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途中少々残酷な表現(流血表現等)があります
苦手な方は回れ右推奨
何処かから鳥の囀りが聞こえてくる。暁を告げる光が所狭しと暗闇を押しのけるようにして広がっていく。
まだ重い瞼を擦りながらもつくづく幻想的な風景だと楓は心底思う。
「もう朝?...やっぱり澄霞さんは居ないか。」
優れた医術を持つ澄霞は度々町の病院に行くこともある。そのため、朝は家に居ないことがほとんどなのだ。
「今日は試験の日だったから月波が来る前に準備を_
[大文字]「楓ぇぇぇ!!!!!!」[/大文字]
朝の静けさをぶち壊し,鶏も顔負けの声の大きさ。
(この声は間違いなく...)
(月波の声...)
楓の予想はもちろん間違っていなかった。声の主はもちろん月波だ。その後ろにはなぜか建さんも立っていた。そして彼は楓が扉を開けて出てくるなり月波が何か言う前に口を開いた開いた。
「朝から騒がしいと思ったら神鳥谷んとこの嬢ちゃんか。二人は今日試験なんだってな?頑張れよ」
と言いたいことだけ言い,微笑んでみせると二人の返事を待たずに去っていった。
「いきなり出てきたと思ったらもうどっか行っちゃったよ...せっかちだなぁ。」
呆れたような顔で建さんの後ろ姿を見てつぶやく月波。
(月波も人のこと言えないと思うけど...)
苦笑いする楓の思いをよそに、彼女はさらに口を開く。
「まぁいっか。それよりも楓,支度できた?」
「すぐ終わるからちょっと待ってて!!!()」
******
十数分後。
「にしても毎回毎回この森を通っていくのも面倒だよね。何で先生はこんな森の奥に道場をつくったんだろう。」
寺子屋へと向かい青を踏む月波からはどことなく不服そうな様子がうかがえた。
「だったらあっちに着いたら__
「その必要はないぞ!!!!」
先生に聞いてみよう,という楓の提案は背後から聞こえてきた声によって遮られた。
声のした方に顔を向けると、そこには上田 零斗(うえだ れいと)とその幼馴染の伊十院 勢奈(いじゅういん せな)が立っていた。
「お,零斗と勢奈じゃん。いつもより早いね?」
背後の2人の存在に気付いた月波が振り向き返事をする。
「こんな日にいつもより早く来るのは当然だろー?」
と,得意げに胸を張って答える零斗。さらに彼の後ろから顔を覗かせた勢奈が遠慮がちに言う。
「まあ、こんな日に遅刻されたら困っちゃうからね。私が早めに行こうって誘ったの」
「あ,おい!それは言ったらダメだろ?!」
慌てる零斗。
「そんなことだろうと思ったよ。__で?その必要はないってどういうことなの?」
零斗の遅刻癖はすでに理解している月波は,先ほどの彼の言葉が気がかりなようだ。
「あー,それか。それはだな...つまり...」
つい先ほどまで自信満々だった零斗の表情は次第に曇っていく。
「ちょっと待て。__あれこれ何て言ったら......
