「失礼します。上級戦闘員の[漢字]霧間澪[/漢字][ふりがな]きりまみお[/ふりがな]です。お話があり参りました」
「失礼します。上級戦闘員の[漢字]瑞穂國[/漢字][ふりがな]みほぐに[/ふりがな][漢字]撫子[/漢字][ふりがな]なでしこ[/ふりがな]です。私からも同様の話ありますので参りました」
返答を待つ。無理矢理ついてきたが、私と最高司令官は全くといっていいほど接点がないのにいきなり押しかけたから迷惑だろうか。
でも、私も妖の報告をしたいし……。でもやっぱり押しかけたから迷惑だろうか。私の思考がぐるぐる堂々巡りを始めた頃、やっと返答があった。少し高い女性の声。
「あ、部屋の中へどうぞ。私が呼び出した澪さんはもちろん、撫子さんも」
よかった。受け入れてもらえた。安心している私に対して、澪さんがこちらを見て頷きドアを開ける。こじんまりとした部屋の中に女の人が座っている。
小さな窓がひとつと大きな本棚。奥の赤い椅子には[漢字]焦茶色[/漢字][ふりがな]こげちゃいろ[/ふりがな]の長い髪の毛の、白いパーカーを着た女の人。あの人が最高司令官?
「改めまして。ようこそ、上位戦闘員の霧間澪および瑞穂國撫子。私は[漢字]弛夢琳[/漢字][ふりがな]たゆり[/ふりがな][漢字]彩[/漢字][ふりがな]あや[/ふりがな]と申します。一応最高司令官をしております」
丁寧な人だな、と思った。最高司令官である彩様よりも下の階級でも、もっと威張っている人はたくさんいるのに。
「早速本題に入りましょう。今回は澪さんの任務で幽霊の対応していたが、いきなり怨霊に進化したと報告を受けたんですが……」
「私が対応していた幽霊は、突然怨霊に進化したんだと思います。どこからか少年のような明るい声が聞こえてきた瞬間、喋らないはずの幽霊が『あなたに報いる為に』って」
澪さんが言うには、「明るい少年のような声」。私は儚い不思議な声?だと思ったんだけどな。
もしかしたら澪さんが聞いた声と私の聞いた声と違うのか……?
「幽霊が話した?それに少年の声?『報いる為』?どういうことですか?もしかしてっ⁉︎」
彩様が驚いた顔をして、そして息を呑んだ。その後、さーっと血の気が引いて顔が青くなる。
焦茶色の長い髪が、微かに震えている。パーカー姿の最高司令官から、見たこともないほどの緊張感が放たれた。最高司令官の椅子に深く沈み込むように座り直すのを見て、私も血の気が引いた。これは私が行った任務とは比べ物にならないほどの、この組織の根幹に関わる事態なのではないか?
私の血の気が引いたのは、最高司令官の顔が青ざめているから[漢字]だけ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]ではない。昨日、白狐は「厄介な奴に関わるな」と警告した。あの傲慢で、私が知る限り最強の式神が「厄介」と呼ぶ存在。それは、私たちが持つ全ての常識と力量をたった一瞬で無意味にする脅威かもしれない。もし、この組織の敵に白狐を召喚したら、寿命の1日では済まないのかもしれない――そんな底知れない恐れに、私は立っていられなくなりそうだった。
彩様は、震える手で机上の手帳を掴むと、呼吸を忘れたように一気に捲り出した。パラパラと室内に、焦燥の音が響き渡る。澪さんと私は顔を見合わせているしかなかった。
[水平線]
果てしなく続くと思われるよな空気を破り、彩さんがパッと顔を上げた。やっぱり顔が青ざめているように見える。
「ありました!やっぱり、『妖を強化する術式』の記述が!この術式は、はるか昔、1000年ほど前にも一度確認されていた禁忌の術式。消失していたと思われていましたが、まだ滅びていなかったのですか……!」
彩様は息を整えると、私たちをまっすぐ見すえた。
「そして、この術式を使う組織が一つあると書かれています。正式名称は不明。ですが、古代より我が式神総管理局と敵対してきた『霊力で大和国の支配を目論む組織』の構成員が、かつてこの情報を吐いた記録が残っています。今回の事件は、彼らの仕業だと考えるのが妥当でしょう」
最高司令官の言葉は、あまりにも重すぎた。幽霊が怨霊に変わったという異常事態、そして1000年続く敵対組織の再始動。
澪さんはゴクリと喉を鳴らし、顔を引きつらせている。私の脳裏には、鬼を強化した幼く儚い声が響く。白狐がいたから助かったけど、私一人だったら今、きっとこの場にはいない。あのとき凍った足がじくじくと痛みを主張している。
部屋に重い沈黙が落ちる。最高司令官の執務室とは思えないほど、暗い雰囲気がこの場を支配していた。
「失礼します。上級戦闘員の[漢字]瑞穂國[/漢字][ふりがな]みほぐに[/ふりがな][漢字]撫子[/漢字][ふりがな]なでしこ[/ふりがな]です。私からも同様の話ありますので参りました」
返答を待つ。無理矢理ついてきたが、私と最高司令官は全くといっていいほど接点がないのにいきなり押しかけたから迷惑だろうか。
でも、私も妖の報告をしたいし……。でもやっぱり押しかけたから迷惑だろうか。私の思考がぐるぐる堂々巡りを始めた頃、やっと返答があった。少し高い女性の声。
「あ、部屋の中へどうぞ。私が呼び出した澪さんはもちろん、撫子さんも」
よかった。受け入れてもらえた。安心している私に対して、澪さんがこちらを見て頷きドアを開ける。こじんまりとした部屋の中に女の人が座っている。
小さな窓がひとつと大きな本棚。奥の赤い椅子には[漢字]焦茶色[/漢字][ふりがな]こげちゃいろ[/ふりがな]の長い髪の毛の、白いパーカーを着た女の人。あの人が最高司令官?
