閲覧前に必ずご確認ください
設定ががばがばです。
未来だけを見据えて明るく生きる人、というものは中々居ない。
高杉の知っている人の中でも、それは坂本龍馬くらいなものである。
高杉もその例外には及ばず、浅い夢の中で過去を見て、目覚めた後も悶々と回想を続ける。
そこは戦場だった。
矢に砲弾に銃弾の飛び交う中、命と命を斬り結ぶ刀。
血飛沫が降り注ぎ、仲間の、敵の屍を踏み越えてゆく歩兵達。
これが戦場だ。
しかし、高杉は戦争というものに嫌悪感がなかった。
己で生と死の選択が出来るのだ。
自らの実力、運で自分の人生をいかようにも変えられる、またとないチャンスだと思っていた。
でもーー、と高杉は思う。
幕府が打ち倒され、新しい政府になったとあらば、そして外国と戦争などをしようとなれば、きっと武士だけではない。銃を持てば、百姓も軍人だ。
徴兵制が実行され、戦争を嫌悪する民が戦場へ駆り出されれば、それは地獄絵図になるだろう。
それを坂本龍馬に話した所、彼は、「外国と戦争なぞせん世にするがや」と笑った。
今、何をしているのだろう。
大政奉還という平和的解決を試みて奔走している、と仲間からの連絡で聞いた。
高杉の心はもっと過去へ飛ぶ。
それは、そんな戦の真っ只中。
高杉はなんとなく肺に違和感を覚えていたが、いつも通りの戦支度をして、戦場のど真ん中で、迫りくる敵を斬りながら、次々に指示を飛ばしていた。
「南東方向が危ない、残りの人員で守りを固めろ!北方向は歩兵団と俺で行く!逃げるやつは斬れっ!」
大声で叫ぶ高杉に、隊士たちは往々に返事をし、立ちこめる硝煙の中に消えてゆく。
「隊長!!本部近くの原生林から襲撃が!!」
不意に背後から足音がした。
「すぐ行くから待ってろ!」
「ですがもうすぐそばにっ…」
その言葉を言い終わらぬうちに、報告した男がつんのめって倒れた。
男の胸からは血が吹き出し、その数秒後には高杉の頬を銃弾が掠めた。
高杉は一瞬で状況を理解した。
「奇襲だ!!」
敵と戦う仲間の顔が、驚愕の形に歪む。
そして隙が生まれた瞬間、刀を鳩尾に捩じ込まれる。
あっという間に、三人が倒れ伏した。
まだ斬り合っている仲間の顔にも焦燥感が浮かぶ。
「向こうは敵味方関係なく撃ってくる!残ってるやつで走れ!!銃弾が届かないところまで逃げろっ!!!」
高杉は大声で叫んだ。
これが挟み撃ち作戦だとは分かっていたものの、南東に寄越した部下達が戻ってくることを期待した。
兎に角、今はいったん引くべきだ。
冷静に、冷静に。
高杉はいくつもの死線を潜り抜けてきたからわかる。
焦ってはいけない、焦ってはいけない。
分かっていたはずなのに、どうやら体には多大な負荷がかかっていたらしい。
まあ、当たり前と言われれば当たり前だが。
「ゔっ…げほっ、ごほっ」
はじめ、何が起きたのかわからなかった。
「隊長っ!?」
驚きの声を上げたのは隊の副官だった。
それでやっと、己が血を吐いて倒れ、視界が暗転したのを知った。
「…俺に構うなっ、走れェ!!」
高杉は、血の味がする喉の奥からあらんかぎりの声を振り絞った。
副官は、ほんの数秒逡巡した後、走り去っていった。
銃で胸を打たれたような衝撃と共にえずく。
さらに、迫り上がってくる何かを感じた。
血と、どうしようもない悲壮感が高杉の胸を支配していた。
戦場のど真ん中で血を吐いて倒れることは珍しくもなんともない。
ただし、病による喀血で倒れたのは高杉だけだった。
高杉は予想通り南東から戻ってきた仲間に救出された。
戦い自体は別の隊の活躍で勝利を収めたが、高杉は二度とと言っていいほど、戦場に出られなくなった。
「高杉さま」
「あ…?」
「朝餉が冷めます」
「あぁ、すまん」
能面の顔に少しだけ皺の寄せた野村を見て、高杉は目をしばたかせた。
「俺は、どんな顔をしていた?」
「普段と同じで御座いますが」
野村は能面の如き表情のまま首を傾げた。
心の中で、野村は思った。
