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言霊の幸ふ国(ことだまのさきわうくに)

#6

「え…チセと、リンクスさんだけ?」
「俺は呼び捨てなのかよ」
「ここ数年は随分弱体化してしまって…」
リンクスが申し訳なさそうに眉を下げた。
チセは、憤慨したようにぷいと顔を背けている。
「黎空、ちなみにチセは今年で十九よ」
黎空は十八歳。
と言うことはーー。
「年上…!?」
「悪かったな年上で!!」
ますます苛々した口調でチセが卓を叩いた。
イグニスが、現状二人。ということは、美鶴がいた時でさえ三人という事になる。
他にいなくなってしまったメンバーが居なければ、の話だが。
(そういう突っ込んだ話はまだしたくないな)
「えーーと、それで…私はどうすれば?」
兄の死を契機に、並行世界のことを知り、襲われ、少女に出会い、全てを説明されて、今、黎空はどうしようもないくらい自分の今までの生活が恋しくなった。
(平凡、平凡な生活がずっと続いてくれれば、それでよかったのに)
黎空には特別な野望も能力も無く、あるとすれば、自分が生きてゆく限り、本を読み続けて、本を読みながら死にたいというささやかな願望のみだった。
(偏差値が高いとかそういう頭良いじゃないし)
自分には、何も他人に誇るような物がない。
だからここで、《救世主》と言われて調子に乗って、自分なら出来るかもしれないと思って何かやらかした時が怖い。
「あなたにはね、ミツルの死の真相を調べて貰いたいの。後、新しいイグニスのメンバーも」
兄の死の真相は分かっていない。
薄々感じていたことだが、この世界に関わっていた兄に興味が湧いた。
実際は兄で無くとも、兄として関わってきた時間というものに事実は勝てない。
「私はアライアン王国の事実上の執権を持っているから、イグニスとしてはあまり活動出来ないの。だから最近は、チセ一人になってしまって…黎空が入るとはいえ、全部1からとなると色々と大変でしょ?だから、役に立ちそうなメンバーを集めてほしくて」
「なる、ほど…」
「んじゃ、明日から訓練な。おやすみ」
相変わらず機嫌の悪いチセは、そう言い残して、さっさと出ていってしまった。
「もう、あの子ったら…今日は襲われて大変だったでしょう。今夜はこっちに泊まりなさい」
「あ…ありがとうございます。あの、訓練って…?」
「決まってるでしょ?この世界で生きていく訓練よ」
優しげに見えたリンクスの目が、きらりと光ったように感じたのは気のせいだろうか。
この世界で、生きていく。
(絶対過酷だあ…)
顔には出さずに、絶望する黎空だった。

「此処が現状、イグニスの拠点だな」
「おおー」
ちなみに、黎空が通った“扉”がある場所は、丁度アライアン王国の首都《》のイグニスが管理する建物の中にある。そこには王国の様々な場所が集ういわば県庁のような所で、昨夜は黎空もそこの一室に泊めてもらった。
チセの部屋は地下にあった。
「モノづくり、好きなの?」
「ん、まあ。俺、戦闘とかあんまり強くないし。自分でナイフだとか、小型の爆弾とか作ってんだよ」
「へえ…」
急に物騒な話題が飛んできて黎空は反応に困った。
(でも、これからはそういう生活だもんな)
「今は俺が作業場として使ってるが、昔は大きな玄関ホールだったらしいな。この奥に作戦室、風呂場、厨房、たいてい家にあるもんは揃ってる」
「あぁ、そういえば」
「ん?」
「ここの世界はあまり電気が普及していなさそうだけど…シャワーやガスはどうしているの?」
昨日泊めてもらった部屋は、いくらかファンタジー風な雰囲気があっただけで、水道もトイレも普通に使えた。
「この世界には、独自の文化があるんだよ。琥珀石ってのがあるんだ。これは、名前の通り琥珀色の鉄鉱石みたいなもんなんだが…特別な役割がある。琥珀石は、電気を自ら生み出せるんだ」
「それを利用しているって訳ね」
「そう。レスタリオは石油の産出国が裕福だろ?それと同じで、琥珀石の採掘量が多い国も裕福なんだよ」
「なるほどね」 
「お前も、今日からイグニスのリーダーなんだから、1番奥の部屋を使えよ」
「そっか、…リーダー、なんだもんなぁ…」
「三人しか居ないんだし、別に良いんじゃね?後でお前の基礎運動能力試すから準備しとけよ」
「終わったほんっとに無理助けて」
「急にどうした」
(運動神経悪いんだってえええええ)
「お前、兄貴にそういうのお勧めされなかった?」
そういうの、とはスポーツの事を言うのだろう。
だが残念ながら兄は良くも悪くも、黎空のしたい事をやれば良いよ、という優しいながらも放任気味だったのである。
「なにも」
「ったく、あいつは優しすぎるんだよ」
「ねえチセ」
「あ?」
「こっちでのミツ兄のこと、教えて欲しい。死の真相を解くためにも」
チセは少し悲しげに微笑んだ。
「血はつながってねえのに、そっくりだな」
「どのへんが?」
「本気になるときの目」
顔に疑問符を浮かべて首をかしげる黎空をみて、チセは、彼女の後ろで微笑む、いつかの彼を見た気がした。

2025/06/18 17:21

りゃんりゃん。
ID:≫ 5pplVSwPOVTKw
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暴力表現並行世界異能力チームバトル

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