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星紡ぎのルミナリア

#1

黒星の少年と、旅の始まり

夜の帳が降りると、修道院の鐘楼にだけ、ひときわ強い風が吹きつける。
その風は、まるで何かを拒むように、あるいは何かを閉じ込めるように、冷たく鋭かった。

アストはその風の中、ひとり石畳の上に座り込んでいた。
膝を抱え、胸の奥に沈む黒い痛みを押し込めるように。

――また、やってしまった。

昼間の祈りの時間。
彼の胸に宿る“黒星の欠片”が、突如として脈打った。
光でも闇でもない、星のような輝きが一瞬だけ漏れ、周囲の空気を震わせた。

それだけで、修道士たちは怯えた目を向ける。
「災厄の星だ」「不吉だ」「封じておくべきだ」
そんな声が、アストの耳に刺さるように残っていた。

「アスト、ここにいたのね」

柔らかな声が、冷えた空気を温めるように響いた。
振り返ると、風星の加護を持つ少女――フィアが立っていた。

銀色の髪が夜風に揺れ、淡い光を帯びている。
彼女だけは、アストを恐れなかった。
いや、恐れながらも、そばにいてくれた。

「昼間のこと、気にしてるんでしょ?」

アストは小さくうなずく。

「……僕は、やっぱり危険なんだよ。みんなが言う通りだ。 黒星なんて持って生まれたせいで、迷惑ばかりかけてる」
「違う」

フィアは即座に否定した。
その声は、風のように軽やかで、しかし芯があった。

「アストは危険なんかじゃない。 あの光だって、誰かを傷つけたわけじゃない。 ただ……みんなが知らないだけ。黒星のことも、アストのことも」
「知らないから、怖がるんだよ」
「じゃあ、知ればいいのよ」

フィアは微笑んだ。
その笑顔は、アストの胸の痛みを少しだけ和らげる。

「私が知るよ。アストのことも、黒星のことも。 だから、アストも自分を嫌わないで」

アストは言葉を失った。
フィアの言葉は、いつも彼の心の奥に届く。

――どうして、こんな僕に優しくしてくれるんだろう。

「ねえ、アスト。地下の星図室、また光ってたよ」
「……え?」
「黒星の真名が記されてるっていう古い星図。 あれ、アストが近くにいると反応してる気がするの」
「そんなはず……」
「確かめてみよ。今なら修道士たちも寝てるし」

フィアはいたずらっぽく笑い、アストの手を引いた。 その手は温かく、アストは抵抗できなかった。


[水平線]


ふたりは鐘楼の裏手にある階段を降り、地下へ向かう。
湿った空気と古い石の匂いが漂う薄暗い通路。 その奥に、封じられた星図室がある。

「……光ってる」

扉の隙間から、淡い青白い光が漏れていた。
フィアがそっと扉を押し開ける。

そこには、古代の星々を描いた巨大な星図があった。 無数の線が交差し、星の名が古い文字で刻まれている。
そして、その中心――
黒い星を示す一点が、脈打つように光っていた。

アストが一歩踏み出すと、光はさらに強くなる。

「やっぱり……アストに反応してる」

フィアが息を呑む。

アストは胸の奥がざわつくのを感じた。
黒星の欠片が、星図の光に呼応するように震えている。

「僕……どうなってるんだろう」
「きっと、何か意味があるのよ。 黒星は災厄なんかじゃない。そうでしょ?」
フィアの言葉に、アストは答えられなかった。
ただ、星図の光に吸い寄せられるように手を伸ばす。

その瞬間――

星図全体が眩い光を放ち、風が巻き起こった。
地下室とは思えないほど強い風が、ふたりを包み込む。

「危ない!」

フィアがアストに抱きつき、風から守ろうとする。
だが風はふたりを傷つけることなく、むしろ優しく触れるように流れていく。
光の中で、アストは“声”を聞いた。





――目覚めよ、始まりの星の子。


それは誰の声でもない。 しかし、確かにアストの胸の奥に響いた。
光が収まると、星図の黒星の部分だけが淡く輝き続けていた。

「ねえ……今の、聞こえた?」
フィアが震える声で尋ねる。
アストはゆっくりとうなずいた。

「……僕を呼んでた。黒星が」

ふたりはしばらく言葉を失ったまま、星図を見つめた。
やがて、フィアが小さくつぶやく。

「アスト……ここにいたら、きっと危ない。 修道院は黒星を“封じる”ことしか考えてない。 本当のことを知ろうとしない」
フィアはアストの横顔を見つめた。
その瞳には、迷いのない決意が宿っている。

「だから……一緒に行こう。 黒星の真実を探しに」
アストの胸が熱くなる。
「僕なんかを……?」
「アストじゃなきゃダメなのよ」

フィアは微笑んだ。

「だって、黒星がアストを選んだんだから」

その言葉は、アストの心に深く刻まれた。
――僕は、選ばれた?
恐れられる存在ではなく、 封じられるべき災厄でもなく、 ただの孤独な少年でもなく。
何かの“始まり”として。
アストはゆっくりと立ち上がった。

「……行こう、フィア。
 僕は、真実を知りたい」

フィアは嬉しそうにうなずき、アストの手を握った。


こうして、ふたりの旅は始まった。
黒星の真名を求めて。
世界の秘密を紡ぐために。



夜の修道院の鐘が、静かに鳴り響く。
それはまるで、ふたりの旅立ちを告げる合図のようだった。

作者メッセージ

ここで謝罪します…
後から読み返してみて、かなり誤字が多かったことに気づきました。ごめんなさい。
現在は修整済みです!

2026/01/05 20:59

白妙かなめ
ID:≫ drkoV7421/l0I
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