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高杉晋作の生き様

#2

四月二日

高杉は、昼過ぎまでぐっすりと眠りに溺れ、日が少し傾き始めた頃に布団から抜け出した。
「んー…」
体調は可もなく不可もなく、といったところだろうか。病で痩せた体をどうにか元に戻そうと、高杉は立て掛けてあった木刀を握った。
病は気から、という言葉通り、ここ三日ほど、体調が良好な時はこうして剣を振っている。
剣を振るうその瞬間のみが、己が病に侵されているという事実から逃れられた。

がらりと障子を開け放つと、高杉は思わずあっと声を上げた。
真っ赤な夕日が、夕日にしかわからない時を刻んで、ゆっくりと地へ落ちてゆくところだった。
なんともいえないものが心に迫ってきて、木刀を置いて、縁側に座る。
ほんの少し肌寒かったが、それよりも夕日に見惚れていた。
太陽の光に照らされて、周囲の雑草も建物も何もかもが、淡い橙色に染まっていた。
鴉が遠くで鳴いている。
何故か、生温かいものが高杉の頬を伝った。
それをぬぐいもせずに、ゆるりと吹く花信風に身を任せ、風に乗って落ちる終わりを迎えた桜を眺める。
「面白れぇなァ…」
そんな言葉が唇から漏れた。
ぼたぼたと、涙が落ちる。
夕日の残光がますます激しく、されど包み込むように、高杉を煌々と照らした。
「落ちる夕日は美しい」
なんて詩的なことを、涙に濡れた顔で空を見上げながら呟く。
戦いに身を投じていれば、この景色は見られなかった。
けれど、それよりも大きな思いが高杉の心を占めていた。

「高杉さま」
背後から声がした。
薄着のままでは風邪をひいてしまいます」
寝巻きであぐらをかき、後姿は堂々たる男であるのに涙を流すこの青年を見て、野村はため息をついた。

野村はこの寺の尼僧である。
攘夷志士、勤労派を匿う一拠点とされていたこの寺に、高杉は療養にきていた。
恐らく、結核。
しかも、もう永くはないようであった。
高杉自身はそのことについては触れず、療養に来ただけだ、癒ればすぐに戻るなどと言っている。

「こんなにも世は面白れぇのに、あいつらは何も分かっちゃいない。大政を還すその場その時代に、生きて立ち会えるんだぜ?まさに運命ってやつだよなァ」
涙声で、高杉が呟く。
「壊すのは楽しいが、造るのはもっと楽しいんだ。知ってっか?」
初めて、高杉が振り向いた。
歪んだ顔は、泣き笑いだった。

「突進する牛のような貴方さまに造る?」
野村は冷たい声で言った。
「ふ、いつも通りの毒舌だ」
高杉が笑う。
が、野村は顔を顰めた。
「風邪を引くと言っているでしょう。入りなさい」
「お前は俺の母親か」
「違いますが、ーー」
言い切る前に、高杉が言葉を継いだ。
「こんなにも夕日が綺麗だ。その冷たさとは裏腹に感受性豊かなお前なら、ーー」
今度は高杉が言い切る前に野村が言葉を継いだ。
「確かに夕日は綺麗で御座います。しかし、地に落ちる夕日を見て、俺もこのように落ちるのか、等と勝手に感慨深げになって泣いていたのは貴方さまでしょう。早く入りなさいませ」
「…ったく」
「おうのさまが、夕食を持ってきてくださりますから」
「あいあい」
適当にいなして部屋に戻る。少しだけふらついたのは、野村には黙っていた。

「寒ければ上着、着てくださいよ」
「俺の母はミチという」
「はいはい」
野村も軽く流して部屋を出る。

「面白き こともなき世を 面白く」

なんとなく、そう呟いてみた。
三度呟き、気に入って書き留めた。






作者メッセージ

ショートストーリーに上げた所ですね…次回からはオリジナルになります!

2025/11/23 16:48

りゃんりゃん。
ID:≫ 5pplVSwPOVTKw
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