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武器、お勧めしない言葉遣い、流血などがあります。
兄が死んだ。
まだ二十八歳だったのに。
[漢字]葉月黎空[/漢字][ふりがな]はづきりあ[/ふりがな]は、動揺しながらも冷静だった。
兄である葉月美鶴とは十歳差で、いつも輝いている兄の後ろ姿を見て育った。
窓際に額を押し付ける。
雨で結露した水滴が、額に付いた。
溜息をつく。
認めたくない衝動に、冷静さが勝ってしまった。
わかった事がある。
葉月美鶴は黎空の兄ではないらしいーー。
兄と連絡がつかなくなって一晩。とある病院からの知らせを受け、黎空はタクシーに乗ってその場所へ向かっていた。
「お兄さん、ここらであってます?」
(いや、お兄さんじゃなくてお姉さんなんだけど)
深い焦げ茶色のショートカット、服は黒、細くはないが鋭い目つき。女性にしては低い声に高身長。
よく男と見間違えられるのも当然と言われれば当然であった。
「はい。ありがとうございます」
料金を支払って外へ出る。雨は少しだけましになっていた。
傘を差すのが遅れて、携帯電話が少し濡れた。
住所は、絶対にここで合っている。
なのに、病院には見えない建物が目の前にはあった。
「これが病院…?」
いや、絶対に違う。
黒々とそびえる階数の高い建物は、なにがあっても病院には見えそうも無かった。
(病院じゃなくて軍事施設だろ、ここ)
しょうがない。何がどうであれ、ここが兄の死に関係があるなら行くしかない。
「不法侵入にならないかな」
ぎゅっ、と斜め掛けカバンのベルトを握りしめる。
人気のない薄暗い場所に、非力な女子一人が勝手に入るのは気が引けたが、やるしかない。
黎空は、門の中へと足を踏み出した。
途端、甲高い警報音のようなものが鳴り響いた。
「えっ?」
(やっぱ不法侵入か!?)
慌てて足を引っ込める。しかし、音は鳴り止まなかった。
(これって、…だいぶまずいんじゃ)
「お前っ!!」
急に門の後ろの木陰から何かが飛び出してきた。
「お前、葉月美鶴の弟か!?」
それは、珍しい色の髪を伸ばし、軽くゆわえた中肉中背の青年だった。柳のような眉に、整った鼻筋。
(うわあ、モテそうな顔)
いや、それ以前に。
「妹です」
「あ、すまん」
素直に謝ってくれた。
「情報だと妹ってあったんだけど、お前見たら間違ってんじゃねぇかと思って」
(めっちゃ失礼!!)
黎空の中の好青年のイメージは一瞬で吹き飛んだ。
「そうですか。それで、あなたは?」
目を細めて睨むように青年を見る。
「俺は[漢字]千世徹[/漢字][ふりがな]ちせとおる[/ふりがな]。チセで良い」
「葉月黎空です。葉月美鶴の妹です。多分血は繋がってません。あと、どういう状況ですか?」
「とりあえず、逃げんぞ」
「は?」
「伏せろっ!!」
背中を掴まれたと思った瞬間、千世が覆い被さって来た。
手が黎空の頭を抑え、地面に押しつけられる。
しゅんっ、という新幹線が通り過ぎたかのような音が頭上を通過し、その後でガラスが割れる音がした。
(いやいやいや!!)
「今のって…」
「くそっ、サプレッサー付きか!」
(サプレッサーって…狙撃されたってことか!?)
「チセ!!」
「何だよ!」
「あなた一体何者?何がどうなってる?」
「俺に敬語を使う価値はないってか」
「良いから!」
「話は後でだ!」
千世は黎空の手首を掴むと、猛然と走り始めた。
(はやっ…)
黎空は元々運動神経が良いわけでは全くない。いや、むしろ悪い。身長が高かったから足はそこそこ速かったが、それ以外は平均以下と言って良い。
「ったく、お前もうちょっと速く走れよ!」
千世が、引きずられるように走っていた黎空に目を向けた。
「体育は苦手なんだよ!」
「〈救世主〉さまが聞いて呆れるぜ」
千世が目をぐるりと回して言った。
「〈救世主)?」
(救世主ってなんだ?)
