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武器、お勧めしない言葉遣い、流血などがあります。
この世界は、日本とは随分違うようだ。
まず服装。パーカーやスーツを着ている人がいない。黎空が見たのは、分厚い生地の軍服と、簡素なデザインの洋服だけだった。
さらに、乗り物がない。
(さっきの武器の中にも、銃がなかった。もしかしてこっちより発展が遅れているのか?)
千世はバーテンダーのような黒いベストに上着を羽織っていた。脇の下にホルスターがあったので、両脇に拳銃でも入れていたのだろう。この世界で銃を持っているのは偉い証拠なのだろうか。
(うん、銃刀法違反)
まあ、兎にも角にも逃げなければ始まらない。
この世界には木々が多く、今黎空が歩いてる古ぼけた石畳の道も、所々雑草に侵食されている。
扉を抜けた場所の裏にある道を、黎空は進んでいた。
流石に見ず知らずの場所を一人きりで、しかもそろそろ日が暮れるという時間帯にいる時点で、黎空は諦めかけていた。
(襲ってきた奴らに殺される、迷子になる、体力が持たなくて倒れる)
ここ最近本と箸以外を持っていなかった黎空にとって、この時間は苦痛でしかなかった。
(早くあったかい家に帰りたいー)
「ねぇ、キミ」
さーっ、と顔から血の気が引くのを感じた。
がさがさと生き物の気配がしていた森が、急に沈黙に包まれる。
(振り向いたら殺されるやつ)
逃げるんだ。まっすぐ前を見ろ。
そう心では思っていても、人間、いざとなった時には体が動かないものである。
当然、黎空も金縛りにあったように体の動きが止まっていた。
声の主は木に登ってこちらを見ていたのか、石畳に靴があたる着地音がした。
「ニホンの子?女の子だよね」
よくよく聞いてみれば、その声はまだ幼さの残る少女の声だった。
ゆっくりと振り向く。足が地面に固定されたように動かないので、顔と上半身だけで。
「ははっ、何その動き。敵だと思った?だいじょぶ、私武器とか持ってないから!」
白い筆のような、真っ白な肩までの髪に、赤いベルベットのカチューシャ。くりくりとした瞳はモカ色だった。
そして何より。
(服装に親近感ーー!!)
彼女はピンクのパーカーにジャージという出立ちだった。
(ええ?)
そして、現代らしい姿と並ぶとあまりにちぐはぐだったが。
彼女の横に鱗の生えた塊が居た。
中型の犬ほどの、竜。
(竜…?え、ん?)
「え……と、それ、その…」
「あ、パトロのこと?よくぞ聞いてくれた!この子は[漢字]狛竜[/漢字][ふりがな]はくりゅう[/ふりがな]!!可愛いでしょ!」
確かに、線の細い目にもふもふそうな顔周りの毛は、可愛いくなくはない。
(でも竜、竜だから)
「へ、へえ。パトロって言うんだ」
きゅるるっ、と竜が口を開けて鳴いた。小さくとも十分御立派な牙を持っていて、黎空は身震いした。
「私は黎空。あなたは?」
「フェルライン•クルトーザ!よろしく、リアン」
(リアン?)
