どうしようもなく全身が重い。
自宅へ向かう足が鉛のように重くてたまらない。
……あんなに楽しかったはずなのに、今じゃこんなに嫌いになるだなんて。
私は現役の高一だ。
高校はそれなりに楽しいし、仲のいい友達も数人できた。
勉強もそれなりにできてる。
ぶっちゃけ、幸せ。
それなのに、どうしても学校が辛く感じてしまう。
少し、疲れてしまったのかもしれない。
友人関係、部活、勉強。
やらなきゃいけないことが多くて、頭がパンクしそうだった。
どれだけ大変でも、周りの人たちに心配かけたくなくて頑張っていた。
でも、そろそろ限界が来そうだった。
あまりにも忙しくて、私だけの時間が無かった。
自分一人の時間が欲しくても、友人に遊びに誘われて断れない。
「そんなの断ればいい」と言われても、嫌われるのが怖くて首を横に振れなかった。
息苦しくて、息が詰まった。
重い足を引きずりながら家へ帰る道を歩く。
ふいに、目の前を猫が横切った。
この辺りで猫を見かけることはあまりなかった。
黒い綺麗な毛並みの猫で、お月さまみたいな瞳に、首に金色の鈴がつけられていた。
なんだか、あの猫に呼ばれているような気がして、猫が走っていった細い道の方へ走り出した。
何分か走っていると、急に道が広くなった。
びっくりして辺りを見渡すと、私が知っている町とは全く違う場所だった。
夕暮れ時のような空に、明治か大正頃の風景を思わせる街並み。
驚きつつも、私はひとまずどこかへ行こうと思い、道を真っ直ぐ進んだ。
古びた薬屋の看板。
がらんとした誰もいない床屋。
今ではあまり見かけない質屋や呉服屋もあった。
まるでドラマのセットに迷い込んだようで、なんだか不思議な気分だった。
しばらく歩き続けると、あの黒猫がひょっこり顔を出した。
そして、またどこかへ歩き出した。
そして、一軒の喫茶店に辿り着いた。
ずっしりとした扉を開け、店の中に入る。
お店の中は少し暗くて、時代錯誤な古臭いジャスが流れていた。
カウンターには初老の男性が立っていて、こちらに気づくと、にこやかに話しかけてきた。
「いらっしゃい。好きな所におすわりよ」
その言葉に従うかのように、私はすぐ近くの二人掛けの席に座った。
「はい、メニュー表。注文が決まったら呼んで」
そう言いながら私にメニュー表を手渡してきた。
書かれているメニューは至って普通の喫茶店にあるようなメニューだった。
何を頼もうか考えている私に、店主さんはこう言った。
「うちの店はね、メニューに載ってないものも作れるよ。記憶にあるものを教えてくれれば、それを基にお望みのものを作ってあげられる」
その言葉に私は強く惹かれて、無意識のうちに呟いた。
「お母さんが作ってくれた、あのオムライスが食べたい」
はっとして店主さんに顔を向けると、優しく笑いかけて、カウンターの奥に戻っていった。
私の母は私が八歳の時に病気で亡くなった。
入院する前、母はよくオムライスを作ってくれていた。
しっかり焼いた卵にベーコンととうもろこしを入れたケチャップライスを包むのが我が家流だった。
私が作っても、お母さんの味は上手く再現できなかった。
感傷に浸っていると、コトンと音がしてテーブルにオムライスが置かれた。
「あ、ありがとうございます」とぎこちなくお礼を言いながら私はスプーンを手に取った。
オムライスを一すくいして、口に運ぶ。
お母さんの作ってくれた味と全く一緒だった。
優しくて安心するような、心が温まるような味。
美味しくて、懐かしくて、いつの間にか涙が出ていた。
店主さんはそんな私を優しく見守ってくれていた。
オムライスを食べ終え、私はお会計のために立ち上がった。
私が何をしようとしているのか察したのか、店主さんは「お会計かい?お代は要らないよ。心が軽くなってくれれば、それで充分だ」と言ってくれた。
少し申し訳なかったけど、お言葉に甘えることにした。
「またおいで。いつでも待ってるよ」
そう言って、店主さんは店の扉をそっと閉めた。
外の景色は相変わらず夕暮れ時の空で、心が解けるような感覚だった。
あの不思議な喫茶店のおかげだろうか。
つい数時間前までは苦しかったのに、今ではすごく幸せに包まれていた。
夕暮れの空の下を歩きながら、私は家へ帰った。
全く知らない所のはずなのに、帰り道ははっきりと分かった。
私は小洒落た街の中を歩き続けた。
