そのとき――
地下室の奥から、かすかな足音が響いた。
「……誰か来る」
フィアがアストの手を引く。
アストは石板から離れ、暗がりに身を潜めた。
扉の向こうで、誰かが鍵を回す音がする。
ふたりは息を潜めたまま、
光る星図を背に、影の中で身を寄せ合った。
冷たい空気が肌を刺す。
石の床に落ちる光は、星図の淡い輝きに揺れている。
足音がひとつ。
規則正しく、重く、迷いがない。
「……院長ね」
フィアが息を潜めて囁く。
アストは喉が乾くのを感じた。
院長は星図の前で立ち止まり、光る石板をじっと見つめた。
「……また光っているのか」
その声は低く、震えていた。
恐れとも、焦りともつかない響き。
アストは胸の黒星が反応しないよう、
必死に呼吸を抑えた。
だが、黒星は微かに脈打ち続けている。
ドクン……ドクン……
院長は石板に手を触れ、
深く息を吐いた。
「千年前の封印が……揺らぎ始めている。黒星の子が目覚めたのか……?」
アストの心臓が跳ねた。
フィアがアストの袖を掴む。
その手は冷たく震えている。
院長は続けた。
「王都に知らせねばならぬ。黒星が再び動き出したとなれば……あの“影”が現れる前に、手を打たねば」
影――
その言葉に、アストの胸がざわついた。
院長はしばらく星図を見つめたあと、
ゆっくりと扉へ戻っていった。
足音が遠ざかり、扉が閉まる音が響く。
静寂が戻った瞬間、フィアは大きく息を吐いた。
「……危なかった……」
アストも壁に背を預け、胸の鼓動を落ち着かせようとした。
「院長……黒星のこと、知ってるんだ」
「うん。しかも王都に知らせるって……」
フィアはアストを見つめた。
その瞳には、迷いと決意が混ざっている。
「アスト、このままここにいたら……捕まるよ」
アストは言葉を失った。
逃げる?
自分が?
修道院しか知らない自分が?
フィアはアストの手を握り直した。
「行こう。今しかない。星図が開いたのも、アストが呼ばれたのも……全部、意味があるんだよ」
アストは胸の奥の黒星が、
静かに、しかし確かに脈打つのを感じた。
まるで答えるように。
「……わかった。行こう、フィア」
フィアは微笑んだ。
その笑顔は、風のように軽くて、どこか強かった。
ふたりは地下室を後にし、
まだ誰も動き出していない朝の修道院を抜け出した。
風が吹いた。
フィアの風星が、道を示すように。
地下室の奥から、かすかな足音が響いた。
「……誰か来る」
フィアがアストの手を引く。
アストは石板から離れ、暗がりに身を潜めた。
扉の向こうで、誰かが鍵を回す音がする。
ふたりは息を潜めたまま、
光る星図を背に、影の中で身を寄せ合った。
冷たい空気が肌を刺す。
石の床に落ちる光は、星図の淡い輝きに揺れている。
足音がひとつ。
規則正しく、重く、迷いがない。
「……院長ね」
フィアが息を潜めて囁く。
アストは喉が乾くのを感じた。
院長は星図の前で立ち止まり、光る石板をじっと見つめた。
「……また光っているのか」
その声は低く、震えていた。
恐れとも、焦りともつかない響き。
アストは胸の黒星が反応しないよう、
必死に呼吸を抑えた。
だが、黒星は微かに脈打ち続けている。
ドクン……ドクン……
院長は石板に手を触れ、
深く息を吐いた。
「千年前の封印が……揺らぎ始めている。黒星の子が目覚めたのか……?」
アストの心臓が跳ねた。
フィアがアストの袖を掴む。
その手は冷たく震えている。
院長は続けた。
「王都に知らせねばならぬ。黒星が再び動き出したとなれば……あの“影”が現れる前に、手を打たねば」
影――
その言葉に、アストの胸がざわついた。
院長はしばらく星図を見つめたあと、
ゆっくりと扉へ戻っていった。
足音が遠ざかり、扉が閉まる音が響く。
静寂が戻った瞬間、フィアは大きく息を吐いた。
「……危なかった……」
アストも壁に背を預け、胸の鼓動を落ち着かせようとした。
「院長……黒星のこと、知ってるんだ」
「うん。しかも王都に知らせるって……」
フィアはアストを見つめた。
その瞳には、迷いと決意が混ざっている。
「アスト、このままここにいたら……捕まるよ」
アストは言葉を失った。
逃げる?
自分が?
修道院しか知らない自分が?
フィアはアストの手を握り直した。
「行こう。今しかない。星図が開いたのも、アストが呼ばれたのも……全部、意味があるんだよ」
アストは胸の奥の黒星が、
静かに、しかし確かに脈打つのを感じた。
まるで答えるように。
「……わかった。行こう、フィア」
フィアは微笑んだ。
その笑顔は、風のように軽くて、どこか強かった。
ふたりは地下室を後にし、
まだ誰も動き出していない朝の修道院を抜け出した。
風が吹いた。
フィアの風星が、道を示すように。