愛称のつもりなのだろう。にっこりと笑うフェルラインに、黎空は親しみを覚えた。
「よろしく」
フェルラインの目がきらりと光った。
そして、次の瞬間ーー。
「ねぇ、リアンってニホンの子だよね?私、向こうの文化に憧れてるの!!こっちってあんまり電子機器とか発達してないし!ねね、スマホ持ってる?LINE交換しない?私、動物が好きで色々飼ってるんだけど」
「はいストップストップ」
パトロと呼ばれた竜がむすっとした顔でこちらを見たが気にしない。
「確かに私は日本から来たけど、ついさっき初めて[漢字]エルパシオ[/漢字][ふりがな]こっち[/ふりがな]に来て、襲われて逃げてきて…」
それを聞いた途端フェルラインの顔が曇った。
「じゃあ、リアンはここに居ない方が良いね」
「何で?」
「ここは、境界線だから」
確かに、フェルラインと黎空が居る場所には拳大の大きさの石が一定の間隔で並んでいる。
「これ、あげる!」
「ぅえっ?」
急に押し付けられて変な声が出た。
視線を手のひらへ移すと、それは乳白色の、手のひらに収まる小さな笛だった。
狛竜と同じ色をしている。竜が、さらに恨みがましい目つきで黎空のことを睨んできた。
「これは…」
「私、もっとリアンと話したい!だから、安全で暇になったらこの笛を吹いてみて!!」
そう言い残すと、フェルラインは、指で竜になにやら合図を出した。
するとむくむくと竜が小柄な馬ほどの大きさになり、彼女はさっとそれに飛び乗った後、じゃあねと言ってから、すぐに小さく見えなくなった。
黎空は笛を握りしめたまま、フェルラインがとんでいった方向をぼうっと見つめていた。
「おーい、黎空ー?」
聞き慣れた声。
「チセ!」
「お前どこまで言ってんだよ!!こっちは境界線だろ!」
「境界線って、どことどこの?」
「俺達のアライアン王国と、襲ってきたグレイラン森林王国のだよ」
お前そんな事も知らないのか、という呆れた口調でチセが言ったが、本当に知らなかったのだからしょうがない。
(襲ってきた国=グレイラン。グレイランの領地側に、フェルラインは居た)
とすると、彼女は敵国側の人間と言うことになる。
(だから、「ここには居ないほうがいい」か)
何だか面倒なことになりそうだ。
「お前、誰かと話してなかったか?」
「いーや」
敵国側の人間と、ついた初日に話したとなれば叱られたでは済まされなそうなので、黎空は黙っていることにした。
「急に逃げるなんて事になって悪かったな。最近は襲撃がなかったから落ち着いたと思ってたんだ」
(最近は、ねえ)
「何で仲悪いの、そこ」
「他人事じゃねーんだよ、帰ったら全部教えてやる」
「帰るってどこへ?」
(少なくとも私の家じゃないだろうな)
夕日の眩しさに目を細めながら、黎空は帰路についたのだった。
まず服装。パーカーやスーツを着ている人がいない。黎空が見たのは、分厚い生地の軍服と、簡素なデザインの洋服だけだった。
さらに、乗り物がない。
(さっきの武器の中にも、銃がなかった。もしかしてこっちより発展が遅れているのか?)
千世はバーテンダーのような黒いベストに上着を羽織っていた。脇の下にホルスターがあったので、両脇に拳銃でも入れていたのだろう。この世界で銃を持っているのは偉い証拠なのだろうか。
(うん、銃刀法違反)
まあ、兎にも角にも逃げなければ始まらない。
この世界には木々が多く、今黎空が歩いてる古ぼけた石畳の道も、所々雑草に侵食されている。
扉を抜けた場所の裏にある道を、黎空は進んでいた。
流石に見ず知らずの場所を一人きりで、しかもそろそろ日が暮れるという時間帯にいる時点で、黎空は諦めかけていた。
(襲ってきた奴らに殺される、迷子になる、体力が持たなくて倒れる)
ここ最近本と箸以外を持っていなかった黎空にとって、この時間は苦痛でしかなかった。
(早くあったかい家に帰りたいー)
「ねぇ、キミ」
さーっ、と顔から血の気が引くのを感じた。
がさがさと生き物の気配がしていた森が、急に沈黙に包まれる。
(振り向いたら殺されるやつ)
逃げるんだ。まっすぐ前を見ろ。
そう心では思っていても、人間、いざとなった時には体が動かないものである。
当然、黎空も金縛りにあったように体の動きが止まっていた。
声の主は木に登ってこちらを見ていたのか、石畳に靴があたる着地音がした。
「ニホンの子?女の子だよね」
よくよく聞いてみれば、その声はまだ幼さの残る少女の声だった。
ゆっくりと振り向く。足が地面に固定されたように動かないので、顔と上半身だけで。
「ははっ、何その動き。敵だと思った?だいじょぶ、私武器とか持ってないから!」
白い筆のような、真っ白な肩までの髪に、赤いベルベットのカチューシャ。くりくりとした瞳はモカ色だった。
そして何より。
(服装に親近感ーー!!)
