通知はまだ、未読のまま
春の終わり、駅前のコンビニの前で、[漢字]結衣[/漢字][ふりがな]ゆい[/ふりがな]はスマホを握りしめていた。
画面には「既読 2」の文字。
送ったメッセージはたった一行。
「明日のゼミ、行けそう?」
それだけなのに、なんでこんなに重たいんだろうって思う。
結衣は大学2年生。
友達はいるし、ゼミもそれなりに楽しい。でも最近、誰かと会う前にちょっとだけ“体力”みたいなものを使うようになった。
「行きたくないわけじゃないんだけどな……」
小さくつぶやいて、スマホをポケットにしまう。
そのときだった。
「それ、未読無視じゃなくて、充電切れじゃない?」
後ろから声がして、結衣はびくっと振り返った。
同じゼミの[漢字]悠真[/漢字][ふりがな]ゆうま[/ふりがな]だった。
いつも少し遅れて来て、でも発言はちゃんと核心を突くタイプ。
「え、いや、違うし」
「でもさ、人ってさ。返せないとき、あるじゃん。気持ちとか」
そう言いながら、悠真はコンビニのアイスコーヒーを2本買って、そのうち1本を結衣に差し出した。
「これ、謝罪とかじゃなくて、ただの共有」
「なにそれ」
結衣は思わず笑ってしまった。
駅前のベンチに座る。
風はまだ少し冷たくて、でもアイスコーヒーはやけにちょうどいい。
「結衣ってさ、ちゃんとしてるよね」
「え、急に何」
「ちゃんと返事しようとして、ちゃんと気にして、ちゃんと疲れてる」
それ、褒めてるのかよくわからない。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
結衣はスマホを取り出す。
まだ既読2のまま。
少し考えてから、打つ。
「ごめん、今ちょっと疲れてた。明日行けるよ」
送信。
すぐに既読が3になる。
「返信、早いじゃん」
悠真が笑う。
「たまたま」
そう言いながら、結衣はアイスコーヒーをひと口飲む。
苦いはずなのに、少しだけ甘く感じた。
「ねえ、これってさ」
結衣がぽつりと言う。
「ちゃんとした会話、できてるってこと?」
「たぶんね」
悠真は空を見ながら言った。
「未読でも、既読でも、ちゃんと人ってつながってるよ」
その言葉が、なんだか妙に残った。
夜、帰り道。
結衣はもう一度スマホを見る。
トーク画面はいつもと同じなのに、少しだけ違って見えた。
“返せなかった時間”も、
“すぐ返した時間”も、
どっちもちゃんと自分だった気がした。
そして結衣は、ふと思う。
明日のゼミ、ちょっとだけ楽しみかもしれない。
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