考え始めたら止まらない黎空の思考だが、今はそんなことを考えている暇はなかった。
まだ二十八歳だったのに。
[漢字]葉月黎空[/漢字][ふりがな]はづきりあ[/ふりがな]は、動揺しながらも冷静だった。
兄である葉月美鶴とは十歳差で、いつも輝いている兄の後ろ姿を見て育った。
窓際に額を押し付ける。
雨で結露した水滴が、額に付いた。
溜息をつく。
認めたくない衝動に、冷静さが勝ってしまった。
わかった事がある。
葉月美鶴は黎空の兄ではないらしいーー。
兄と連絡がつかなくなって一晩。とある病院からの知らせを受け、黎空はタクシーに乗ってその場所へ向かっていた。
「お兄さん、ここらであってます?」
(いや、お兄さんじゃなくてお姉さんなんだけど)
深い焦げ茶色のショートカット、服は黒、細くはないが鋭い目つき。女性にしては低い声に高身長。
よく男と見間違えられるのも当然と言われれば当然であった。
「はい。ありがとうございます」
料金を支払って外へ出る。雨は少しだけましになっていた。
傘を差すのが遅れて、携帯電話が少し濡れた。
住所は、絶対にここで合っている。
なのに、病院には見えない建物が目の前にはあった。
「これが病院…?」
いや、絶対に違う。
黒々とそびえる階数の高い建物は、なにがあっても病院には見えそうも無かった。
(病院じゃなくて軍事施設だろ、ここ)
しょうがない。何がどうであれ、ここが兄の死に関係があるなら行くしかない。
「不法侵入にならないかな」
ぎゅっ、と斜め掛けカバンのベルトを握りしめる。
人気のない薄暗い場所に、非力な女子一人が勝手に入るのは気が引けたが、やるしかない。
黎空は、門の中へと足を踏み出した。
途端、甲高い警報音のようなものが鳴り響いた。
「えっ?」
(やっぱ不法侵入か!?)
慌てて足を引っ込める。しかし、音は鳴り止まなかった。
(これって、…だいぶまずいんじゃ)
「お前っ!!」
急に門の後ろの木陰から何かが飛び出してきた。
「お前、葉月美鶴の弟か!?」
それは、珍しい色の髪を伸ばし、軽くゆわえた中肉中背の青年だった。柳のような眉に、整った鼻筋。
(うわあ、モテそうな顔)
いや、それ以前に。
「妹です」
「あ、すまん」
素直に謝ってくれた。
「情報だと妹ってあったんだけど、お前見たら間違ってんじゃねぇかと思って」
(めっちゃ失礼!!)
黎空の中の好青年のイメージは一瞬で吹き飛んだ。
「そうですか。それで、あなたは?」
目を細めて睨むように青年を見る。
「俺は[漢字]千世徹[/漢字][ふりがな]ちせとおる[/ふりがな]。チセで良い」
「葉月黎空です。葉月美鶴の妹です。多分血は繋がってません。あと、どういう状況ですか?」
「とりあえず、逃げんぞ」
「は?」
「伏せろっ!!」
背中を掴まれたと思った瞬間、千世が覆い被さって来た。
手が黎空の頭を抑え、地面に押しつけられる。
しゅんっ、という新幹線が通り過ぎたかのような音が頭上を通過し、その後でガラスが割れる音がした。
(いやいやいや!!)
「今のって…」
「くそっ、サプレッサー付きか!」
(サプレッサーって…狙撃されたってことか!?)
「チセ!!」
「何だよ!」
「あなた一体何者?何がどうなってる?」
「俺に敬語を使う価値はないってか」
「良いから!」
「話は後でだ!」
千世は黎空の手首を掴むと、猛然と走り始めた。
(はやっ…)
黎空は元々運動神経が良いわけでは全くない。いや、むしろ悪い。身長が高かったから足はそこそこ速かったが、それ以外は平均以下と言って良い。
「ったく、お前もうちょっと速く走れよ!」
千世が、引きずられるように走っていた黎空に目を向けた。
「体育は苦手なんだよ!」
「〈救世主〉さまが聞いて呆れるぜ」
千世が目をぐるりと回して言った。
「〈救世主)?」
(救世主ってなんだ?)
考え始めたら止まらない黎空の思考だが、今はそんなことを考えている暇はなかった。