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「高杉さん、今日はゆっくりとお休みになっては如何?」
不安げに目を彷徨わせるのは、おうの。
庭先で木刀を握っているのは高杉である。
「お熱が出たのは昨日なのでしょう?それに、咳も…」
「心配するな」
仏頂面で高杉は返すが、おうのは心配そうな表情を変えない。
「心配でございます」
新たな声が割り込んできた。野村である。
「昨夜はうなされていましたよ。そんな体で素振りなどもってのほかでございます」
「そんな体だからだ」
大体、あなた様は療養に来たのでしょうと刺々しい口調の野村をも無視して、高杉は玄関口にまわる。
慌てておうのが追おうとしたが、野村に止められて部屋に戻っていった。
ぴゅうっ、と空を切って、振り下ろす。単調な動作に単調な声。
ここは、高杉が療養しているところから少しのところにある湖のほとりであった。
高杉は人のいないところに行きたかった。
いつもどおりの眩しい太陽に、そよそよと揺れる草花。
高杉は目を細めて、感傷に浸った。
二人を無視してまでここへきたのには、理由があった。
高杉は、なんとなく、今日が己の最後の日ではないかと思ったのだ。
腰に差した刀を抜く。
べつに自決をしようというわけではない。が、刀を振って、武士として死にたいというのが心の中にあったのだ。
肺の中がごろごろとするような、あの日から何度も何度も感じた嫌な感覚。それが、昨夜からよりいっそう強くなっている。
でも、不思議と心は晴れやかであった。
あとは全て任せれば、今の武士達がこの世を変えてくれるのだ。
坂本龍馬に、桂に、西郷に…、野村のような人物でさえ、革命を起こす志士に宿を貸す。
まだまだ足りない、新世界を拝みたい、と思っていた己からしてみれば、この後世に託すという考え方は劇的な変化だった。
だが、もう良いのだ。
病は病。さだめはさだめ。
ここで死ぬというさだめならば、無理に生きる必要もない。
「高杉さま。こんなところにいらしたのですか」
息を切らせて姿を表したのは、野村だった。
高杉は舌打ちをした。
こんなに早く見つかるとは思わなかったし、死ぬとしたら一人で死にたかったから。
「一人にさせてくれ」
冷たい声が出た。
「分かるんだよ、“今日”だって」
「…!」
野村が目を見開く。が、すぐにきりりとした顔に戻った。
「だからどうしたのです。貴方は神を信じないのでしょう。[漢字]運命[/漢字][ふりがな]さだめ[/ふりがな]もなにもありませぬ。御自分で生きたいように生きてきたのではないのですか」
「死ぬ時にゃ性格が丸くなるってのは誠だな。もう、なんとも思わねぇ。坂本が大政奉還を実現させるのをこの目で見たかったのは確かだが、それが運命なら仕方がないだろう」
野村は、かちんときた。
それは、野村望東尼としてではなく、長年高杉を見てきた一介の女に過ぎぬ野村としてであった。
ばちん、と高杉の頬を張った。
「……」
「目をお覚まし下さいませ!昨日の貴方様の言葉はどうしたのです?たとえ今日その生命が尽きるとしても、私の知る高杉さまならば泰然とそれを受け止めております、なのにいまの高杉さまは!どうしたのです、神を信じないのでしょう、なら最期の最期まで立派なお姿を志士達に見せるのです!」
早口でまくしたて、罵詈雑言を浴びせる。途中から、野村自身もなんて言っているのかわからなくなっていた。
でも、どうにかしてこの思いをぶつけたかったのだ。
「俺は……生きる意味を失ったんじゃあない。死が来るのを待つ。死後に意味を見出しただけで、生きるのが嫌なわけでは」
「屁理屈はおよしなされ!」
ほとんど叫び声に近いような音量で、高杉につめよる。高杉は、鋭い瞳を伏せたままだまっていた。
「私を牢から連れ出した高杉晋作は、もはや貴方様ではない」
捨て台詞のようにその言葉を吐き捨てて、野村はくるりと踵を返して、戻っていった。
