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「ここを出る?」
あまりに唐突な話に、野村は目を瞬かせながらおうのを見た。
高杉は朝一度顔を見たきりで、後はずっと布団にこもっている。
雅子は、野村が見てもわかるくらい痛々しい表情を作っていた。おうのを追い出したいわけではないのに、結果的にそうなってしまったと思っているのだろう。
「はい、急にすみません。雅子様も来てくださって人でも足りているようですし…。まぁ、他にも理由はあるんですけどね」
そう言って、おうのは寂しげに笑った。
そして、改まったように唇の端を引き締めた。
「雅子様。わたくし、貴方様が来たからいなくなるのではありません。しっかりとした理由があるのです」
「…そうですか…」
雅子はなおも不安そうな顔をしていたが、おうのの確固たる口調に、むりやり納得したように何度も頷いてみせた。
「もう、身支度はしてありますので」
「今日居なくなってしまわれるので?」
「ええ」
またもや仰天した野村に、はっきりとおうのが返した。
「高杉さんには、早朝に挨拶を済ませました」
だいぶん前から決めていたことなのか、おうのの行動は野村の想像よりもずっとずっと早かった。
「お世話になりました」
深々と三ツ指をついて礼をする。
それから、林家の面々にも丁寧に挨拶をして周り、おうのは太陽が高く昇る前に去っていった。
きらりと、髪に挿した簪のようなものが虹色に光ったのが見えた。
行く当てがあるのかはわからない。
それを聞くのは、なんとなく躊躇われた。
野村はおうのの全てを知っているわけではないし、おうのが言うまでは待っていようと、なんとなく、そう思っていたが、ついに尋ねずに終わった。
もやもやした何かを抱えながら、さっぱりとした笑顔で去ってゆくおうのの姿が瞼の裏にちらつきながら、野村は質素な昼食に手をつけるのだった。
「晋作様」
「…げほっ、ごほ」
高杉は咳で返事をした。ここ数日、己の目で見ても体調が芳しくないと分かる。
「おうのさんのこと…」
強気な性格の雅子にしては尻すぼみな声が出た。
「…んだ」
「え?」
「良いんだよ、あれで」
それだけで、雅子は、おうのと高杉の間に暗黙の密約のようなものがあることを知った。
「深く詮索する気はありませぬ。しかしーー、おうのさんの、あの…振り切ったようでどこか寂しげな笑みは、忘れようにも忘れられませぬ」
「…そうだな」
それきりだった。
高杉は何も言わなかった。
あまりに唐突な話に、野村は目を瞬かせながらおうのを見た。
高杉は朝一度顔を見たきりで、後はずっと布団にこもっている。
雅子は、野村が見てもわかるくらい痛々しい表情を作っていた。おうのを追い出したいわけではないのに、結果的にそうなってしまったと思っているのだろう。
「はい、急にすみません。雅子様も来てくださって人でも足りているようですし…。まぁ、他にも理由はあるんですけどね」
そう言って、おうのは寂しげに笑った。
そして、改まったように唇の端を引き締めた。
「雅子様。わたくし、貴方様が来たからいなくなるのではありません。しっかりとした理由があるのです」
「…そうですか…」
雅子はなおも不安そうな顔をしていたが、おうのの確固たる口調に、むりやり納得したように何度も頷いてみせた。
「もう、身支度はしてありますので」
「今日居なくなってしまわれるので?」
「ええ」
またもや仰天した野村に、はっきりとおうのが返した。
「高杉さんには、早朝に挨拶を済ませました」
だいぶん前から決めていたことなのか、おうのの行動は野村の想像よりもずっとずっと早かった。
「お世話になりました」
深々と三ツ指をついて礼をする。
それから、林家の面々にも丁寧に挨拶をして周り、おうのは太陽が高く昇る前に去っていった。
きらりと、髪に挿した簪のようなものが虹色に光ったのが見えた。
行く当てがあるのかはわからない。
それを聞くのは、なんとなく躊躇われた。
野村はおうのの全てを知っているわけではないし、おうのが言うまでは待っていようと、なんとなく、そう思っていたが、ついに尋ねずに終わった。
もやもやした何かを抱えながら、さっぱりとした笑顔で去ってゆくおうのの姿が瞼の裏にちらつきながら、野村は質素な昼食に手をつけるのだった。
「晋作様」
「…げほっ、ごほ」
高杉は咳で返事をした。ここ数日、己の目で見ても体調が芳しくないと分かる。
「おうのさんのこと…」
強気な性格の雅子にしては尻すぼみな声が出た。
「…んだ」
「え?」
「良いんだよ、あれで」
それだけで、雅子は、おうのと高杉の間に暗黙の密約のようなものがあることを知った。
「深く詮索する気はありませぬ。しかしーー、おうのさんの、あの…振り切ったようでどこか寂しげな笑みは、忘れようにも忘れられませぬ」
「…そうだな」
それきりだった。
高杉は何も言わなかった。