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これらの要素はフィクションであり、現実の制度・団体・文化とは一切関係ありません。
読み進める際は、作品世界の設定としてご理解いただければ幸いです。
資源化施設の異常は、結局その日のうちに収束しなかった。
タンクの脈動は弱まったものの、完全に止まることはなく、透の耳には、帰り道でも微かな“声”がまとわりついていた。
(……今日はひどいな)
夜風が頬を撫でる。
街灯の下を歩くたび、光がわずかに揺れ、その度に地面の影が“呼吸”するように膨らんだり縮んだりする。
透は歩く速度を上げた。家に帰れば、少しは静かになるはずだ。
そう思っていた。だが…
「……っ」
マンションの前で、透は立ち止まった。
エントランスのガラス扉に、“人影”が映っていた。透の背後に、誰かが立っている。
ゆっくり振り返る。
そこには――
「……あのう」
少女がいた。
お札が様々な場所に貼られた巫女服。虹色の瞳が、夜の光を反射している。
千善瞳。第参課の課長だ。
「……何か用か?」
透が問うと、瞳はじっと透を見つめた。
その視線は、まるで透の“内側”を覗き込むようだった。
「……あなた、今日……“乱れてた”」
「乱れてた?」
「うん。……感情が。あなたの感情、普段はすごく静かで、動きが少ないのに……今日は、ずっと“ざわざわ”してた」
透は息を呑んだ。
(……冷音は死者の声は聞こえない。でも、俺の感情の揺れは読める……)
「第参課でも異常が出てるのか?」
「……声は聞こえない。でも……空気が重い。街全体の感情が乱れてる感じがする。」
瞳は淡々と言った。
その声は冷たいが、どこか不安が混じっていた。
「……気をつけて。あなたみたいに“直接”受け取る人は……危ないから」
そう言い残し、冷音は夜の闇に溶けるように去っていった。
[水平線]
透はしばらくその場に立ち尽くした。胸の奥に、冷たいものが広がっていく。
(……終わってない、か)
部屋に戻り、シャワーを浴び、
ベッドに横になっても、眠気は訪れなかった。
――いたい
――こわい
――さむい
――たすけて
(……やめろ……)
耳を塞いでも意味がない。声は脳に直接響く。
(……事故の後から、ずっとだ。でも今日は……数が多すぎる)
まるで街全体が泣いているようだった。透は起き上がり、窓を開けた。
夜風が流れ込む。
その瞬間――
街の灯りが、一斉に明滅した。
[太字]ドクン。[/太字]
透の心臓が跳ねる。
(……まただ)
街が、脈動している。
遠くのビルの窓が、波のように明滅する。道路の街灯が、心臓の鼓動に合わせて点滅する。
[太字]ドクン……ドクン……[/太字]
(……これは、ただの電力異常じゃない)
透は窓枠を掴んだ。手が震えている。その時、スマホが震えた。画面には、「総監:十朱みや」 の名前が表示されている。
「……総監?」
通話に出ると、幼い少女の、しかし凛とした声が響いた。
『斎賀。すぐに局へ来い。異常事態だ』
「異常事態……?」
『街の“脈動”が、全域で同期している。これは自然現象じゃない。“誰か”が意図的にやっている』
透は息を呑んだ。
「……死者か?」
『断定はできない。だが――』
みやの声が一瞬だけ揺れた。
『“創造”で探知した。街の中心部に……巨大な“心臓”がある』
透の背筋が凍りついた。
「心臓……?」
『ああ。死体資源を束ねて作られた……“都市の心臓”だ』
(……そんなもの、誰が……)
『すぐに来い。従郡神も、四日市も、浪速も、全員集めている』
透は深く息を吸った。
「了解。すぐ向かう」
通話を切り、作業服に着替える。外に出ると、街の灯りがまた明滅した。
ドクン……ドクン……
(……街が、生きている)
透は走り出した。
死者の声が、風に乗って追いかけてくる。
――たすけて
――まだ、ここにいる
――さむい
――こわい
[大文字]――いたい[/大文字]
[大文字][大文字]――いたい[/大文字][/大文字]