彼女はピンクのパーカーにジャージという出立ちだった。
(ええ?)
そして、現代らしい姿と並ぶとあまりにちぐはぐだったが。
彼女の横に鱗の生えた塊が居た。
中型の犬ほどの、竜。
(竜…?え、ん?)
「え……と、それ、その…」
「あ、パトロのこと?よくぞ聞いてくれた!この子は[漢字]狛竜[/漢字][ふりがな]はくりゅう[/ふりがな]!!可愛いでしょ!」
確かに、線の細い目にもふもふそうな顔周りの毛は、可愛いくなくはない。
(でも竜、竜だから)
「へ、へえ。パトロって言うんだ」
きゅるるっ、と竜が口を開けて鳴いた。小さくとも十分御立派な牙を持っていて、黎空は身震いした。
「私は黎空。あなたは?」
「フェルライン•クルトーザ!よろしく、リアン」
(リアン?)
愛称のつもりなのだろう。にっこりと笑うフェルラインに、黎空は親しみを覚えた。
「よろしく」
フェルラインの目がきらりと光った。
そして、次の瞬間ーー。
「ねぇ、リアンってニホンの子だよね?私、向こうの文化に憧れてるの!!こっちってあんまり電子機器とか発達してないし!ねね、スマホ持ってる?LINE交換しない?私、動物が好きで色々飼ってるんだけど」
「はいストップストップ」
パトロと呼ばれた竜がむすっとした顔でこちらを見たが気にしない。
「確かに私は日本から来たけど、ついさっき初めて[漢字]エルパシオ[/漢字][ふりがな]こっち[/ふりがな]に来て、襲われて逃げてきて…」
それを聞いた途端フェルラインの顔が曇った。
「じゃあ、リアンはここに居ない方が良いね」
「何で?」
「ここは、境界線だから」
確かに、フェルラインと黎空が居る場所には拳大の大きさの石が一定の間隔で並んでいる。
「これ、あげる!」
「ぅえっ?」
急に押し付けられて変な声が出た。
視線を手のひらへ移すと、それは乳白色の、手のひらに収まる小さな笛だった。
狛竜と同じ色をしている。竜が、さらに恨みがましい目つきで黎空のことを睨んできた。
「これは…」
「私、もっとリアンと話したい!だから、安全で暇になったらこの笛を吹いてみて!!」
そう言い残すと、フェルラインは、指で竜になにやら合図を出した。
するとむくむくと竜が小柄な馬ほどの大きさになり、彼女はさっとそれに飛び乗った後、じゃあねと言ってから、すぐに小さく見えなくなった。
黎空は笛を握りしめたまま、フェルラインがとんでいった方向をぼうっと見つめていた。
「おーい、黎空ー?」
聞き慣れた声。
「チセ!」
「お前どこまで言ってんだよ!!こっちは境界線だろ!」
「境界線って、どことどこの?」
「俺達のアライアン王国と、襲ってきたグレイラン森林王国のだよ」
お前そんな事も知らないのか、という呆れた口調でチセが言ったが、本当に知らなかったのだからしょうがない。
(襲ってきた国=グレイラン。グレイランの領地側に、フェルラインは居た)
とすると、彼女は敵国側の人間と言うことになる。
(だから、「ここには居ないほうがいい」か)
何だか面倒なことになりそうだ。
「お前、誰かと話してなかったか?」
「いーや」
敵国側の人間と、ついた初日に話したとなれば叱られたでは済まされなそうなので、黎空は黙っていることにした。
「急に逃げるなんて事になって悪かったな。最近は襲撃がなかったから落ち着いたと思ってたんだ」
(最近は、ねえ)
「何で仲悪いの、そこ」
「他人事じゃねーんだよ、帰ったら全部教えてやる」
「帰るってどこへ?」
(少なくとも私の家じゃないだろうな)
夕日の眩しさに目を細めながら、黎空は帰路についたのだった。