レゾナンス・アカデミアの寮は、白い外壁と青い屋根が特徴の三階建てだった。 新入生十五名は、今日からここで共同生活を送ることになる。
ユウキたちは玄関ホールに集められ、寮母の説明を受けていた。
「部屋は二人一組。騒音は厳禁。消灯は二十二時。以上です」
みやが小声で言う。
「騒音厳禁って……僕、死ぬかも」
「あなたはまず“静かにする訓練”からね」
栞が冷たく返す。
「ひどっ!」
さながぬいぐるみを抱きしめながら笑う。
「みやセンパイ、さなが静かにさせてあげるよ〜?」
「それはそれで怖い!」
如月はふわりと笑い、星羅はおねーちゃんの袖を握っている。
「寮生活……楽しみですねぇ。嘘ですけど」
「嘘じゃないよ〜! おねーちゃん、楽しみなんだよ〜!」
零音は静かに壁にもたれ、赤い瞳で全員を見ていた。
「……うるさくなりそう」
その時、寮の階段から足音が降りてきた。コツ、コツ、と規則正しい音。黒い革ジャンが揺れ、白いロングスカートがふわりと広がる。黒髪を後ろでまとめ、彼女は静かな瞳で新入生たちを見渡した。
「こんにちは。私は儚華音羽です。今日から、皆さんと同じ寮で暮らします。よろしくお願いいたします」
丁寧な声。だがその声は、空気を澄ませるような透明さを持っていた。みやが手を振る。
「よろしくー! 僕、十朱みや!」
音羽は一瞬だけ眉をひそめた。
「……っ、うるさい」
「えっ!? 初手それ!?」
さながくすっと笑う。
「音羽ちゃん、雑音きらいなんだよね〜?」
「雑音なんていりません。」
音羽は如月を見て、静かに言った。
「貴方の声……綺麗ですが、揺れすぎです。雑音に近い」
その瞬間、星羅の目が細くなった。
「……おねーちゃんの声を“雑音”って言ったの?」
空気が一瞬で冷える。ユウキは思わず身構えた。
(まずい……星羅は“おねーちゃんの悪口”だけは許さないからな)
如月は星羅の肩に手を置いた。
「星羅。落ち着きなさい。音羽さんは本音を言っただけですよ」
「でも……!」
音羽は一歩前に出た。
「誤解しないでください。如月様の声は美しい。 ただ……“揺れ”が多いのです。それは、共鳴の妨げになります」
星羅は口を閉じた。如月が微笑む。
「……正直ですねぇ。」
音羽は静かに頷いた。
「音は純度が命です。 私は、濁った音が嫌いなだけです」
零音がぽつりと言う。
「……わかる。雑音、嫌い」
音羽は零音を見て、わずかに表情を緩めた。
「貴方……静かですね。 深い音を持っている」
「……貴方も」
(……この二人、相性がいい)
ユウキは、感じたのだった。
[水平線]
寮母が、ぱん、と手を打った。乾いた音が食堂に響き、ざわめきが一瞬で凍りつく。
「部屋割りを発表します」
誰もが無意識に息を止めた。椅子の軋む音さえ遠慮がちになる。
「――鏡音ユウキと、儚華音羽」
「えっ」
「……え?」
二つの声が、ぴたりと重なった。低く澄んだ声と、柔らかく細い声。響きは違うのに、不思議なほど同時だった。一拍の静寂のあと。
「うわー! 静かコンビだ!!」
みやの爆笑が、張りつめた空気を粉々にする。
「うるさい」
「……うるさいです」
今度は非難が寸分違わず重なった。
「ひどっ!!」
みやが胸を押さえてのけぞる。さなは机に突っ伏し、肩を震わせた。
「ユウキセンパイ、音羽ちゃんと同室とか絶対静か〜!生活音ゼロじゃないですか?」
からかい半分の声に、栞が静かに口を挟む。
「むしろ最適よ。ユウキの声は純度が高い。音羽となら互いに邪魔しない」
分析するような、揺るぎない口調だった。その言葉を受けて、星羅がユウキをじっと見上げる。探るような、けれどどこか不安げな視線。
「……おねーちゃんの声、雑音じゃないよね?」
場の空気が、ほんのわずかに緊張する。
「……もちろんだ」
ユウキは迷いなく即答した。星羅は小さく息を吐き、満足そうに頷いた。
その横で、音羽はまだ状況を飲み込みきれないまま、そっと視線を落とす。
――同室。
静かな二つの声が、これから同じ部屋で重なるのだ。騒がしい食堂の中で、その未来だけが、やけに透明に感じられた。
こうして、十五人の寮生活が始まった。
静寂を愛する者。
騒がしさを楽しむ者。
嘘をつく者。
即興で空気を変える者。
深海のように静かな者。
