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暗いです
シングルマザー
なんで私が。どうして私ばっかり。
そんな考えが頭から離れないような精神状態に追い詰められていたことが、今回のことの一番の原因だったかもしれない。
仕事が続いたから、ろくに眠れな日が続いたから。上司に怒られたから。
だからって、子供を叩いていいなんてことは決してないのだが。
[水平線]
育児と仕事の両立は大変なんてものではない。シングルマザーの自分では抱えきれず何度も体を壊した。息子が小さい間は自分の父と母に面倒を見てもらい、自分は仕事に専念した。しかし、その数年間の間に大事な、何よりも大事な息子は私と泡なさすぎた。未だにおばあちゃんっ子、おじいちゃんっ子の彼は、私にちっとも甘えてくれなかった。
「あのねえ、あんた、子供なんだからもっと愛情注いでやりなさいよ。」
母から言われた言葉はささくれだた心の表面をひっかくようだった。無性に歯がゆくて喚き散らした。どれだけ私が頑張ったかなんてしらないくせに。仕事を終えてくたくたで、それでも家のことをして、子供にかまって。
いや、正確には母の言う通りで、家事のあと息子の話を聞いたり、一緒に遊んだりする余裕のある日は少なかった。そうしなと、私が持たなかった。私が壊れれば家族はおしまいだ。しかし、そんな危機感に追われ馬車馬のように働く私の思いとは裏腹に、息子の心はどんどん離れていった。
でも、私を仕事に向かわせていたのは、家事をする手を動かし続けられたのは、
それは愛情だった。
[水平線]
幼稚園の年長になった息子はとたんに生意気になった。そういう年齢なんだ、成長過程のものだ、そうとは知りつつ苛立ちは募る一方だった。
お願いだから、私の仕事をこれ以上増やさないで。大人しくしてて。
そんな願いも虚しく、私はある日幼稚園に呼び出された。
「あのね、最近おたくの息子さん、」
友達をいじめるんですよ。と保育士さんに困り顔で伝えられ、私はまず困惑や悲しみをおいて、怒りが湧いてきた。
今日は特にひどくて、と保育士さんは続けた。友達に怪我をさせてしまって、今は一人にしていますが、さっきまで暴れていました。息子さんも精神的に不安定でしょうから、今日はもう帰らせてあげてください。あと、一度親子で話し合ってみては…
ありがとうございます、はい、そうします。と、私は半ば保育士さんの話しを遮るように返事をして、息子を迎えに行った。
[水平線]
息子は保育士さんに叱られたあとなのか、泣いていたが、私を見ると帰りたくない、と駄々をこねて地面を蹴り飛ばした。私はただ、「行くよ。」と言って強引にその場を離れた。保育士さんの視線がいたたまれなかった。
帰りの車のなかでも息子はずっとよくわからないことを喚いていた。その声のボリュームが上がるたび、私のハンドル捌きは粗くなった。
家についたときは私の頭はもう限界で、玄関のドアを乱暴に閉めてからしゃがみ、息子と目線を合わせてからその顔をひっぱたいた。
それまでの泣き声がピタッと止んだことに気づく余裕もないまま私は息子の小さい肩を掴んでゆすりながら怒鳴った。
「何やってるのよ!問題起こして、迷惑かけて、お友達だって傷つけて、あやまりもせず意味のわからないことばかり言って、そのせいでお母さんが呼び出されて!この隈が見える?お母さんが毎日、どれだけ頑張ってるのか、わかってるの!わかってそんなことしてるの!」
「わ…わから、ない」
息子が蚊の泣くような声で答えるのを聞くやいなや、私は乱暴に玄関から息子を押し出し、息子を家から締め出した。
ドアを叩いている音がしても、泣き叫ぶ声がしても、ドアは開けなかった。やがて、近所の人が押しかけてきた。
あなたの家、どうなってるんですか。そりゃあ叱るのは必要ですけど、あんなのってないですよ。ねえ、虐待ですか、奥さんのこと通報してもいいんですよ。
ああ、うるさい。うるさいなあ。正義の味方ヅラして。泣いてる子供をかばうあんたは、そりゃあ世界の正義の代弁者でしょうね。ほんと。
そこまで考えたとき、頭の片隅でああもうわたしだめかもしれない、と思った。
お隣さんをなんとか追い返し、一人で考えて考えた。息子は泣きつかれて眠っていた。
夜遅くまで考えた。結局その日は眠れなかったし、何より寝ている息子の顔についた自分の手の跡が目に入るたび、まぶたに焼きごてを当てられたような心地がした。
[水平線]
「ねえまさかあんた、この子に愛想つかして私に預けようなんておもってないでしょうねえ」
「そんなことないよ、ただ私が落ち着くまで預けようとおもっただけ。それだけ。」
考えた末に、私は再び息子を私の両親に預けることにした。そう伝えると息子は最近見せたことのない顔で無邪気に嬉しそうに笑い、ああ私って本当だめだったんだな、とまた傷をえぐられたが、息子が幸せならだめな自分など捨てても構わない、と自分で納得した。
遠ざかる両親と息子を乗せた車を見ながら、私は漠然と明日の仕事のことを考えた。
もう頑張る意味はない、それにこれからは洗い物だって洗濯物だって、一人分で済むんだ。
「はは…お酒のもう。」