「この前先生に聞いてみたんだよね」
言葉に詰まる零斗を見かねた勢奈が助け船を出す。
「そうそうそれだ!で_「先生は道場に来るまでの道も訓練の一環だって言ってたよ。あえて遠い森の奥にしてるんだって。」
隣でしかめっ面をしてみせている幼馴染にはおかまいなしで話を進める勢奈。
「それに私達生徒って自分の能力をうまく制御できないこともあるでしょう?だから周りに被害が及ばないようにするためでもあるらしいよ。」
「あー,確かに。それは納得かも。この前陽太が火力ミスってあやうく山火事になるところだったし。」
友人の失敗を思い出し言う月波は勢奈の解説にご満悦の様子だった。
「じゃあ謎もとけたことだし道場に向かうとしますかねー」
再び歩き始める一同であった。
******
「おーし,思ったよりも早くついたな!俺たちが一番乗りか?!」
周りが静まり返っているあたり,零斗の言葉は間違ってはいないだろう。
「そうみたいだね。__ねぇ、せっかく四人いるんだし,2対2の模擬戦、してみない?」
「2対2...普段はあまりやらないし,いいかも。」
月波の提案に勢奈とほとんど同時に楓が応えた。
それに気づいた2人はお互い顔を見合わせ朗らかな笑みを浮かべる。
「じゃあ今回はあんまり組まない組み合わせでやろうぜ」
「おお!珍しく零斗がまともな提言をしてる」
「失礼だな?!俺だってちゃんとした...[小文字]ていげん?[/小文字]くらいできるぞ!!」
毎度恒例月波と零斗の一悶着を前に,残された2人はただ苦笑することしか出来なかった。
******
「じゃあいくぞ__楓!」
「うん!」
先程の一悶着が終わる頃には他の生徒も次第に集まってきていた。
中には4人の模擬戦に興じる者も。
「楓と零斗ってあんまり見ないコンビだよな。」
「組み合わせ的に月波と勢奈の方が有利かも?」
「4人ともがんばれ~」
「検定直前まで模擬戦とは熱心だね。良い心がけだ。」
いつの間にか楓たちに声援をおくる小さな群衆の中に先生__この寺子屋を営む,[漢字]朝霧[/漢字][ふりがな]あさぎり[/ふりがな] [漢字]冬晴[/漢字][ふりがな]とうせい[/ふりがな]が立っていた。
「わっ?!先生!!いつの間にそこに?」
突如として自分の真隣に現れた冬晴を前に,生徒たちは驚きを隠せないようだった。
「さて...盛り上がっているところ悪いが時間だ。そこの4人,そろそろ始めるぞ。」
と,真剣そのものの顔で竹刀で打ち合う楓と勢奈や魔法陣を展開しかけている月波と零斗に冬晴は呼びかける。
「「は,はーい!」」
「「りょうかーい」」
少々慌てて他の生徒たちのもとに駆けつけながらも,最初のいざこざが無ければもう少し続けられたのではないかと思う4人であった。
******
「さて,以前から言っていた能力検定試験だが,いよいよ今日が本番となった。各位,自分の力を最大限に発揮するように。」
そう言い生徒たちを優しい眼差しで見回す冬晴の言葉からは激励の意が感じとれる。
寺子屋内は緊張という二文字に場を支配されていた。
そんな中でも一人,手を挙げた者が。
「はーい,先生!けんてんはもぎ戦の様子を見て決めるって言ってましたけど対戦相手の組み合わせはどうするんですか」
「それは今から発表するよ。...ところで零斗君、何度も言うが''けんてん''ではなく''けんてい''だ。」
「ええっ!?」
零斗が出した素っ頓狂な声に一同は大爆笑する。
そこからは彼のおかげで場が和んだということもあり,説明は円滑に事を運んでいった。
東の空から姿を現した日輪は南東の空からやわらかい光で辺りを照らしている。今日みたいな日にはもってこいの[漢字]好晴[/漢字][ふりがな]こうせい[/ふりがな]だった。
「いい天気だね~!さてさて、私の対戦相手は誰かな~?」
雲一つない快晴の空を見上げながら月波が言う。
検定の合否は生徒同士の模擬戦によって決まる。
「先生は勝ち負けだけでは判断しないって言ってたけどやっぱり自分より強い相手だったら心もとないよね」
冬晴が出した対戦表を見ながらつぶやく月波に陽太が返答する。
「お,陽太じゃん。今日は火力の加減,気を付けてよね?」
[漢字]榎本[/漢字][ふりがな]えのもと[/ふりがな] [漢字]陽太[/漢字][ふりがな]ようた[/ふりがな]。月波や楓と同じ寺子屋の生徒の一人である。先程楓たちが寺子屋に向かう際に''火力の制御をミスった奴''として挙げられた人物だ。
