レゾナンス・アカデミア地下七層。
普段は封鎖されている巨大な訓練区画に、十五名の新入生が集められていた。
中央には、淡く光る球体――模擬花蝕域粒子チャンバー。
天城博士が静かに言う。
「今日から、あなた達には“実戦訓練”を受けてもらいます」
空気が一気に張り詰めた。みやが小声で呟く。
「じ、実戦……? なんとかなるよね……?」
「なんとかならないから訓練するのよ」
栞が冷静に返す。
その隣で、栞と同じ顔立ちの少女が魔導書を抱えて立っていた。
青井茜。栞の双子の妹。
「お姉ちゃん、……言われなくてもわかってるよ」
茜は魔導書を開きながら、静かに呟く。
博士が手を上げた。
「では、開始」
チャンバーが淡く光り、内部に粒子が満ちていく。 空気が震え、温度がわずかに下がった。
[水平線]
「まずは、十朱みや」
「えっ、僕!?」
みやは慌てて前に出る。
「が、がんばる……!」
深呼吸し、声を放つ。――瞬間。
[大文字]「うわっ……!」[/大文字]
粒子が一気に暴れ、チャンバーの壁が軋んだ。栞が叫ぶ。
「みや、強すぎる! 音圧が粒子を刺激してる!」
「ご、ごめんっ!!」
茜が魔導書を開いた。
「お姉ちゃん、式合わせるよ!」
「お願い」
栞が短く返す。二人の声が重なり、みやの暴走音を“軌道修正”する。
零音の低音が深く沈み、粒子の底を押さえ込む。
みやの声が安定し始めた――その時。
如月がふわりと笑いながら、わざと揺らぎの声を重ねた。
「ん〜……ちょっとだけ、混ぜてみましょうか」
「如月、やめ――」
栞が止めるより早く、粒子が一気に乱れた。
「きゃっ……!」
さなが転びそうになり、ユウキが支える。
「大丈夫か」
「う、うん……!」
音羽が眉をひそめる。
「……その揺らぎ、最悪です。純度が落ちます」
如月は笑った。
「嘘ですよ〜。……ほんとは、ちょっと楽しいです」
星羅の目が細くなる。
「……おねーちゃん、だめだよ」
博士が声を張る。
「ユウキ、固定を!」
「……了解」
ユウキが一歩前に出る。 揺れない高音が響き、暴れる粒子が一瞬で静止した。
零音が小さく呟く。
「……綺麗」
音羽も息を呑む。
「純度……高い……」
茜が魔導書を閉じる。
「……あれは、式が組みやすい声」
如月は目を細めた。
「んふふ……やっぱり、あなたの声は特別ですねぇ」
みやは肩で息をしながら言った。
「はぁ……はぁ……なんか僕、足引っ張ってない……?」
栞が本を閉じるような静かな声で言う。
「引っ張ってるわよ。でも……必要よ」
みやの目が潤む。
「……ほんと?」
茜が優しく言う。
「あなたの声がなければ、突破口は作れない。……最大出力は危険だけどね」
星羅が笑う。
「みや君、がんばったね〜!」
さながぴょんと跳ねる。
「みやセンパイ、すごかったよ!」
如月はふわりと笑う。
「嘘じゃないですよ〜。ほんとに」
みやは涙を拭いながら笑った。
「……なんとか、なるかも」
[水平線]
博士が全員を見渡す。
「今日の訓練はここまでだ。 だが覚えておけ。 ――実戦では、今の数倍の粒子が相手だ」
ユウキは拳を握った。
(……まだ足りない。もっと強くならないと)
その時、零音が袖を引いた。
「……ユウキ様。大丈夫ですか」
「……ああ。ありがとう」
(……この声で、守らないと)
訓練室の照明が落ち、静寂が戻る。だがその静寂は、次に訪れる“本物の戦い”の前触れだった。
[水平線]
実戦訓練から数時間後。
アカデミアの寮の談話室には、重い空気が漂っていた。
みやはソファに座り込み、頭を抱えている。
「……僕、やっぱり足引っ張ってるよね……」
栞がため息をつく。
「必要って言われてもさ……僕、怖かったんだよ……!」
みやの声が震えた。茜が魔導書を抱えたまま、静かに言った。
「無計画すぎるのよ、みやさん。 あなたの声は“式”が組みにくいの。 ……でも、突破力は本物」