自宅へ向かう足が鉛のように重くてたまらない。
……あんなに楽しかったはずなのに、今じゃこんなに嫌いになるだなんて。
私は現役の高一だ。
高校はそれなりに楽しいし、仲のいい友達も数人できた。
勉強もそれなりにできてる。
ぶっちゃけ、幸せ。
それなのに、どうしても学校が辛く感じてしまう。
少し、疲れてしまったのかもしれない。
友人関係、部活、勉強。
やらなきゃいけないことが多くて、頭がパンクしそうだった。
どれだけ大変でも、周りの人たちに心配かけたくなくて頑張っていた。
でも、そろそろ限界が来そうだった。
あまりにも忙しくて、私だけの時間が無かった。
自分一人の時間が欲しくても、友人に遊びに誘われて断れない。
「そんなの断ればいい」と言われても、嫌われるのが怖くて首を横に振れなかった。
息苦しくて、息が詰まった。
重い足を引きずりながら家へ帰る道を歩く。
ふいに、目の前を猫が横切った。
この辺りで猫を見かけることはあまりなかった。
黒い綺麗な毛並みの猫で、お月さまみたいな瞳に、首に金色の鈴がつけられていた。
なんだか、あの猫に呼ばれているような気がして、猫が走っていった細い道の方へ走り出した。
何分か走っていると、急に道が広くなった。
びっくりして辺りを見渡すと、私が知っている町とは全く違う場所だった。
夕暮れ時のような空に、明治か大正頃の風景を思わせる街並み。
驚きつつも、私はひとまずどこかへ行こうと思い、道を真っ直ぐ進んだ。
古びた薬屋の看板。
がらんとした誰もいない床屋。
今ではあまり見かけない質屋や呉服屋もあった。
まるでドラマのセットに迷い込んだようで、なんだか不思議な気分だった。
しばらく歩き続けると、あの黒猫がひょっこり顔を出した。
そして、またどこかへ歩き出した。
そして、一軒の喫茶店に辿り着いた。
ずっしりとした扉を開け、店の中に入る。
お店の中は少し暗くて、時代錯誤な古臭いジャスが流れていた。
カウンターには初老の男性が立っていて、こちらに気づくと、にこやかに話しかけてきた。
「いらっしゃい。好きな所におすわりよ」
その言葉に従うかのように、私はすぐ近くの二人掛けの席に座った。
「はい、メニュー表。注文が決まったら呼んで」
そう言いながら私にメニュー表を手渡してきた。
書かれているメニューは至って普通の喫茶店にあるようなメニューだった。
何を頼もうか考えている私に、店主さんはこう言った。
「うちの店はね、メニューに載ってないものも作れるよ。記憶にあるものを教えてくれれば、それを基にお望みのものを作ってあげられる」
その言葉に私は強く惹かれて、無意識のうちに呟いた。
「お母さんが作ってくれた、あのオムライスが食べたい」
はっとして店主さんに顔を向けると、優しく笑いかけて、カウンターの奥に戻っていった。
私の母は私が八歳の時に病気で亡くなった。
入院する前、母はよくオムライスを作ってくれていた。
しっかり焼いた卵にベーコンととうもろこしを入れたケチャップライスを包むのが我が家流だった。
私が作っても、お母さんの味は上手く再現できなかった。
感傷に浸っていると、コトンと音がしてテーブルにオムライスが置かれた。
「あ、ありがとうございます」とぎこちなくお礼を言いながら私はスプーンを手に取った。
オムライスを一すくいして、口に運ぶ。
お母さんの作ってくれた味と全く一緒だった。
優しくて安心するような、心が温まるような味。
美味しくて、懐かしくて、いつの間にか涙が出ていた。
店主さんはそんな私を優しく見守ってくれていた。
オムライスを食べ終え、私はお会計のために立ち上がった。
私が何をしようとしているのか察したのか、店主さんは「お会計かい?お代は要らないよ。心が軽くなってくれれば、それで充分だ」と言ってくれた。
少し申し訳なかったけど、お言葉に甘えることにした。
「またおいで。いつでも待ってるよ」
そう言って、店主さんは店の扉をそっと閉めた。
外の景色は相変わらず夕暮れ時の空で、心が解けるような感覚だった。
あの不思議な喫茶店のおかげだろうか。
つい数時間前までは苦しかったのに、今ではすごく幸せに包まれていた。
夕暮れの空の下を歩きながら、私は家へ帰った。
全く知らない所のはずなのに、帰り道ははっきりと分かった。
私は小洒落た街の中を歩き続けた。