「あ,あはは~...今日は大丈夫だよ...多分。」
決まり悪そうに苦笑いする陽太。
「あ,対戦表,月波の名前あったよ!」
どうやら彼は話を逸らすことに必死のようだ。そんなことはつゆ知らずの月波はその策にまんまと嵌められている。
「本当だ!!あ,楓の名前もすぐ下にあるじゃん!おーい楓~楓の対戦相手分かったよ~」
そばで勢奈と談笑している楓に向かって月波は嬉しそうに呼びかける。
そんな彼女の様子に密かに胸をなでおろす陽太であった。
******
第一回戦。
初戦は零斗と陽太の試合だった。
「構え。」
生徒たちが固唾を呑んで2人の試合を見る中,冬晴の声だけが辺りに響く。
「始め!」
その声を合図に両者共魔法陣を展開する。浮かび上がった魔法陣からは瞬時に炎やら岩やらが出現した。
「さぁーて,この前の続き,ここでやろうじゃんか。」
そう言った陽太はゆらゆらと紅く燃える炎を手に纏わせながら目の前にいる零斗を真っ直ぐ指す。
「それはこっちのセリフだね!!」
そう言う彼の手に現れた小さめの岩は次第に変形していき,数秒を経たのちに剣のような形になった。
「手加減なしの恨みっこなしだからな!!」
そう言い零斗は陽太に勢いよく飛びかかる。そんなこと分かってるよ,とでも言いたげに頷いた陽太は零斗の攻撃を次々にかわしていく。
「相変わらず初手から容赦なく突っ込んでくるねー...じゃ、次はこっちの番ね!」
陽太の手から飛び出していった十数個の火球は一斉に零斗の方へと飛んで行った。しかし、それは突如として現れた岩の壁によって霧散してしまう。
「そっちこそ初手で火球を飛ばしてくんの,変わんないよね~ ま,俺にはこれがあるから効かないんだけどね」
そう言い零斗が軽く指を鳴らすと,先程までそびえていた岩壁は一瞬のうちにして崩れていった。
(そうだった...零斗にはあれがあったんだった。いつもあの壁のせいで攻撃が通りずらいっていうか...。)
どうしたものかと考える陽太の頭上には石片が多数。
「ッ!!!」
間一髪で飛んでくる石片を避け,先程の火球で残りを相殺する。
(危な...壁もどうにかしたいところだけどじっくり考えてる暇はないか。)
「陽太,押されてるね。大丈夫かな?」
2人の様子を見守っている生徒の1人,[漢字]谷崎[/漢字][ふりがな]たにざき[/ふりがな] [漢字]鏡子[/漢字][ふりがな]きょうこ[/ふりがな]が心配げに呟く。
「零斗は攻撃も防御もできるからバランスがいいんだよねー」
と月波。
「でも陽太は防御が不得意な分零斗よりも火力高いからなー...」
数日前に二人が行っていた練習試合を思い出しながら彼女はさらにこう付け加えた。
「どちらも己の強みを活かした良い戦いをしていると思うよ。これは合否の判断も難しいな」
衝突する二人をじっと観察している冬晴がが口をはさむ。
「ですよね,先生!!二人とも自分たちの長所を最大限に発揮していてとても良い戦いをしていると私も思います!」
「鏡子は相変わらず先生が好きだねー...先生と話す時だけハイテンションじゃん。[小文字]ていうか言ってることほとんど先生と変わってないし...[/小文字]
冬晴を前にした途端やけに饒舌になる鏡子に苦笑する月波だった。
******
普段とはまるで違った能力の使い方をしてくる零斗に陽太は苦戦していた。近づいて攻撃するにも遠距離攻撃を仕掛けるにしても結界のような役割をしている岩の壁が厄介だった。
それにより迂闊に近づくことすらままならない。
(あの壁に弱点とかあればな.....)
陽太が千思万考する中でも零斗の勢いは収まらない。
むしろ火に油でも注いだかのようにその勢いは増していった。
「もう降参とか言わないよな?陽太!」
どこか勝ち誇ったような口ぶりでまたもや突っ込んでこようとしている零斗。
「そんなわけないだろ?」
絶対に最後まで諦めない。
陽太はこの試合が始まる前からそう心に誓っていた。
(取り敢えず一旦ここは距離をとるか)
「__爆炎火球。」
陽太の言葉と同時に無数の火球が零斗の周辺に出現した。
しかし,その火球は先程飛ばしたものとは違い,動く様子はなくただ浮かんでいるだけのものだった。
「.......??」
攻撃する素振りを見せない火の玉のようなものを目にした零斗は混乱していた。
(この技は今日のためにみんなには秘密で練習してきた。これを使えば...!!)
「爆散!!」
その言葉を合図に,陽太の反撃が始まることとなる。