閲覧前に必ずご確認ください
本作には、家族による身体的・精神的な虐待、およびネグレクトの描写が含まれます。また、持病(心臓疾患)による苦痛の描写があります。苦手な方はご注意ください。※物語は最終的に、主人公が全力で救済され、幸せになるハッピーエンドをお約束します!
私は、フラフラと、吸い込まれるように学校の廊下を歩く。
心臓が警鐘を鳴らすたび、視界がチカチカと火花を散らした。
(……玄関まで、もう、ちょっと……)
そう思った瞬間、膝の力がふっと抜けた。
「おっと、危ない!……おはよ、お姫様。朝から俺に飛び込んでくるなんて、熱烈だね?」
倒れる寸前、強い力で肩を抱き寄せられた。
見上げなくてもわかる。この、爽やかな石鹸の香りと、聞き慣れた軽薄な声。雪城先輩だ。
「……せ、んぱい……」
「あはは、そんなに俺の胸板が心地よかった? でも、校門の前で抱き合うのは、ちょっと刺激が強すぎかなー」
もうすぐつくと思っていたが、まだ校門の前だったようだ。
先輩は周囲の生徒たちにひらひらと手を振り、耳につけている数個のピアスを光らせ、「役得、役得!」なんておどけて見せる。
けれど、私を支える腕は、折れそうな枝を保護するように、痛いほど力強く震えていた。
「……ねえ、冗談抜きで。さっき一瞬、呼吸止まってなかった?」
私の耳元に寄せられた声から、チャラい響きが消える。
低く、切実な、焦燥。先輩は私の荷物をひったくるように持つと、強引に私の肩を抱いたまま歩き出した。
「俺、今日保健委員の当番なんだよね。サボる口実が欲しかったから、付き合ってよ」
保健室の重いドアが閉まり、静寂が訪れる。
先輩は私をベッドに座らせると、膝をついて、私の目線に合わせるように覗き込んできた。
「顔色が透けて見えるくらい白いよ。……薬、持ってる? 飲まなきゃダメだ」
「あ、えっと……鞄の、中に……」
私が弱々しく指差すと、先輩は迷いなく私の鞄を開けた。
そこから、使い古されたボロボロのポーチを取り出す。
「……えっ?」
薬のシートを抜き取った先輩の動きが、ピタリと止まった。
いつも余裕たっぷりに微笑んでいるはずの彼の顔が、一瞬で凍りついたように無機質になる。
「……これ、何?」
「え……? 薬、ですけど……」
「違う。そうじゃない。……なんで、使用期限が『一年前』で止まってるんだよ」
先輩の指が、薬の裏面に印字された日付をなぞる。
その指が、怒りでわななき始めていた。
「半年どころじゃない……一年前だ。これ、劇薬に近い成分なんだよ? こんな劣化したものを、今の君に飲ませたら……っ」
先輩は私を睨むように見つめた。
いや、私ではなく、私の背後にいる「家族」という化け物を見ているようだった。
「……お母さんが、まだあるからそれを飲めって……。病院は、お金がかかるから……
兄の大学進学のために必要だからって。」
「っ、ふざけんなよ……!」
先輩が初めて、声を荒らげた。
でも、すぐに自分の失態に気づいたように、「……ごめん。怖がらせるつもりはなかった」と、私の手を握りしめる。
「……もういい。全部わかった。君が今まで、どんな地獄にいたのかも」
先輩の瞳には、もう「王子様」の欠片もなかった。
そこにあるのは、獲物を家族の手から奪い取ろうとする、冷徹で狂おしいほどの執着だった。
心臓が警鐘を鳴らすたび、視界がチカチカと火花を散らした。
(……玄関まで、もう、ちょっと……)
そう思った瞬間、膝の力がふっと抜けた。
「おっと、危ない!……おはよ、お姫様。朝から俺に飛び込んでくるなんて、熱烈だね?」
倒れる寸前、強い力で肩を抱き寄せられた。
見上げなくてもわかる。この、爽やかな石鹸の香りと、聞き慣れた軽薄な声。雪城先輩だ。
「……せ、んぱい……」
「あはは、そんなに俺の胸板が心地よかった? でも、校門の前で抱き合うのは、ちょっと刺激が強すぎかなー」
もうすぐつくと思っていたが、まだ校門の前だったようだ。
先輩は周囲の生徒たちにひらひらと手を振り、耳につけている数個のピアスを光らせ、「役得、役得!」なんておどけて見せる。
けれど、私を支える腕は、折れそうな枝を保護するように、痛いほど力強く震えていた。
「……ねえ、冗談抜きで。さっき一瞬、呼吸止まってなかった?」
私の耳元に寄せられた声から、チャラい響きが消える。
低く、切実な、焦燥。先輩は私の荷物をひったくるように持つと、強引に私の肩を抱いたまま歩き出した。
「俺、今日保健委員の当番なんだよね。サボる口実が欲しかったから、付き合ってよ」
保健室の重いドアが閉まり、静寂が訪れる。
先輩は私をベッドに座らせると、膝をついて、私の目線に合わせるように覗き込んできた。
「顔色が透けて見えるくらい白いよ。……薬、持ってる? 飲まなきゃダメだ」
「あ、えっと……鞄の、中に……」
私が弱々しく指差すと、先輩は迷いなく私の鞄を開けた。
そこから、使い古されたボロボロのポーチを取り出す。
「……えっ?」
薬のシートを抜き取った先輩の動きが、ピタリと止まった。
いつも余裕たっぷりに微笑んでいるはずの彼の顔が、一瞬で凍りついたように無機質になる。
「……これ、何?」
「え……? 薬、ですけど……」
「違う。そうじゃない。……なんで、使用期限が『一年前』で止まってるんだよ」
先輩の指が、薬の裏面に印字された日付をなぞる。
その指が、怒りでわななき始めていた。
「半年どころじゃない……一年前だ。これ、劇薬に近い成分なんだよ? こんな劣化したものを、今の君に飲ませたら……っ」
先輩は私を睨むように見つめた。
いや、私ではなく、私の背後にいる「家族」という化け物を見ているようだった。
「……お母さんが、まだあるからそれを飲めって……。病院は、お金がかかるから……
兄の大学進学のために必要だからって。」
「っ、ふざけんなよ……!」
先輩が初めて、声を荒らげた。
でも、すぐに自分の失態に気づいたように、「……ごめん。怖がらせるつもりはなかった」と、私の手を握りしめる。
「……もういい。全部わかった。君が今まで、どんな地獄にいたのかも」
先輩の瞳には、もう「王子様」の欠片もなかった。
そこにあるのは、獲物を家族の手から奪い取ろうとする、冷徹で狂おしいほどの執着だった。