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「げほっ、げほっ」
「高杉さま?」
「…っ、いや、大丈夫だ、気にするな」
おうのがいなくなってから、高杉はますます寝込むようになった。
高杉の不調はおうのが居なくなってからなのか、本当に悪化したからなのかは分からない。
「お客様がお見えなのですが」
「…げほっ、客?」
「はい。不思議な関西弁を使う長身の男なのですが…」
「あぁ、入れてやれ。そいつは俺の旧友だ」
「かしこまりました」
「たーかーすーぎっ、見舞いに来てやったでェ」
がらりと障子が開かれる。
「…うるさいな」
「せっかく来てやったのに何やその言い草は」
現れたのは、大柄で塩顔、大小を腰に差した男だった。
「…張三…だいぶ日本語が上達したな」
「もちろんや。京都におったら関西弁まで覚えてしもたからなァ」
微妙にイントネーションは違うが、会話をするには十分すぎる日本語である。
彼の名は張三。
高杉が上海留学中に出会った、清の軍人である。
「お前、戦中にぶっ倒れたんだってェ?良く生きてたな」
「…まぁ、な」
「お前」
どっかりと枕元に座布団を引き寄せ、あぐらをかいて張三は座った。
細い目がさらに細められる。
「ビョーキだからって、腹かっさばいて死ぬんやないで」
「げほ、何故?」
少し自嘲気味に、高杉は口角を上げた。
「いやァ、合理的はお前さんなら、武士らしく今のウチに、なんて考えてそうだったからナ」
「合理的な俺ァ、切腹なんぞしねぇよ」
「切腹はニホンの武士の最大の合理的判断だろ?ったく理解できねーナ」
「新しい世にゃ、切腹なんて古いもんさ…それに、まだ希望はある」
「そうさなァ、伊藤とかいう若造も、聞多も心配してたゼ」
「聞多…井上か」
「おうよ」
不意に高杉が咳き込んだ。湿った音が喉を上下し、布団の中で彼の体が震えるのが、張三から見てもありありとわかった。
「げほっ、かはっ」
「大丈夫か?」
真っ赤な花が、口元を抑えた高杉の手のひらに咲いた。
「高杉っ!!」
ごぼごぼと嫌な音がした。
「…でけぇ声出すんじゃねぇよ…聞こえちまうだろ」
「高杉ィ」
硬質な声が響く。
「あン尼僧に、言ってないな」
高杉は手のひらについた血に汚泥を見るような視線を向けている。
「こんなに悪化してるって、伝えてないやろ」
「…俺の勝手だ」
「ホンマに死ぬで」
「分かってる」
おうのがいない今、もう、隠す必要などないはずなのに。
いつの間にか、当たり前になってしまった。
「張三…悪いが言わないでもらえるか」
「ええけど…何でや?信用できへんのカ?」
「いいや…俺が死んだとき、最後まで立派だったって、そう、後世に言い伝えて欲しいからさ。希望もあったのに、突然死だったって」
張三は呆れて首を振った。
「ニホン人は分からへんな。ただ格好つけたいだけやないか」
「悪いな」
「謝んなや、男と男の約束だから、しっかり守ってやらぁ」
さようなら、も、またな、も無かった。
張三は、ひらひらと手を振って帰っていった。
「高杉さま?」
「…っ、いや、大丈夫だ、気にするな」
おうのがいなくなってから、高杉はますます寝込むようになった。
高杉の不調はおうのが居なくなってからなのか、本当に悪化したからなのかは分からない。
「お客様がお見えなのですが」
「…げほっ、客?」
「はい。不思議な関西弁を使う長身の男なのですが…」
「あぁ、入れてやれ。そいつは俺の旧友だ」
「かしこまりました」
「たーかーすーぎっ、見舞いに来てやったでェ」
がらりと障子が開かれる。
「…うるさいな」
「せっかく来てやったのに何やその言い草は」
現れたのは、大柄で塩顔、大小を腰に差した男だった。
「…張三…だいぶ日本語が上達したな」
「もちろんや。京都におったら関西弁まで覚えてしもたからなァ」
微妙にイントネーションは違うが、会話をするには十分すぎる日本語である。
彼の名は張三。
高杉が上海留学中に出会った、清の軍人である。
「お前、戦中にぶっ倒れたんだってェ?良く生きてたな」
「…まぁ、な」
「お前」
どっかりと枕元に座布団を引き寄せ、あぐらをかいて張三は座った。
細い目がさらに細められる。
「ビョーキだからって、腹かっさばいて死ぬんやないで」
「げほ、何故?」
少し自嘲気味に、高杉は口角を上げた。
「いやァ、合理的はお前さんなら、武士らしく今のウチに、なんて考えてそうだったからナ」
「合理的な俺ァ、切腹なんぞしねぇよ」
「切腹はニホンの武士の最大の合理的判断だろ?ったく理解できねーナ」
「新しい世にゃ、切腹なんて古いもんさ…それに、まだ希望はある」
「そうさなァ、伊藤とかいう若造も、聞多も心配してたゼ」
「聞多…井上か」
「おうよ」
不意に高杉が咳き込んだ。湿った音が喉を上下し、布団の中で彼の体が震えるのが、張三から見てもありありとわかった。
「げほっ、かはっ」
「大丈夫か?」
真っ赤な花が、口元を抑えた高杉の手のひらに咲いた。
「高杉っ!!」
ごぼごぼと嫌な音がした。
「…でけぇ声出すんじゃねぇよ…聞こえちまうだろ」
「高杉ィ」
硬質な声が響く。
「あン尼僧に、言ってないな」
高杉は手のひらについた血に汚泥を見るような視線を向けている。
「こんなに悪化してるって、伝えてないやろ」
「…俺の勝手だ」
「ホンマに死ぬで」
「分かってる」
おうのがいない今、もう、隠す必要などないはずなのに。
いつの間にか、当たり前になってしまった。
「張三…悪いが言わないでもらえるか」
「ええけど…何でや?信用できへんのカ?」
「いいや…俺が死んだとき、最後まで立派だったって、そう、後世に言い伝えて欲しいからさ。希望もあったのに、突然死だったって」
張三は呆れて首を振った。
「ニホン人は分からへんな。ただ格好つけたいだけやないか」
「悪いな」
「謝んなや、男と男の約束だから、しっかり守ってやらぁ」
さようなら、も、またな、も無かった。
張三は、ひらひらと手を振って帰っていった。