「改めまして。ようこそ、上位戦闘員の霧間澪および瑞穂國撫子。私は[漢字]弛夢琳[/漢字][ふりがな]たゆり[/ふりがな][漢字]彩[/漢字][ふりがな]あや[/ふりがな]と申します。一応最高司令官をしております」
丁寧な人だな、と思った。最高司令官である彩様よりも下の階級でも、もっと威張っている人はたくさんいるのに。
「早速本題に入りましょう。今回は澪さんの任務で幽霊の対応していたが、いきなり怨霊に進化したと報告を受けたんですが……」
「私が対応していた幽霊は、突然怨霊に進化したんだと思います。どこからか少年のような明るい声が聞こえてきた瞬間、喋らないはずの幽霊が『あなたに報いる為に』って」
澪さんが言うには、「明るい少年のような声」。私は儚い不思議な声?だと思ったんだけどな。
もしかしたら澪さんが聞いた声と私の聞いた声と違うのか……?
「幽霊が話した?それに少年の声?『報いる為』?どういうことですか?もしかしてっ⁉︎」
彩様が驚いた顔をして、そして息を呑んだ。その後、さーっと血の気が引いて顔が青くなる。
焦茶色の長い髪が、微かに震えている。パーカー姿の最高司令官から、見たこともないほどの緊張感が放たれた。最高司令官の椅子に深く沈み込むように座り直すのを見て、私も血の気が引いた。これは私が行った任務とは比べ物にならないほどの、この組織の根幹に関わる事態なのではないか?
私の血の気が引いたのは、最高司令官の顔が青ざめているから[漢字]だけ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]ではない。昨日、白狐は「厄介な奴に関わるな」と警告した。あの傲慢で、私が知る限り最強の式神が「厄介」と呼ぶ存在。それは、私たちが持つ全ての常識と力量をたった一瞬で無意味にする脅威かもしれない。もし、この組織の敵に白狐を召喚したら、寿命の1日では済まないのかもしれない――そんな底知れない恐れに、私は立っていられなくなりそうだった。
彩様は、震える手で机上の手帳を掴むと、呼吸を忘れたように一気に捲り出した。パラパラと室内に、焦燥の音が響き渡る。澪さんと私は顔を見合わせているしかなかった。
[水平線]
果てしなく続くと思われるよな空気を破り、彩さんがパッと顔を上げた。やっぱり顔が青ざめているように見える。
「ありました!やっぱり、『妖を強化する術式』の記述が!この術式は、はるか昔、1000年ほど前にも一度確認されていた禁忌の術式。消失していたと思われていましたが、まだ滅びていなかったのですか……!」
彩様は息を整えると、私たちをまっすぐ見すえた。
「そして、この術式を使う組織が一つあると書かれています。正式名称は不明。ですが、古代より我が式神総管理局と敵対してきた『霊力で大和国の支配を目論む組織』の構成員が、かつてこの情報を吐いた記録が残っています。今回の事件は、彼らの仕業だと考えるのが妥当でしょう」
最高司令官の言葉は、あまりにも重すぎた。幽霊が怨霊に変わったという異常事態、そして1000年続く敵対組織の再始動。
澪さんはゴクリと喉を鳴らし、顔を引きつらせている。私の脳裏には、鬼を強化した幼く儚い声が響く。白狐がいたから助かったけど、私一人だったら今、きっとこの場にはいない。あのとき凍った足がじくじくと痛みを主張している。
部屋に重い沈黙が落ちる。最高司令官の執務室とは思えないほど、暗い雰囲気がこの場を支配していた。