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此の日、いよいよ来たか、という思いを、高杉は持っていた。
人は死ぬ時に穏やかな心境になると言われているが、高杉はまったくの逆であった。
一週間ほど前に倒れた時は、死ぬ、というよりは体調の悪化、すなわち天命がつきるまでの日にちが迫っていることを体が知らせてくれたのだ、と高杉は思っている。
「生きて大業の見込みあらばいつまでも生くべし」
その言に従い、どんな時も己の為すことの大切さを一番に考え行動した。
切腹なんぞ、してたまるかと思っていた。
何度も脱藩したし、穴に入りたくなるような失敗もしたし、討つべき夷敵に感銘を覚えたこともあった。
一人前に男として嫁をもらい子をもらった。
幾人もの同志に助けられ、幾人もの人を斬り、幾つもの事を成すことが出来た。
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
でも、まだ、まだ足りない。
こんな所で消えてしまうような、灯火のような存在にはなりたくない。
畳の上で死にたくない。
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
今死んでも、なにも残らないのではないか?
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
死んでも、師や好敵手と同じ場所には行けない。
「死して不朽ーー」
頭から離れない。
そもそも、なぜ、此の時代に生まれた?
なぜ死ぬのか?
なぜ武士なのか?
頭の中にまで病が侵食しているのか、思考が混乱していた。
「…さま」
遠くから、誰かを呼ぶ声がする。
「高杉さま」
うっすらと目を開けると、珍しく心配顔の野村が居た。
「…どうした」
「うなされておりましたよ」
「野村」
「はい」
高杉は床の上で小さく息を吸った。
「…人が斬りたい」
野村の目に初めて恐怖の色が浮かんだ」
「何をおっしゃいます」
「まだ足りない…あいつらと論を交わしたい。頭の固い連中どもを変えたい。未来を生きる子供に、何かを継がせたい。亜米利加に行きたい。あいつに、もっと良い生活をさせてやりたい。剣を極めたい…」
「高杉さま。それは弱音ですか」
「あぁ……弱音だ。悪いか」
「はい」
「黙れ」
あまりに冷たい声だった。
野村は息を呑んで、同じく冷たい瞳の高杉を見つめた。
「お前は僧だ。仏のしもべだ。だのに、死の事を何も分かっちゃいない」
「当たり前です。死んだことがありませんから」
「へらず口を叩くのも良い加減にしろよ」
しまった、と思った。
高杉は何かを悟っている。
野村の心に、後悔の瀑布が襲った。
また、此の人を傷つけてしまったのではないか?
何か、というのは__己の死期なのだ。
なのに____。
「高杉さま。貴方は…」
言い切る前に、高杉は大量の血を吐いた。
「っ…の、むら」
がさがさに掠れた声で高杉が呼びかけてくる。
「喋らないで」
悲鳴のような己の声を聞きながら、必死で高杉の体を支える。
が、なすすべはもうなかった。
「今、言っ、たこと、は」
話を聞かない高杉は咳き込みながら言う。
「ぜんぶ、わす、れろ」
「高杉さま!!」
凄絶な笑みを浮かべる。
「俺は、笑って、死んだと、そう…」
伝えてくれ。そう言いたかったに違いない。
夜が明ける。
世が、明ける前に。
人は死ぬ時に穏やかな心境になると言われているが、高杉はまったくの逆であった。
一週間ほど前に倒れた時は、死ぬ、というよりは体調の悪化、すなわち天命がつきるまでの日にちが迫っていることを体が知らせてくれたのだ、と高杉は思っている。
「生きて大業の見込みあらばいつまでも生くべし」
その言に従い、どんな時も己の為すことの大切さを一番に考え行動した。
切腹なんぞ、してたまるかと思っていた。
何度も脱藩したし、穴に入りたくなるような失敗もしたし、討つべき夷敵に感銘を覚えたこともあった。
一人前に男として嫁をもらい子をもらった。
幾人もの同志に助けられ、幾人もの人を斬り、幾つもの事を成すことが出来た。
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
でも、まだ、まだ足りない。
こんな所で消えてしまうような、灯火のような存在にはなりたくない。
畳の上で死にたくない。
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
今死んでも、なにも残らないのではないか?
「死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし」
死んでも、師や好敵手と同じ場所には行けない。
「死して不朽ーー」
頭から離れない。
そもそも、なぜ、此の時代に生まれた?
なぜ死ぬのか?
なぜ武士なのか?
頭の中にまで病が侵食しているのか、思考が混乱していた。
「…さま」
遠くから、誰かを呼ぶ声がする。
「高杉さま」
うっすらと目を開けると、珍しく心配顔の野村が居た。
「…どうした」
「うなされておりましたよ」
「野村」
「はい」
高杉は床の上で小さく息を吸った。
「…人が斬りたい」
野村の目に初めて恐怖の色が浮かんだ」
「何をおっしゃいます」
「まだ足りない…あいつらと論を交わしたい。頭の固い連中どもを変えたい。未来を生きる子供に、何かを継がせたい。亜米利加に行きたい。あいつに、もっと良い生活をさせてやりたい。剣を極めたい…」
「高杉さま。それは弱音ですか」
「あぁ……弱音だ。悪いか」
「はい」
「黙れ」
あまりに冷たい声だった。
野村は息を呑んで、同じく冷たい瞳の高杉を見つめた。
「お前は僧だ。仏のしもべだ。だのに、死の事を何も分かっちゃいない」
「当たり前です。死んだことがありませんから」
「へらず口を叩くのも良い加減にしろよ」
しまった、と思った。
高杉は何かを悟っている。
野村の心に、後悔の瀑布が襲った。
また、此の人を傷つけてしまったのではないか?
何か、というのは__己の死期なのだ。
なのに____。
「高杉さま。貴方は…」
言い切る前に、高杉は大量の血を吐いた。
「っ…の、むら」
がさがさに掠れた声で高杉が呼びかけてくる。
「喋らないで」
悲鳴のような己の声を聞きながら、必死で高杉の体を支える。
が、なすすべはもうなかった。
「今、言っ、たこと、は」
話を聞かない高杉は咳き込みながら言う。
「ぜんぶ、わす、れろ」
「高杉さま!!」
凄絶な笑みを浮かべる。
「俺は、笑って、死んだと、そう…」
伝えてくれ。そう言いたかったに違いない。
夜が明ける。
世が、明ける前に。