[大文字][大文字][大文字]――いたい[/大文字][/大文字][/大文字]
(……分かってる。お前たちの痛みが、無駄じゃないことを証明する)
透は夜の街を駆け抜けた。
タンクの脈動は弱まったものの、完全に止まることはなく、透の耳には、帰り道でも微かな“声”がまとわりついていた。
(……今日はひどいな)
夜風が頬を撫でる。
街灯の下を歩くたび、光がわずかに揺れ、その度に地面の影が“呼吸”するように膨らんだり縮んだりする。
透は歩く速度を上げた。家に帰れば、少しは静かになるはずだ。
そう思っていた。だが…
「……っ」
マンションの前で、透は立ち止まった。
エントランスのガラス扉に、“人影”が映っていた。透の背後に、誰かが立っている。
ゆっくり振り返る。
そこには――
「……あのう」
少女がいた。
お札が様々な場所に貼られた巫女服。虹色の瞳が、夜の光を反射している。
千善瞳。第参課の課長だ。
「……何か用か?」
透が問うと、瞳はじっと透を見つめた。
その視線は、まるで透の“内側”を覗き込むようだった。
「……あなた、今日……“乱れてた”」
「乱れてた?」
「うん。……感情が。あなたの感情、普段はすごく静かで、動きが少ないのに……今日は、ずっと“ざわざわ”してた」
透は息を呑んだ。
(……冷音は死者の声は聞こえない。でも、俺の感情の揺れは読める……)
「第参課でも異常が出てるのか?」
「……声は聞こえない。でも……空気が重い。街全体の感情が乱れてる感じがする。」
瞳は淡々と言った。
その声は冷たいが、どこか不安が混じっていた。
「……気をつけて。あなたみたいに“直接”受け取る人は……危ないから」
そう言い残し、冷音は夜の闇に溶けるように去っていった。
[水平線]
透はしばらくその場に立ち尽くした。胸の奥に、冷たいものが広がっていく。
(……終わってない、か)
部屋に戻り、シャワーを浴び、
ベッドに横になっても、眠気は訪れなかった。
――いたい
――こわい
――さむい
――たすけて
(……やめろ……)
耳を塞いでも意味がない。声は脳に直接響く。
(……事故の後から、ずっとだ。でも今日は……数が多すぎる)
まるで街全体が泣いているようだった。透は起き上がり、窓を開けた。
夜風が流れ込む。
その瞬間――
街の灯りが、一斉に明滅した。
[太字]ドクン。[/太字]
透の心臓が跳ねる。
(……まただ)
街が、脈動している。
遠くのビルの窓が、波のように明滅する。道路の街灯が、心臓の鼓動に合わせて点滅する。
[太字]ドクン……ドクン……[/太字]
(……これは、ただの電力異常じゃない)
透は窓枠を掴んだ。手が震えている。その時、スマホが震えた。画面には、「総監:十朱みや」 の名前が表示されている。
「……総監?」
通話に出ると、幼い少女の、しかし凛とした声が響いた。
『斎賀。すぐに局へ来い。異常事態だ』
「異常事態……?」
『街の“脈動”が、全域で同期している。これは自然現象じゃない。“誰か”が意図的にやっている』
透は息を呑んだ。
「……死者か?」
『断定はできない。だが――』
みやの声が一瞬だけ揺れた。
『“創造”で探知した。街の中心部に……巨大な“心臓”がある』
透の背筋が凍りついた。
「心臓……?」
『ああ。死体資源を束ねて作られた……“都市の心臓”だ』
(……そんなもの、誰が……)
『すぐに来い。従郡神も、四日市も、浪速も、全員集めている』
透は深く息を吸った。
「了解。すぐ向かう」
通話を切り、作業服に着替える。外に出ると、街の灯りがまた明滅した。
ドクン……ドクン……
(……街が、生きている)
透は走り出した。
死者の声が、風に乗って追いかけてくる。
――たすけて
――まだ、ここにいる
――さむい
――こわい
[大文字]――いたい[/大文字]
[大文字][大文字]――いたい[/大文字][/大文字]
[大文字][大文字][大文字]――いたい[/大文字][/大文字][/大文字]
(……分かってる。お前たちの痛みが、無駄じゃないことを証明する)
透は夜の街を駆け抜けた。