「うぅ……褒められてるのか怒られてるのかわかんない……!」
「んふふ……怒られてますよ〜。嘘ですけど」
星羅が如月の袖を握りながら言う。
「おねーちゃん、いじわるしないで〜」
「いじわるじゃないですよ。 ……本音じゃないですし」
音羽が静かに口を開く。
「如月さんの“揺らぎ”が悪いんです。 純度が落ちます」
如月の笑みが一瞬だけ止まる。
「……へぇ。あなた、正直ですねぇ。」
反おねーちゃん人物の接近に、星羅が硬い声を出した。
「……おねーちゃんの声、雑音じゃないよね?」
音羽は一歩も引かない。
「雑音だなんて一言も言っていません。 ただ純度が低いと言っているだけじゃないですか」
ユウキは全員を見渡し、深く息を吸った。
「……落ち着け。 今日の訓練は、全員が限界だった。 誰が悪いとかじゃない」
みやが顔を上げる。
「ユウキ……僕、ほんとに必要……?」
ユウキは即答した。
「必要だ。 みやの声がなければ、粒子は動かない」
「……そっか……」
だが、その瞬間。如月がふわりと笑った。
「んふふ……でも、ユウキさんと零音さんがいれば、最低限はどうにかなりますかねぇ?」
みやの表情が固まる。栞が鋭く言う。
「如月、それは――」
「嘘ですよ〜。……嘘ですけど」
星羅が如月の袖をぎゅっと握る。
「おねーちゃん、だめ……」
茜が魔導書を閉じる音が響く。如月は笑ったまま、目だけが笑っていなかった。
「……壊れるなら、その程度だったってことですよ」
音羽が立ち上がる。
「……あなたの声、嫌いです」
零音が静かに言う。
「……喧嘩、やめて」
だが、誰も止まらない。ユウキは拳を握りしめた。
(……まずい。このままじゃ――)
その時。
天城博士が談話室の扉を開けた。
「全員、準備をしなさい。 ――花蝕域が、市街地に出た」
空気が凍りついた。
「初任務だ。 今のままでは……死ぬぞ」
全員の喉が、同時に鳴った。
普段は封鎖されている巨大な訓練区画に、十五名の新入生が集められていた。
中央には、淡く光る球体――模擬花蝕域粒子チャンバー。
天城博士が静かに言う。
「今日から、あなた達には“実戦訓練”を受けてもらいます」
空気が一気に張り詰めた。みやが小声で呟く。
「じ、実戦……? なんとかなるよね……?」
「なんとかならないから訓練するのよ」
栞が冷静に返す。
その隣で、栞と同じ顔立ちの少女が魔導書を抱えて立っていた。
青井茜。栞の双子の妹。
「お姉ちゃん、……言われなくてもわかってるよ」
茜は魔導書を開きながら、静かに呟く。
博士が手を上げた。
「では、開始」
チャンバーが淡く光り、内部に粒子が満ちていく。 空気が震え、温度がわずかに下がった。
[水平線]
「まずは、十朱みや」
「えっ、僕!?」
みやは慌てて前に出る。
「が、がんばる……!」
深呼吸し、声を放つ。――瞬間。
[大文字]「うわっ……!」[/大文字]
粒子が一気に暴れ、チャンバーの壁が軋んだ。栞が叫ぶ。
「みや、強すぎる! 音圧が粒子を刺激してる!」
「ご、ごめんっ!!」
茜が魔導書を開いた。
「お姉ちゃん、式合わせるよ!」
「お願い」
栞が短く返す。二人の声が重なり、みやの暴走音を“軌道修正”する。
零音の低音が深く沈み、粒子の底を押さえ込む。
みやの声が安定し始めた――その時。
如月がふわりと笑いながら、わざと揺らぎの声を重ねた。
「ん〜……ちょっとだけ、混ぜてみましょうか」
「如月、やめ――」
栞が止めるより早く、粒子が一気に乱れた。
「きゃっ……!」
さなが転びそうになり、ユウキが支える。
「大丈夫か」
「う、うん……!」
音羽が眉をひそめる。
「……その揺らぎ、最悪です。純度が落ちます」
如月は笑った。
「嘘ですよ〜。……ほんとは、ちょっと楽しいです」
星羅の目が細くなる。
「……おねーちゃん、だめだよ」
