まることのない仕事。
「……久しぶりだな」
ゼウスは視線を上げずに言った。
「呼んでないぞ」
「呼ばれなくても来る時は来るよ!」
スペルは机の前に立つ。
昔と同じ距離。
なのに、どこか遠い。
「地球、どうだ」
「……奇跡の星だった」
ゼウスの手が、ほんの一瞬止まる。
「人間は、短い」
スペルは続ける。
「すぐ失って、すぐ泣いて、それでも前に進む」
「時計が止まるのを、知ってる生き物だ」
ゼウスはゆっくりと顔を上げた。
「それで?」
「私は、不老不死だ」
「止まらない時計」
その言葉に、ゼウスは静かに息を吐いた。
「……だから、お前は迷っている」
「人生って何なの?」
スペルは、初めて真正面から問いを投げた。
「生き続けることか」
「役目を果たすことか」
「誰かを守ることか」
ゼウスはしばらく沈黙した。
「昔、俺は“止まらないこと”が正しいと思っていた」
机の端に置かれた古い懐中時計を、指で弾く。
「だがな、スペル」
「時計は、時間を刻むためにあるんじゃない」
「……?」
「[太字]“今”を知る為だ[/太字]」
ゼウスは言葉を選ぶように続ける。
「誰かがそれを見て、意味を持つ」
「見られない時計は、ただの機械だ」
「お前は、もう鳴っている」
ゼウスは微笑んだ。
「地球で」
「人間の中で」
「あの子の隣で」
「……私は、神だよ?」
「だからこそだ」
ゼウスは立ち上がり、スペルの額に指を当てる。
「人生とは、“終わりがあるから尊い”ものだけじゃない」
「終わりを持つ者に、寄り添えることもまた、人生だ」
一瞬、視界が白くなる。
「答えは、戻った先にある」
気づけば、スペルは空の上に立っていた。
地球が、青く回っている。
「……ずるいな」
誰もいない空間で、そう呟く。
時計の針は、今日も止まらない。
それでも。
「私は、ゼウスとの時間もあの場所での時間も好きな場所だから」
そう決めて、スペルは地へと落ちていった。
——人生の音が、待っている場所へ

作者メッセージ

次は番外編、日常会です

2026/02/05 16:53

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
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創作長期ファンタジー天文

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