谷を越えた先には、緩やかな丘が続いていた。霧は晴れ、空はどこまでも高い。
アストは深く息を吸い込んだ。
「……空気が違う」
「…ここからは修道院の結界が届かないからね」
フィアは風を感じるように目を細めた。その横顔は、いつもより少し大人びて見える。
アストは胸の黒星に手を当てる。まだ微かに脈打っている。
影が現れたときのような強さはないが、どこか“方向”を示すように熱が動いていた。
「……あっち、かも」
アストが指差すと、フィアは驚いたように目を丸くした。
「なんで分かるの?」
「なんとなく…胸が引っ張られる感じがする」
「へー。じゃあ、アストの黒星が道案内だね」
[水平線]
丘を越えると、小さな街道に出た。旅人の姿は少ないが、馬車の轍が残っている。
アストは初めて見る“人の世界”に目を奪われた。
「フィア、あれ……!」
「うん、街道だよ。この先に小さな村がある…」
フィアが言いかけたとき――
カラン……と金属の音がした。
ふたりが振り返ると、街道の先に男が立っていた。
長い外套をまとい、背中には大きな荷物。
年齢はアストたちより少し上に見える。男はふたりを見ると、穏やかに手を挙げた。
「よっ。こんな朝早くに珍しいなあ。君ら、旅の途中なんか?」
フィアは一瞬だけアストを見て、小さく頷いた。
「はい。谷を越えてきたところです」
「谷? あそこ危ないやろ。よう無事やったね」
男は驚いたように眉を上げた。アストは少し身構える。
(……この人、敵ではないのか?)
男はふたりの不安を察したのか、ゆっくりと外套の胸元を開いた。
そこには――
星の紋章が刻まれた小さな銀のペンダント。
「僕は旅人や。星の巡りを記録して、世界を歩いてんねん」
フィアが息を呑む。
「旅人……!本物だ……」
アストは聞いたことがなかったが、フィアは修道院で何度も本で読んだらしい。
旅人は優しく笑った。
「僕の名前はリオや。君らは?」
「フィアです。こっちはアスト」
アストは軽く会釈した。
リオはアストを見て、少しだけ目を細めた。
「……君、胸に星の気配があるね」
アストの心臓が跳ねた。
「えっ……!」
フィアがアストをかばうように前に立つ。
「いやいや、ちゃうよ」
リオは慌てて手を振った。
「ただ、珍しいと思ってね。星の気配を持つ人間なんて、滅多にいない」
アストは胸の黒星が熱を帯びるのを感じた。
リオの言葉に反応しているようだった。
リオはふたりを見て、少し考えるように顎に手を当てた。
「……もしよかったら、少し一緒に歩かへん?この先の村まで行くつもりやねん。君たちだけだと危ないやろ?」
フィアはアストを見る。アストもフィアを見る。
ふたりの視線が重なり、同じ答えを選んでいた。
「……お願いします」
リオはにっこり笑った。
「よし、じゃあ行くで。星が導く道は、ひとりより三人のほうが楽しいかんね」
風が吹いた。
アストの黒星が、静かに脈打つ。
アストは深く息を吸い込んだ。
「……空気が違う」
「…ここからは修道院の結界が届かないからね」
フィアは風を感じるように目を細めた。その横顔は、いつもより少し大人びて見える。
アストは胸の黒星に手を当てる。まだ微かに脈打っている。
影が現れたときのような強さはないが、どこか“方向”を示すように熱が動いていた。
「……あっち、かも」
アストが指差すと、フィアは驚いたように目を丸くした。
「なんで分かるの?」
「なんとなく…胸が引っ張られる感じがする」
「へー。じゃあ、アストの黒星が道案内だね」
[水平線]
丘を越えると、小さな街道に出た。旅人の姿は少ないが、馬車の轍が残っている。
アストは初めて見る“人の世界”に目を奪われた。
「フィア、あれ……!」
「うん、街道だよ。この先に小さな村がある…」
フィアが言いかけたとき――
カラン……と金属の音がした。
ふたりが振り返ると、街道の先に男が立っていた。
長い外套をまとい、背中には大きな荷物。
年齢はアストたちより少し上に見える。男はふたりを見ると、穏やかに手を挙げた。
「よっ。こんな朝早くに珍しいなあ。君ら、旅の途中なんか?」
フィアは一瞬だけアストを見て、小さく頷いた。
「はい。谷を越えてきたところです」
「谷? あそこ危ないやろ。よう無事やったね」
男は驚いたように眉を上げた。アストは少し身構える。
(……この人、敵ではないのか?)
男はふたりの不安を察したのか、ゆっくりと外套の胸元を開いた。
そこには――
星の紋章が刻まれた小さな銀のペンダント。
「僕は旅人や。星の巡りを記録して、世界を歩いてんねん」
フィアが息を呑む。
「旅人……!本物だ……」
アストは聞いたことがなかったが、フィアは修道院で何度も本で読んだらしい。
旅人は優しく笑った。
「僕の名前はリオや。君らは?」
「フィアです。こっちはアスト」
アストは軽く会釈した。
リオはアストを見て、少しだけ目を細めた。
「……君、胸に星の気配があるね」
アストの心臓が跳ねた。
「えっ……!」
フィアがアストをかばうように前に立つ。
「いやいや、ちゃうよ」
リオは慌てて手を振った。
「ただ、珍しいと思ってね。星の気配を持つ人間なんて、滅多にいない」
アストは胸の黒星が熱を帯びるのを感じた。
リオの言葉に反応しているようだった。
リオはふたりを見て、少し考えるように顎に手を当てた。
「……もしよかったら、少し一緒に歩かへん?この先の村まで行くつもりやねん。君たちだけだと危ないやろ?」
フィアはアストを見る。アストもフィアを見る。
ふたりの視線が重なり、同じ答えを選んでいた。
「……お願いします」
リオはにっこり笑った。
「よし、じゃあ行くで。星が導く道は、ひとりより三人のほうが楽しいかんね」
風が吹いた。
アストの黒星が、静かに脈打つ。