博士が声を張る。
「ユウキ、固定を!」
「……了解」
ユウキが一歩前に出る。 揺れない高音が響き、暴れる粒子が一瞬で静止した。
零音が小さく呟く。
「……綺麗」
音羽も息を呑む。
「純度……高い……」
茜が魔導書を閉じる。
「……あれは、式が組みやすい声」
如月は目を細めた。
「んふふ……やっぱり、あなたの声は特別ですねぇ」
みやは肩で息をしながら言った。
「はぁ……はぁ……なんか僕、足引っ張ってない……?」
栞が本を閉じるような静かな声で言う。
「引っ張ってるわよ。でも……必要よ」
みやの目が潤む。
「……ほんと?」
茜が優しく言う。
「あなたの声がなければ、突破口は作れない。……最大出力は危険だけどね」
星羅が笑う。
「みや君、がんばったね〜!」
さながぴょんと跳ねる。
「みやセンパイ、すごかったよ!」
如月はふわりと笑う。
「嘘じゃないですよ〜。ほんとに」
みやは涙を拭いながら笑った。
「……なんとか、なるかも」
[水平線]
博士が全員を見渡す。
「今日の訓練はここまでだ。 だが覚えておけ。 ――実戦では、今の数倍の粒子が相手だ」
ユウキは拳を握った。
(……まだ足りない。もっと強くならないと)
その時、零音が袖を引いた。
「……ユウキ様。大丈夫ですか」
「……ああ。ありがとう」
(……この声で、守らないと)
訓練室の照明が落ち、静寂が戻る。だがその静寂は、次に訪れる“本物の戦い”の前触れだった。
[水平線]
実戦訓練から数時間後。
アカデミアの寮の談話室には、重い空気が漂っていた。
みやはソファに座り込み、頭を抱えている。
「……僕、やっぱり足引っ張ってるよね……」
栞がため息をつく。
「必要って言われてもさ……僕、怖かったんだよ……!」
みやの声が震えた。茜が魔導書を抱えたまま、静かに言った。
「無計画すぎるのよ、みやさん。 あなたの声は“式”が組みにくいの。 ……でも、突破力は本物」
「うぅ……褒められてるのか怒られてるのかわかんない……!」
「んふふ……怒られてますよ〜。嘘ですけど」
星羅が如月の袖を握りながら言う。
「おねーちゃん、いじわるしないで〜」
「いじわるじゃないですよ。 ……本音じゃないですし」
音羽が静かに口を開く。
「如月さんの“揺らぎ”が悪いんです。 純度が落ちます」
如月の笑みが一瞬だけ止まる。
「……へぇ。あなた、正直ですねぇ。」
反おねーちゃん人物の接近に、星羅が硬い声を出した。
「……おねーちゃんの声、雑音じゃないよね?」
音羽は一歩も引かない。
「雑音だなんて一言も言っていません。 ただ純度が低いと言っているだけじゃないですか」
ユウキは全員を見渡し、深く息を吸った。
「……落ち着け。 今日の訓練は、全員が限界だった。 誰が悪いとかじゃない」
みやが顔を上げる。
「ユウキ……僕、ほんとに必要……?」
ユウキは即答した。
「必要だ。 みやの声がなければ、粒子は動かない」
「……そっか……」
だが、その瞬間。如月がふわりと笑った。
「んふふ……でも、ユウキさんと零音さんがいれば、最低限はどうにかなりますかねぇ?」
みやの表情が固まる。栞が鋭く言う。
「如月、それは――」
「嘘ですよ〜。……嘘ですけど」
星羅が如月の袖をぎゅっと握る。
「おねーちゃん、だめ……」
茜が魔導書を閉じる音が響く。如月は笑ったまま、目だけが笑っていなかった。
「……壊れるなら、その程度だったってことですよ」
音羽が立ち上がる。
「……あなたの声、嫌いです」
零音が静かに言う。
「……喧嘩、やめて」
だが、誰も止まらない。ユウキは拳を握りしめた。
(……まずい。このままじゃ――)
その時。
天城博士が談話室の扉を開けた。
「全員、準備をしなさい。 ――花蝕域が、市街地に出た」
空気が凍りついた。
「初任務だ。 今のままでは……死ぬぞ」
全員の喉が、同時に鳴った。