「なんで私じゃないの?!あんなに愛してると仰っていたのに!」
涼暮花魁が何やら騒ぎ立てていた。
他の新造から聞くに、どうやら太客を朝霧花魁に取られたらしい。
その太客というのは、町の呉服屋の店主で、よくうちの店で遊んでいっていたのを覚えている。
お付きの禿たちは「必ず姐さんの所に戻ってきますよ」だとか「姐さんなら朝霧花魁なんて目じゃないですよ」となだめていた。
正直なところ、こういう癇癪持ちなところが玉に瑕なのだ。
姐さんの顔は確かに綺麗だ。
しかし、自身の美貌に自惚れて周りを見下したり自分の顔立ちを自慢したりする癖がある。
恐らくその太客は、姐さんの自慢話に疲れて朝霧花魁のところに逃げたのだろう。
そのお客も災難なものだ。
そんなことを考えながら私は廊下を通り過ぎようとした。
すると、楼主が私を見つけるやいなやバタバタとこちらに走ってきた。
「夜桜、すごく大切な話だ。よくお聞きよ。
お前さんは来週、水揚げだ。来週、初めてお客を取るんだよ。いいかい?お前さんはもうじき遊女になるんだ。遊女の夜桜として、頑張るんだよ」
ああ、私ももうそんな年だったのか。
朝霧花魁と視線を交わしたあの日以来、私はずっと彼女への憧れが脳裏にこびりついて離れなかった。
彼女の無邪気で、全てを知っているかのような眼差しは、美しい悪夢のように私に纏わりついて離れなかった。
私も客を取る日が来た。
初めて取る客は遊び慣れている客で、手取り足取り色々と教えてくれた。
いくら手慣れている客相手とは言え、この仕事がここまで辛くて痛いとは思っていなかった。
やることが終わって、客が眠ってからぼんやりと鏡に映る自分を眺めた。
少し乱れた伊達兵庫髷、着崩れた長襦袢、まだはっきりと残っている紅、虚ろな瞳。
こんなにも辛いことを、朝霧花魁もやっているのだろうか。
私の憧れた、あの人も。
でも、苦しいのは初めだけだ。
花魁になれば、もっと楽になれるはずだ。
絶対に、花魁になってみせる。
朝霧花魁や、涼暮姐さんみたいに。
涼暮花魁が何やら騒ぎ立てていた。
他の新造から聞くに、どうやら太客を朝霧花魁に取られたらしい。
その太客というのは、町の呉服屋の店主で、よくうちの店で遊んでいっていたのを覚えている。
お付きの禿たちは「必ず姐さんの所に戻ってきますよ」だとか「姐さんなら朝霧花魁なんて目じゃないですよ」となだめていた。
正直なところ、こういう癇癪持ちなところが玉に瑕なのだ。
姐さんの顔は確かに綺麗だ。
しかし、自身の美貌に自惚れて周りを見下したり自分の顔立ちを自慢したりする癖がある。
恐らくその太客は、姐さんの自慢話に疲れて朝霧花魁のところに逃げたのだろう。
そのお客も災難なものだ。
そんなことを考えながら私は廊下を通り過ぎようとした。
すると、楼主が私を見つけるやいなやバタバタとこちらに走ってきた。
「夜桜、すごく大切な話だ。よくお聞きよ。
お前さんは来週、水揚げだ。来週、初めてお客を取るんだよ。いいかい?お前さんはもうじき遊女になるんだ。遊女の夜桜として、頑張るんだよ」
ああ、私ももうそんな年だったのか。
朝霧花魁と視線を交わしたあの日以来、私はずっと彼女への憧れが脳裏にこびりついて離れなかった。
彼女の無邪気で、全てを知っているかのような眼差しは、美しい悪夢のように私に纏わりついて離れなかった。
私も客を取る日が来た。
初めて取る客は遊び慣れている客で、手取り足取り色々と教えてくれた。
いくら手慣れている客相手とは言え、この仕事がここまで辛くて痛いとは思っていなかった。
やることが終わって、客が眠ってからぼんやりと鏡に映る自分を眺めた。
少し乱れた伊達兵庫髷、着崩れた長襦袢、まだはっきりと残っている紅、虚ろな瞳。
こんなにも辛いことを、朝霧花魁もやっているのだろうか。
私の憧れた、あの人も。
でも、苦しいのは初めだけだ。
花魁になれば、もっと楽になれるはずだ。
絶対に、花魁になってみせる。
朝霧花魁や、涼暮姐さんみたいに。