純度の高い音を求める者。
その全てが、ひとつの屋根の下に集まった。
ユウキたちは玄関ホールに集められ、寮母の説明を受けていた。
「部屋は二人一組。騒音は厳禁。消灯は二十二時。以上です」
みやが小声で言う。
「騒音厳禁って……僕、死ぬかも」
「あなたはまず“静かにする訓練”からね」
栞が冷たく返す。
「ひどっ!」
さながぬいぐるみを抱きしめながら笑う。
「みやセンパイ、さなが静かにさせてあげるよ〜?」
「それはそれで怖い!」
如月はふわりと笑い、星羅はおねーちゃんの袖を握っている。
「寮生活……楽しみですねぇ。嘘ですけど」
「嘘じゃないよ〜! おねーちゃん、楽しみなんだよ〜!」
零音は静かに壁にもたれ、赤い瞳で全員を見ていた。
「……うるさくなりそう」
その時、寮の階段から足音が降りてきた。コツ、コツ、と規則正しい音。黒い革ジャンが揺れ、白いロングスカートがふわりと広がる。黒髪を後ろでまとめ、彼女は静かな瞳で新入生たちを見渡した。
「こんにちは。私は儚華音羽です。今日から、皆さんと同じ寮で暮らします。よろしくお願いいたします」
丁寧な声。だがその声は、空気を澄ませるような透明さを持っていた。みやが手を振る。
「よろしくー! 僕、十朱みや!」
音羽は一瞬だけ眉をひそめた。
「……っ、うるさい」
「えっ!? 初手それ!?」
さながくすっと笑う。
「音羽ちゃん、雑音きらいなんだよね〜?」
「雑音なんていりません。」
音羽は如月を見て、静かに言った。
「貴方の声……綺麗ですが、揺れすぎです。雑音に近い」
その瞬間、星羅の目が細くなった。
「……おねーちゃんの声を“雑音”って言ったの?」
空気が一瞬で冷える。ユウキは思わず身構えた。
(まずい……星羅は“おねーちゃんの悪口”だけは許さないからな)
如月は星羅の肩に手を置いた。
「星羅。落ち着きなさい。音羽さんは本音を言っただけですよ」
「でも……!」
音羽は一歩前に出た。
「誤解しないでください。如月様の声は美しい。 ただ……“揺れ”が多いのです。それは、共鳴の妨げになります」
星羅は口を閉じた。如月が微笑む。
「……正直ですねぇ。」
音羽は静かに頷いた。
「音は純度が命です。 私は、濁った音が嫌いなだけです」
零音がぽつりと言う。
「……わかる。雑音、嫌い」
音羽は零音を見て、わずかに表情を緩めた。
「貴方……静かですね。 深い音を持っている」
「……貴方も」
(……この二人、相性がいい)
ユウキは、感じたのだった。
[水平線]
寮母が、ぱん、と手を打った。乾いた音が食堂に響き、ざわめきが一瞬で凍りつく。
「部屋割りを発表します」
誰もが無意識に息を止めた。椅子の軋む音さえ遠慮がちになる。
「――鏡音ユウキと、儚華音羽」
「えっ」
「……え?」
二つの声が、ぴたりと重なった。低く澄んだ声と、柔らかく細い声。響きは違うのに、不思議なほど同時だった。一拍の静寂のあと。
「うわー! 静かコンビだ!!」
みやの爆笑が、張りつめた空気を粉々にする。
「うるさい」
「……うるさいです」
今度は非難が寸分違わず重なった。
「ひどっ!!」
みやが胸を押さえてのけぞる。さなは机に突っ伏し、肩を震わせた。
「ユウキセンパイ、音羽ちゃんと同室とか絶対静か〜!生活音ゼロじゃないですか?」
からかい半分の声に、栞が静かに口を挟む。
「むしろ最適よ。ユウキの声は純度が高い。音羽となら互いに邪魔しない」
分析するような、揺るぎない口調だった。その言葉を受けて、星羅がユウキをじっと見上げる。探るような、けれどどこか不安げな視線。
「……おねーちゃんの声、雑音じゃないよね?」
場の空気が、ほんのわずかに緊張する。
「……もちろんだ」
ユウキは迷いなく即答した。星羅は小さく息を吐き、満足そうに頷いた。
その横で、音羽はまだ状況を飲み込みきれないまま、そっと視線を落とす。
――同室。
静かな二つの声が、これから同じ部屋で重なるのだ。騒がしい食堂の中で、その未来だけが、やけに透明に感じられた。
こうして、十五人の寮生活が始まった。
静寂を愛する者。
騒がしさを楽しむ者。
嘘をつく者。
即興で空気を変える者。
深海のように静かな者。
純度の高い音を求める者。
その全てが、ひとつの屋根の下に集まった。