その頃の自分を、今の自分は少しだけ他人のように思い出すことができる。まるで古い写真を眺めるみたいに、懐かしさと気恥ずかしさが同時に立ち上がってきた。
[水平線]
駅前のベンチに座って、意味もなくスマホを眺めていた午後。
特別な用事があるわけでもなく、急ぐ理由もないのに、なぜかじっとしていられなかった。
画面の中では誰かの成功や幸福が途切れなく流れていて、眩しすぎて目を細めながら、それでも指は勝手に更新を繰り返していた。
見なければいいのに、見てしまう。
比べなければいいのに、比べてしまう。
その矛盾を、当時の自分はうまく言葉にできなかった。
「自分は何をしているんだろう」
その問いは、問いというよりも、癖のようなものだった。答えが出ないとわかっていながら、暇さえあれば頭の中で転がしていた。
やりたいことは、確かにある気がした。
でもそれは霧のようで、掴もうとすると指の間からすり抜けてしまう。
焦りと諦めが、同じ場所に同居していた。
世界は眩しすぎて、正面から見る勇気がな買った。だから少し斜めから眺めて、全部わかっているふりをして、少し冷めた顔をしていた。
[太字]本当は何もわかっていなかったのに。[/太字]
大人ぶることでしか、自分を守る方法を知らなかった。
当時の自分は、それを「病」だとは思っていなかった。
ただ、生きるのが下手なだけだと感じていた。誰もが自然にできているように見えることが、自分にはどうしてもできない。
努力が足りないのか、才能がないのか。
そのどちらでもあるような気がして、どちらでもない気もしていた。
何か一つでも「これだ」と言えるものがあれば楽なのに、そういう確信だけがいつも欠けていた。
時間だけが、淡々と過ぎていった。
劇的な出会いも、人生が一変するような出来事もなく。相変わらず迷いはあったし、うまくいかないことの方が多かった。
それでもある日、ふと気づいた。
昔ほど、自分を責めなくなっていることに。
何かを達成したわけでも、明確な答えを手に入れたわけでもない。ただ、できない自分を殴り続けることに、少し疲れただけだったのかもしれない。
理想と現実の差は相変わらず大きくて、将来への不安も消えてはいなかった。
それでも、「まあ、こんなものか」と思える瞬間が、確かに増えていた。
その「まあ、こんなものか」は、諦めではなく、降参に近かった。
無理に抗うのをやめた、静かな降参。
久しぶりにあの駅前を通ったとき、同じベンチに別の若者が座っていた。スマホを見つめる横顔は、かつての自分と驚くほどよく似ていた。
少し前屈みで、肩に力が入っていて、どこか所在なさげな表情。
声をかけることはしなかった。
かける言葉なんて、きっと当時の自分には届かなかっただろうから。
ただ心の中で、「それ、たぶん青春病だよ」とだけつぶやいた。
治す必要はない。
無理に意味を見つけなくてもいい。
焦って答えを出さなくても、置いていかれるわけじゃない。ただ、確かにそういう時期があったと、いつか言えるようになる。
あの不安定さも、拗らせた自意識も、過剰な自己否定も、全部まとめて自分だったのだと、後からなら言えるようになる。
それは黒歴史でも、失敗作でもなく、ちゃんと通ってきた道だった。
[水平線]
帰り道、少しだけ足取りが軽かった。
理由は特にない。
世界が急に優しくなったわけでも、自分が立派になったわけでもない。
ただ、過去の自分を思い出して、少しだけ許せた気がした。
青春病は完治しない。
ふとした拍子に、また症状は顔を出す。誰かと比べて落ち込んだり、自分の価値を見失いそうになったりする。
それでも、以前のように振り回されることは減っていく。症状と、少し距離を取れるようになる。
それで十分なのだと、ようやく思えた。
うまく生きられなくても、迷いながらでも、生きていくことはできる。そう思えた夜、駅前のベンチはもう、少しだけ遠い場所になっていた。
[水平線]
駅前のベンチに座って、意味もなくスマホを眺めていた午後。
特別な用事があるわけでもなく、急ぐ理由もないのに、なぜかじっとしていられなかった。
画面の中では誰かの成功や幸福が途切れなく流れていて、眩しすぎて目を細めながら、それでも指は勝手に更新を繰り返していた。
見なければいいのに、見てしまう。
比べなければいいのに、比べてしまう。
その矛盾を、当時の自分はうまく言葉にできなかった。
「自分は何をしているんだろう」
その問いは、問いというよりも、癖のようなものだった。答えが出ないとわかっていながら、暇さえあれば頭の中で転がしていた。
やりたいことは、確かにある気がした。
でもそれは霧のようで、掴もうとすると指の間からすり抜けてしまう。
焦りと諦めが、同じ場所に同居していた。
世界は眩しすぎて、正面から見る勇気がな買った。だから少し斜めから眺めて、全部わかっているふりをして、少し冷めた顔をしていた。
[太字]本当は何もわかっていなかったのに。[/太字]
大人ぶることでしか、自分を守る方法を知らなかった。
当時の自分は、それを「病」だとは思っていなかった。
ただ、生きるのが下手なだけだと感じていた。誰もが自然にできているように見えることが、自分にはどうしてもできない。
努力が足りないのか、才能がないのか。
そのどちらでもあるような気がして、どちらでもない気もしていた。
何か一つでも「これだ」と言えるものがあれば楽なのに、そういう確信だけがいつも欠けていた。
時間だけが、淡々と過ぎていった。
劇的な出会いも、人生が一変するような出来事もなく。相変わらず迷いはあったし、うまくいかないことの方が多かった。
それでもある日、ふと気づいた。
昔ほど、自分を責めなくなっていることに。
何かを達成したわけでも、明確な答えを手に入れたわけでもない。ただ、できない自分を殴り続けることに、少し疲れただけだったのかもしれない。
理想と現実の差は相変わらず大きくて、将来への不安も消えてはいなかった。
それでも、「まあ、こんなものか」と思える瞬間が、確かに増えていた。
その「まあ、こんなものか」は、諦めではなく、降参に近かった。
無理に抗うのをやめた、静かな降参。
久しぶりにあの駅前を通ったとき、同じベンチに別の若者が座っていた。スマホを見つめる横顔は、かつての自分と驚くほどよく似ていた。
少し前屈みで、肩に力が入っていて、どこか所在なさげな表情。
声をかけることはしなかった。
かける言葉なんて、きっと当時の自分には届かなかっただろうから。
ただ心の中で、「それ、たぶん青春病だよ」とだけつぶやいた。
治す必要はない。
無理に意味を見つけなくてもいい。
焦って答えを出さなくても、置いていかれるわけじゃない。ただ、確かにそういう時期があったと、いつか言えるようになる。
あの不安定さも、拗らせた自意識も、過剰な自己否定も、全部まとめて自分だったのだと、後からなら言えるようになる。
それは黒歴史でも、失敗作でもなく、ちゃんと通ってきた道だった。
[水平線]
帰り道、少しだけ足取りが軽かった。
理由は特にない。
世界が急に優しくなったわけでも、自分が立派になったわけでもない。
ただ、過去の自分を思い出して、少しだけ許せた気がした。
青春病は完治しない。
ふとした拍子に、また症状は顔を出す。誰かと比べて落ち込んだり、自分の価値を見失いそうになったりする。
それでも、以前のように振り回されることは減っていく。症状と、少し距離を取れるようになる。
それで十分なのだと、ようやく思えた。
うまく生きられなくても、迷いながらでも、生きていくことはできる。そう思えた夜、駅前のベンチはもう、少しだけ遠い場所になっていた。