わたしくしが泣きそうになるほど、哀しそうな顔をしていましたよーー、とは、口が裂けても言えない、と。
高杉の知っている人の中でも、それは坂本龍馬くらいなものである。
高杉もその例外には及ばず、浅い夢の中で過去を見て、目覚めた後も悶々と回想を続ける。
そこは戦場だった。
矢に砲弾に銃弾の飛び交う中、命と命を斬り結ぶ刀。
血飛沫が降り注ぎ、仲間の、敵の屍を踏み越えてゆく歩兵達。
これが戦場だ。
しかし、高杉は戦争というものに嫌悪感がなかった。
己で生と死の選択が出来るのだ。
自らの実力、運で自分の人生をいかようにも変えられる、またとないチャンスだと思っていた。
でもーー、と高杉は思う。
幕府が打ち倒され、新しい政府になったとあらば、そして外国と戦争などをしようとなれば、きっと武士だけではない。銃を持てば、百姓も軍人だ。
徴兵制が実行され、戦争を嫌悪する民が戦場へ駆り出されれば、それは地獄絵図になるだろう。
それを坂本龍馬に話した所、彼は、「外国と戦争なぞせん世にするがや」と笑った。
今、何をしているのだろう。
大政奉還という平和的解決を試みて奔走している、と仲間からの連絡で聞いた。
高杉の心はもっと過去へ飛ぶ。
それは、そんな戦の真っ只中。
高杉はなんとなく肺に違和感を覚えていたが、いつも通りの戦支度をして、戦場のど真ん中で、迫りくる敵を斬りながら、次々に指示を飛ばしていた。
「南東方向が危ない、残りの人員で守りを固めろ!北方向は歩兵団と俺で行く!逃げるやつは斬れっ!」
大声で叫ぶ高杉に、隊士たちは往々に返事をし、立ちこめる硝煙の中に消えてゆく。
「隊長!!本部近くの原生林から襲撃が!!」
不意に背後から足音がした。
「すぐ行くから待ってろ!」
「ですがもうすぐそばにっ…」
その言葉を言い終わらぬうちに、報告した男がつんのめって倒れた。
男の胸からは血が吹き出し、その数秒後には高杉の頬を銃弾が掠めた。
高杉は一瞬で状況を理解した。
「奇襲だ!!」
敵と戦う仲間の顔が、驚愕の形に歪む。
そして隙が生まれた瞬間、刀を鳩尾に捩じ込まれる。
あっという間に、三人が倒れ伏した。
まだ斬り合っている仲間の顔にも焦燥感が浮かぶ。
「向こうは敵味方関係なく撃ってくる!残ってるやつで走れ!!銃弾が届かないところまで逃げろっ!!!」
高杉は大声で叫んだ。
これが挟み撃ち作戦だとは分かっていたものの、南東に寄越した部下達が戻ってくることを期待した。
兎に角、今はいったん引くべきだ。
冷静に、冷静に。
高杉はいくつもの死線を潜り抜けてきたからわかる。
焦ってはいけない、焦ってはいけない。
分かっていたはずなのに、どうやら体には多大な負荷がかかっていたらしい。
まあ、当たり前と言われれば当たり前だが。
「ゔっ…げほっ、ごほっ」
はじめ、何が起きたのかわからなかった。
「隊長っ!?」
驚きの声を上げたのは隊の副官だった。
それでやっと、己が血を吐いて倒れ、視界が暗転したのを知った。
「…俺に構うなっ、走れェ!!」
高杉は、血の味がする喉の奥からあらんかぎりの声を振り絞った。
副官は、ほんの数秒逡巡した後、走り去っていった。
銃で胸を打たれたような衝撃と共にえずく。
さらに、迫り上がってくる何かを感じた。
血と、どうしようもない悲壮感が高杉の胸を支配していた。
戦場のど真ん中で血を吐いて倒れることは珍しくもなんともない。
ただし、病による喀血で倒れたのは高杉だけだった。
高杉は予想通り南東から戻ってきた仲間に救出された。
戦い自体は別の隊の活躍で勝利を収めたが、高杉は二度とと言っていいほど、戦場に出られなくなった。
「高杉さま」
「あ…?」
「朝餉が冷めます」
「あぁ、すまん」
能面の顔に少しだけ皺の寄せた野村を見て、高杉は目をしばたかせた。
「俺は、どんな顔をしていた?」
「普段と同じで御座いますが」
野村は能面の如き表情のまま首を傾げた。
心の中で、野村は思った。
わたしくしが泣きそうになるほど、哀しそうな顔をしていましたよーー、とは、口が裂けても言えない、と。