どさ、と音がした。
野村は心の底が冷える思いで振り返った。
高杉が倒れていた。
不安げに目を彷徨わせるのは、おうの。
庭先で木刀を握っているのは高杉である。
「お熱が出たのは昨日なのでしょう?それに、咳も…」
「心配するな」
仏頂面で高杉は返すが、おうのは心配そうな表情を変えない。
「心配でございます」
新たな声が割り込んできた。野村である。
「昨夜はうなされていましたよ。そんな体で素振りなどもってのほかでございます」
「そんな体だからだ」
大体、あなた様は療養に来たのでしょうと刺々しい口調の野村をも無視して、高杉は玄関口にまわる。
慌てておうのが追おうとしたが、野村に止められて部屋に戻っていった。
ぴゅうっ、と空を切って、振り下ろす。単調な動作に単調な声。
ここは、高杉が療養しているところから少しのところにある湖のほとりであった。
高杉は人のいないところに行きたかった。
いつもどおりの眩しい太陽に、そよそよと揺れる草花。
高杉は目を細めて、感傷に浸った。
二人を無視してまでここへきたのには、理由があった。
高杉は、なんとなく、今日が己の最後の日ではないかと思ったのだ。
腰に差した刀を抜く。
べつに自決をしようというわけではない。が、刀を振って、武士として死にたいというのが心の中にあったのだ。
肺の中がごろごろとするような、あの日から何度も何度も感じた嫌な感覚。それが、昨夜からよりいっそう強くなっている。
でも、不思議と心は晴れやかであった。
あとは全て任せれば、今の武士達がこの世を変えてくれるのだ。
坂本龍馬に、桂に、西郷に…、野村のような人物でさえ、革命を起こす志士に宿を貸す。
まだまだ足りない、新世界を拝みたい、と思っていた己からしてみれば、この後世に託すという考え方は劇的な変化だった。
だが、もう良いのだ。
病は病。さだめはさだめ。
ここで死ぬというさだめならば、無理に生きる必要もない。
「高杉さま。こんなところにいらしたのですか」
息を切らせて姿を表したのは、野村だった。
高杉は舌打ちをした。
こんなに早く見つかるとは思わなかったし、死ぬとしたら一人で死にたかったから。
「一人にさせてくれ」
冷たい声が出た。
「分かるんだよ、“今日”だって」
「…!」
野村が目を見開く。が、すぐにきりりとした顔に戻った。
「だからどうしたのです。貴方は神を信じないのでしょう。[漢字]運命[/漢字][ふりがな]さだめ[/ふりがな]もなにもありませぬ。御自分で生きたいように生きてきたのではないのですか」
「死ぬ時にゃ性格が丸くなるってのは誠だな。もう、なんとも思わねぇ。坂本が大政奉還を実現させるのをこの目で見たかったのは確かだが、それが運命なら仕方がないだろう」
野村は、かちんときた。
それは、野村望東尼としてではなく、長年高杉を見てきた一介の女に過ぎぬ野村としてであった。
ばちん、と高杉の頬を張った。
「……」
「目をお覚まし下さいませ!昨日の貴方様の言葉はどうしたのです?たとえ今日その生命が尽きるとしても、私の知る高杉さまならば泰然とそれを受け止めております、なのにいまの高杉さまは!どうしたのです、神を信じないのでしょう、なら最期の最期まで立派なお姿を志士達に見せるのです!」
早口でまくしたて、罵詈雑言を浴びせる。途中から、野村自身もなんて言っているのかわからなくなっていた。
でも、どうにかしてこの思いをぶつけたかったのだ。
「俺は……生きる意味を失ったんじゃあない。死が来るのを待つ。死後に意味を見出しただけで、生きるのが嫌なわけでは」
「屁理屈はおよしなされ!」
ほとんど叫び声に近いような音量で、高杉につめよる。高杉は、鋭い瞳を伏せたままだまっていた。
「私を牢から連れ出した高杉晋作は、もはや貴方様ではない」
捨て台詞のようにその言葉を吐き捨てて、野村はくるりと踵を返して、戻っていった。
どさ、と音がした。
野村は心の底が冷える思いで振り返った。
高杉が倒れていた。