「ピリリリリ」
甲高い音がステーションの中に響き渡る。
一応どこの部屋から鳴ったのか確認すると、203号室のコールが鳴っていた。
誰もが疲れ切ったような表情をしていて、うつろな視線だけをこちらに向けてくる。
私に「行ってこい」と命令せんばかりの視線の圧に耐えかねて、私は203号室に向かった。
「遅くなってすみませんね。どうしましたか〜?」
部屋の扉を開けながら声をかける。
すると、部屋の奥からか細い声が聞こえてきた。
「痛い…背中が痛い…」
田中さんの声が弱々しく反響する。
部屋の中に入って、田中さんの背中をさする。
やっぱり、苦しんでる弱々しい老人に欲情する私は異常だ。
「大丈夫ですよ〜痛くないですよ〜」と声をかけていると、痛みがおさまったようで、「ありがとう」と小さな声で言ってくれた。
田中さんの容態が落ち着いたのを確認して、私は部屋を出た。
私がこの老人ホームに就職したのは五年前のことだった。
私はまだ二十歳で、バイト以外で働いた経験がなかった。
昔から私の中には奇妙な感情があって、老人を私の思うままにしたい。思うままに痛めつけたいと思っていた。
もちろん、自分でも良くないことだと分かっていたので、入って数ヶ月は行動を起こさなかった。
しかし、一年も経つと流石に慣れてきて、私は入居者の身体を拭く時にわざと強く擦ったり、腕を少し強く掴んだした。
痛がっても声一つ上げずに耐えている老人の顔を見ると、興奮して堪らなかった。
老人特有のあの匂いも、か細い声も、しみだらけの腕だって。
私は全てが愛おしくて、大嫌いだった。
私が老人を「大嫌い」と表現するのには理由がある。
私は幼い頃、祖父母と暮らしていたのだが、祖父は身体が不自由で、両親が共働きだった私は必然的に祖母が祖父の介護をするのを手伝わなければいけなかった。
私は老人特有のあの臭気のこもった部屋がとにかく嫌いで、できるだけ祖父の介護を任されないよう学校が終わったら一秒でも早く友人と遊びに行っていた。
そのせいかは分からないが、祖母は体調を崩すことが増えた。
まだ子供だった私は、祖父への嫌悪感しか湧かなくて、一時期は祖父の部屋の前を通ることさえ避けていた。
私が十五歳の時、祖母が亡くなった。
過労だと言われて、自分の過ちに気づいた時にはもう遅かった。
身体の不自由な祖父だけが残されて、両親はその時もまだ共働きだった。
そのせいで、私は祖父の面倒を見ることを余儀なくされた。
貴重な青春時代を奪われて、祖父が恨めしかった。
だから、祖父の面倒を見たことにして、こっそり祖父を放置していた。
おむつを変えて欲しいと言われても放置して、食事はまだかと言われても放置した。
そのせいで、祖父は衰弱して亡くなった。
自分のせいで祖父母を亡くした。
そんな思いに囚われて、私は将来は老人の役に立てる仕事に就こうと決めた。
そして、老人ホームに就職したのだ。
私が老人を愛おしいと感じるのも、祖父のせいだった。
弱くて、私がいなければ何もできなかった祖父。
私が祖父の運命を握っていて、好きな時に命の蝋燭を吹き消すことができた。
今ここにいる人たちも、全く同じだった。
私たち職員がいなければほとんど何もできない。
そんな弱者の彼らが愛おしくて堪らなくて、つい痛めつけたくなるのだ。
今も、私の中に潜む欲望は消えないまま。
今日も愛おしく、大嫌いな人たちの世話をしなくちゃね。
甲高い音がステーションの中に響き渡る。
一応どこの部屋から鳴ったのか確認すると、203号室のコールが鳴っていた。
誰もが疲れ切ったような表情をしていて、うつろな視線だけをこちらに向けてくる。
私に「行ってこい」と命令せんばかりの視線の圧に耐えかねて、私は203号室に向かった。
「遅くなってすみませんね。どうしましたか〜?」
部屋の扉を開けながら声をかける。
すると、部屋の奥からか細い声が聞こえてきた。
「痛い…背中が痛い…」
田中さんの声が弱々しく反響する。
部屋の中に入って、田中さんの背中をさする。
やっぱり、苦しんでる弱々しい老人に欲情する私は異常だ。
「大丈夫ですよ〜痛くないですよ〜」と声をかけていると、痛みがおさまったようで、「ありがとう」と小さな声で言ってくれた。
田中さんの容態が落ち着いたのを確認して、私は部屋を出た。
私がこの老人ホームに就職したのは五年前のことだった。
私はまだ二十歳で、バイト以外で働いた経験がなかった。
昔から私の中には奇妙な感情があって、老人を私の思うままにしたい。思うままに痛めつけたいと思っていた。
もちろん、自分でも良くないことだと分かっていたので、入って数ヶ月は行動を起こさなかった。
しかし、一年も経つと流石に慣れてきて、私は入居者の身体を拭く時にわざと強く擦ったり、腕を少し強く掴んだした。
痛がっても声一つ上げずに耐えている老人の顔を見ると、興奮して堪らなかった。
老人特有のあの匂いも、か細い声も、しみだらけの腕だって。
私は全てが愛おしくて、大嫌いだった。
私が老人を「大嫌い」と表現するのには理由がある。
私は幼い頃、祖父母と暮らしていたのだが、祖父は身体が不自由で、両親が共働きだった私は必然的に祖母が祖父の介護をするのを手伝わなければいけなかった。
私は老人特有のあの臭気のこもった部屋がとにかく嫌いで、できるだけ祖父の介護を任されないよう学校が終わったら一秒でも早く友人と遊びに行っていた。
そのせいかは分からないが、祖母は体調を崩すことが増えた。
まだ子供だった私は、祖父への嫌悪感しか湧かなくて、一時期は祖父の部屋の前を通ることさえ避けていた。
私が十五歳の時、祖母が亡くなった。
過労だと言われて、自分の過ちに気づいた時にはもう遅かった。
身体の不自由な祖父だけが残されて、両親はその時もまだ共働きだった。
そのせいで、私は祖父の面倒を見ることを余儀なくされた。
貴重な青春時代を奪われて、祖父が恨めしかった。
だから、祖父の面倒を見たことにして、こっそり祖父を放置していた。
おむつを変えて欲しいと言われても放置して、食事はまだかと言われても放置した。
そのせいで、祖父は衰弱して亡くなった。
自分のせいで祖父母を亡くした。
そんな思いに囚われて、私は将来は老人の役に立てる仕事に就こうと決めた。
そして、老人ホームに就職したのだ。
私が老人を愛おしいと感じるのも、祖父のせいだった。
弱くて、私がいなければ何もできなかった祖父。
私が祖父の運命を握っていて、好きな時に命の蝋燭を吹き消すことができた。
今ここにいる人たちも、全く同じだった。
私たち職員がいなければほとんど何もできない。
そんな弱者の彼らが愛おしくて堪らなくて、つい痛めつけたくなるのだ。
今も、私の中に潜む欲望は消えないまま。
今日も愛おしく、大嫌いな人たちの世話をしなくちゃね。