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星紡ぎのルミナリア

#17

王国潜入

王都ルミナリアは、遠目にも圧倒的な威容を誇っていた。白の城壁はまるで山脈のように連なり、幾本もの尖塔が天へと突き刺さっている。塔の先端は雲をかすめ、まるで空そのものを支えているかのようだった。だが――。
その空は、どす黒い靄に覆われていた。
澄んでいるはずの王都の空気は濁り、目に見えない何かが街を侵食しているように感じられる。

「……影の気配が、王都にまで来てる」
フィアが小さく呟いた。アストは無意識に胸元を押さえる。
黒星の紋が、内側からじわりと脈打っていた。
(影が……僕を追ってきてる……)
街道脇の茂みに身を潜めながら、リオは王都の城門を鋭く観察していた。
「さて……どうやって入るかやな」
低く呟き、目を細める。
「正面から行ったら、確実に捕まるわ」
王都の巨大な門の前には王国騎士団がずらりと並んでいる。銀の鎧が整然と輝き、その中央には一際威圧的な男が立っていた。
騎士団長ガルド。アストを追っていた男だ。
「ガルドって……火星の継承者だったっけ」
アストは小さく呟く。その瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ。
黒星と火星は相性が悪い――リュシアンがそう言っていた。フィアがそっとアストの肩に手を置いた。
「アスト、無理しないで。ガルドさんに近づいたら、黒星が反応しちゃう」
「うん……分かってる」
アストは小さく頷いた。その様子を見ていたリオが振り返る。
「よし。裏口から入るで。王都には古い水路がある。そこを通れば見つかりにくい」
アストは目を瞬かせた。
「そんなの……どうして知ってるの?」
リオは肩をすくめる。
「なんとなくや」
そう言って、こめかみを指で叩いた。
「頭の奥に……地図みたいなのが浮かぶんや」
フィアの目が大きく見開かれる。
「それ……水星の力じゃない?」
リオは苦笑した。だが――



リオの胸が、青く光った。
「……!」
アストとフィアが同時に息を呑む。
「リオ……胸が……!」
リオは胸を押さえ、苦しげに息を吐いた。
「なんやこれ……」
額に汗が浮かぶ。
「頭の中に……流れが見える……」
視界の奥で、何かがほどけていく。
「人の動きも、影の気配も……全部、水みたいに流れてる!」
アストは確信した。
「リオ……君は、水星の継承者なんだ」
リオは呆然とアストを見つめた。
「俺が……星の継承者……?」
フィアが静かに頷く。
「水星は“流れ”と“記憶”の星。
だからリオは、人の動きや気配を読むのが得意だったんだよ」
しばらく沈黙が続いた。やがてリオは、ふっと笑った。
「……まぁ、悪くねえな。便利そうやし」
アストも思わず笑った。
「リオの水星があれば……王都に入れるかもしれない」
リオは立ち上がった。その瞳は、さっきまでよりも鋭く澄んでいた。
「行くぞ」
静かに言う。
「水星が“流れろ”って言ってる」



三人は森の影に沿って移動し、王都の北側へと回り込んだ。そこには苔むした石造りのアーチがあった。
古びた水路の入口。半ば崩れ落ちているが、人が通れる隙間はまだ残っている。
「ここだ……」
リオが低く呟いた。アストは胸の黒星が、静かに鼓動するのを感じた。
(黒星も……ここを通れって言ってる)
フィアがそっとアストの手を握る。
「行こう。王都に入って……真実を探そう」
アストは深く頷いた。三人は水路の闇へと足を踏み入れる。



水路の中は暗く、湿った空気がまとわりついていた。水滴が天井からぽたり、ぽたりと落ちる音だけが響く。
だが、リオの胸に宿る水星が淡く光り、青い光で道を照らしていた。
「ホンマに便利やな……これ」
フィアはアストの腕にしがみついていた。
「暗いの苦手……」

やがて水路の奥に、上へ続く石階段が現れた。リオが足を止め、耳を澄ませる。
「……上に二人」
小声で言った。
「巡回の兵士。でも今は反対向いてる。行ける」
アストは驚きを隠せなかった。
「そんなことまで分かるの……?」
リオは軽く肩をすくめた。
「水星が流れを教えてくれるんよ。人の気配の“流れ”をな」

三人は足音を殺しながら階段を上る。やがて出口の蓋をわずかに押し上げ――王都の裏路地へと滑り出た。
美しいはずの街並み。だが石畳の上には黒い靄が漂い、どこか不気味な気配が満ちている。
フィアが小さく呟いた。
「影が……王都に入り込んでる……」
アストは胸を押さえる。黒星が静かに脈打つ。
(影が……僕を探してる)
リオが振り返った。
「急ぐぞ。黒星封印の記録は王立魔導院にある。そこへ向かう」

三人は互いに目を合わせ、頷いた。
そして――王都ルミナリアの闇の中へ、静かに消えていった。

2026/03/10 08:36

白妙かなめ
ID:≫ drkoV7421/l0I
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