修道院を抜け出してから、まだ太陽は昇りきっていなかった。朝の空気は冷たく、草に残る露がアストの足を濡らす。
それでも、胸の奥は不思議と温かかった。
「……外って、こんなに静かなんだね」
アストが呟くと、フィアは振り返って笑った。
「うん。修道院の鐘の音がないと、世界って広く感じるでしょ?」
アストは頷いた。
生まれてからずっと、石の壁に囲まれた生活だった。
外の世界は、想像よりもずっと大きくて、
風の匂いも、光の色も、全部が新鮮だった。
「でも、ここからが本番だよ」
フィアは少し真剣な顔になる。
「追手が来る前に、できるだけ距離を取らなきゃ」
アストは胸の黒星に手を当てた。
まだ微かに脈打っている。
「……僕のせいで、フィアまで危険に巻き込んでる」
「アスト」
フィアは歩みを止め、アストの前に立った。
その瞳はまっすぐで、揺らぎがない。
「私は自分で決めたんだよ。アストをひとりにしないって。だから“巻き込まれた”なんて思ってない」
アストは言葉を失った。
誰かが自分のために“選んでくれる”なんて、
今まで一度もなかった。
「それにね」
フィアは空を見上げる。
「アストの黒星が光ったのは、偶然じゃない。星図が開いたのも、アストが触れたから。アストが動かなきゃ、何も始まらないよ」
アストは胸の奥が熱くなるのを感じた。
怖さよりも、前に進みたい気持ちが勝っていく。
「……行こう。僕の中の“これ”が何なのか、知りたい」
フィアは嬉しそうに笑った。
「うん。じゃあまずは谷を越えよう。王都に向かう道は危ないから、別のルートで行くよ」
ふたりは歩き出した。
修道院の影が遠ざかり、風が背中を押すように吹き抜ける。
しばらく歩くと、小さな丘に出た。
そこからは、修道院の屋根が小さく見える。
アストは思わず立ち止まった。
「……あそこに、ずっといたんだ」
「うん…。でも、もう戻らないよ」
「フィア」
「なに?」
「外に連れ出してくれて……ありがとう」
フィアは一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに照れたように笑った。
「ううん。アストが“行く”って言ってくれたからだよ。私はただ、風を少し押しただけ」
アストはその言葉に胸が温かくなるのを感じた。
[水平線]
丘を下りると、森が広がっていた。
鳥の声、木々のざわめき、土の匂い。
アストはひとつひとつを確かめるように歩いた。
「この先の谷を越えたら休憩しよ。そこから先は、ちょっと危ないから」
アストは頷いた。
胸の黒星が、また静かに脈打つ。
まるで――
この先に“何か”が待っていると告げるように。
ふたりは森の奥へと進んでいった。
新しい世界へ。
まだ知らない真実へ。
それでも、胸の奥は不思議と温かかった。
「……外って、こんなに静かなんだね」
アストが呟くと、フィアは振り返って笑った。
「うん。修道院の鐘の音がないと、世界って広く感じるでしょ?」
アストは頷いた。
生まれてからずっと、石の壁に囲まれた生活だった。
外の世界は、想像よりもずっと大きくて、
風の匂いも、光の色も、全部が新鮮だった。
「でも、ここからが本番だよ」
フィアは少し真剣な顔になる。
「追手が来る前に、できるだけ距離を取らなきゃ」
アストは胸の黒星に手を当てた。
まだ微かに脈打っている。
「……僕のせいで、フィアまで危険に巻き込んでる」
「アスト」
フィアは歩みを止め、アストの前に立った。
その瞳はまっすぐで、揺らぎがない。
「私は自分で決めたんだよ。アストをひとりにしないって。だから“巻き込まれた”なんて思ってない」
アストは言葉を失った。
誰かが自分のために“選んでくれる”なんて、
今まで一度もなかった。
「それにね」
フィアは空を見上げる。
「アストの黒星が光ったのは、偶然じゃない。星図が開いたのも、アストが触れたから。アストが動かなきゃ、何も始まらないよ」
アストは胸の奥が熱くなるのを感じた。
怖さよりも、前に進みたい気持ちが勝っていく。
「……行こう。僕の中の“これ”が何なのか、知りたい」
フィアは嬉しそうに笑った。
「うん。じゃあまずは谷を越えよう。王都に向かう道は危ないから、別のルートで行くよ」
ふたりは歩き出した。
修道院の影が遠ざかり、風が背中を押すように吹き抜ける。
しばらく歩くと、小さな丘に出た。
そこからは、修道院の屋根が小さく見える。
アストは思わず立ち止まった。
「……あそこに、ずっといたんだ」
「うん…。でも、もう戻らないよ」
「フィア」
「なに?」
「外に連れ出してくれて……ありがとう」
フィアは一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに照れたように笑った。
「ううん。アストが“行く”って言ってくれたからだよ。私はただ、風を少し押しただけ」
アストはその言葉に胸が温かくなるのを感じた。
[水平線]
丘を下りると、森が広がっていた。
鳥の声、木々のざわめき、土の匂い。
アストはひとつひとつを確かめるように歩いた。
「この先の谷を越えたら休憩しよ。そこから先は、ちょっと危ないから」
アストは頷いた。
胸の黒星が、また静かに脈打つ。
まるで――
この先に“何か”が待っていると告げるように。
ふたりは森の奥へと進んでいった。
新しい世界へ。
まだ知らない真実へ。