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高杉晋作の生き様

#13

四月十二日

「げほっ、げほっ」
「高杉さま?」
「…っ、いや、大丈夫だ、気にするな」
おうのがいなくなってから、高杉はますます寝込むようになった。
高杉の不調はおうのが居なくなってからなのか、本当に悪化したからなのかは分からない。
「お客様がお見えなのですが」
「…げほっ、客?」
「はい。不思議な関西弁を使う長身の男なのですが…」
「あぁ、入れてやれ。そいつは俺の旧友だ」
「かしこまりました」

「たーかーすーぎっ、見舞いに来てやったでェ」
がらりと障子が開かれる。
「…うるさいな」
「せっかく来てやったのに何やその言い草は」
現れたのは、大柄で塩顔、大小を腰に差した男だった。
「…張三…だいぶ日本語が上達したな」
「もちろんや。京都におったら関西弁まで覚えてしもたからなァ」
微妙にイントネーションは違うが、会話をするには十分すぎる日本語である。
彼の名は張三。
高杉が上海留学中に出会った、清の軍人である。
「お前、戦中にぶっ倒れたんだってェ?良く生きてたな」

「…まぁ、な」
「お前」
どっかりと枕元に座布団を引き寄せ、あぐらをかいて張三は座った。
細い目がさらに細められる。
「ビョーキだからって、腹かっさばいて死ぬんやないで」
「げほ、何故?」
少し自嘲気味に、高杉は口角を上げた。

「いやァ、合理的はお前さんなら、武士らしく今のウチに、なんて考えてそうだったからナ」
「合理的な俺ァ、切腹なんぞしねぇよ」
「切腹はニホンの武士の最大の合理的判断だろ?ったく理解できねーナ」
「新しい世にゃ、切腹なんて古いもんさ…それに、まだ希望はある」
「そうさなァ、伊藤とかいう若造も、聞多も心配してたゼ」
「聞多…井上か」
「おうよ」

不意に高杉が咳き込んだ。湿った音が喉を上下し、布団の中で彼の体が震えるのが、張三から見てもありありとわかった。
「げほっ、かはっ」
「大丈夫か?」
真っ赤な花が、口元を抑えた高杉の手のひらに咲いた。
「高杉っ!!」
ごぼごぼと嫌な音がした。
「…でけぇ声出すんじゃねぇよ…聞こえちまうだろ」
「高杉ィ」
硬質な声が響く。
「あン尼僧に、言ってないな」
高杉は手のひらについた血に汚泥を見るような視線を向けている。
「こんなに悪化してるって、伝えてないやろ」
「…俺の勝手だ」
「ホンマに死ぬで」
「分かってる」

おうのがいない今、もう、隠す必要などないはずなのに。
いつの間にか、当たり前になってしまった。

「張三…悪いが言わないでもらえるか」
「ええけど…何でや?信用できへんのカ?」
「いいや…俺が死んだとき、最後まで立派だったって、そう、後世に言い伝えて欲しいからさ。希望もあったのに、突然死だったって」

張三は呆れて首を振った。
「ニホン人は分からへんな。ただ格好つけたいだけやないか」
「悪いな」
「謝んなや、男と男の約束だから、しっかり守ってやらぁ」

さようなら、も、またな、も無かった。
張三は、ひらひらと手を振って帰っていった。

作者メッセージ

張三は史実の人物ではありません。

2026/01/15 08:05

りゃんりゃん。
ID:≫ 5pplVSwPOVTKw
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