明日は仕事を休んでしまおう。
そんな考えが頭から離れないような精神状態に追い詰められていたことが、今回のことの一番の原因だったかもしれない。
仕事が続いたから、ろくに眠れな日が続いたから。上司に怒られたから。
だからって、子供を叩いていいなんてことは決してないのだが。
[水平線]
育児と仕事の両立は大変なんてものではない。シングルマザーの自分では抱えきれず何度も体を壊した。息子が小さい間は自分の父と母に面倒を見てもらい、自分は仕事に専念した。しかし、その数年間の間に大事な、何よりも大事な息子は私と泡なさすぎた。未だにおばあちゃんっ子、おじいちゃんっ子の彼は、私にちっとも甘えてくれなかった。
「あのねえ、あんた、子供なんだからもっと愛情注いでやりなさいよ。」
母から言われた言葉はささくれだた心の表面をひっかくようだった。無性に歯がゆくて喚き散らした。どれだけ私が頑張ったかなんてしらないくせに。仕事を終えてくたくたで、それでも家のことをして、子供にかまって。
いや、正確には母の言う通りで、家事のあと息子の話を聞いたり、一緒に遊んだりする余裕のある日は少なかった。そうしなと、私が持たなかった。私が壊れれば家族はおしまいだ。しかし、そんな危機感に追われ馬車馬のように働く私の思いとは裏腹に、息子の心はどんどん離れていった。
でも、私を仕事に向かわせていたのは、家事をする手を動かし続けられたのは、
それは愛情だった。
[水平線]
幼稚園の年長になった息子はとたんに生意気になった。そういう年齢なんだ、成長過程のものだ、そうとは知りつつ苛立ちは募る一方だった。
お願いだから、私の仕事をこれ以上増やさないで。大人しくしてて。
そんな願いも虚しく、私はある日幼稚園に呼び出された。
「あのね、最近おたくの息子さん、」
友達をいじめるんですよ。と保育士さんに困り顔で伝えられ、私はまず困惑や悲しみをおいて、怒りが湧いてきた。
今日は特にひどくて、と保育士さんは続けた。友達に怪我をさせてしまって、今は一人にしていますが、さっきまで暴れていました。息子さんも精神的に不安定でしょうから、今日はもう帰らせてあげてください。あと、一度親子で話し合ってみては…
ありがとうございます、はい、そうします。と、私は半ば保育士さんの話しを遮るように返事をして、息子を迎えに行った。
[水平線]
息子は保育士さんに叱られたあとなのか、泣いていたが、私を見ると帰りたくない、と駄々をこねて地面を蹴り飛ばした。私はただ、「行くよ。」と言って強引にその場を離れた。保育士さんの視線がいたたまれなかった。
帰りの車のなかでも息子はずっとよくわからないことを喚いていた。その声のボリュームが上がるたび、私のハンドル捌きは粗くなった。
家についたときは私の頭はもう限界で、玄関のドアを乱暴に閉めてからしゃがみ、息子と目線を合わせてからその顔をひっぱたいた。
それまでの泣き声がピタッと止んだことに気づく余裕もないまま私は息子の小さい肩を掴んでゆすりながら怒鳴った。
「何やってるのよ!問題起こして、迷惑かけて、お友達だって傷つけて、あやまりもせず意味のわからないことばかり言って、そのせいでお母さんが呼び出されて!この隈が見える?お母さんが毎日、どれだけ頑張ってるのか、わかってるの!わかってそんなことしてるの!」
「わ…わから、ない」
息子が蚊の泣くような声で答えるのを聞くやいなや、私は乱暴に玄関から息子を押し出し、息子を家から締め出した。
ドアを叩いている音がしても、泣き叫ぶ声がしても、ドアは開けなかった。やがて、近所の人が押しかけてきた。
あなたの家、どうなってるんですか。そりゃあ叱るのは必要ですけど、あんなのってないですよ。ねえ、虐待ですか、奥さんのこと通報してもいいんですよ。
ああ、うるさい。うるさいなあ。正義の味方ヅラして。泣いてる子供をかばうあんたは、そりゃあ世界の正義の代弁者でしょうね。ほんと。
そこまで考えたとき、頭の片隅でああもうわたしだめかもしれない、と思った。
お隣さんをなんとか追い返し、一人で考えて考えた。息子は泣きつかれて眠っていた。
夜遅くまで考えた。結局その日は眠れなかったし、何より寝ている息子の顔についた自分の手の跡が目に入るたび、まぶたに焼きごてを当てられたような心地がした。
[水平線]
「ねえまさかあんた、この子に愛想つかして私に預けようなんておもってないでしょうねえ」
「そんなことないよ、ただ私が落ち着くまで預けようとおもっただけ。それだけ。」
考えた末に、私は再び息子を私の両親に預けることにした。そう伝えると息子は最近見せたことのない顔で無邪気に嬉しそうに笑い、ああ私って本当だめだったんだな、とまた傷をえぐられたが、息子が幸せならだめな自分など捨てても構わない、と自分で納得した。
遠ざかる両親と息子を乗せた車を見ながら、私は漠然と明日の仕事のことを考えた。
もう頑張る意味はない、それにこれからは洗い物だって洗濯物だって、一人分で済むんだ。
「はは…お酒のもう。」
明日は仕事を休んでしまおう。
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