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偏愛

#2

指ーーー抓崎 歌恋「コザキ カレン」

今日も彼女の細い指を眺めて悦に浸る。
真っ白で、細くて、しなやかな指。
ネイルをしていない薄紅色の小さな爪には傷一つなく、爪の先は綺麗に切り揃えられていた。
少しぼんやりしていると、彼女から「あの…大丈夫ですか?」と声をかけられた。

私ってばいけない。
今は仕事中なのに、うっかり彼女の爪に見惚れてしまった。
「すみません、最近眠りが浅くてあまり良く眠れてないんです」
私ができるだけ申し訳なさそうな笑顔を浮かべながらそう言うと、彼女は「この時期寒くなってきますからね〜。生姜湯飲んで、足先あっためるとよく寝れますよ!」と教えてくれた。
なんで優しいんだろう。

私は彼女の爪をやすりで軽く整えて、保湿用のクリームを塗った。
クリームを塗った彼女の爪は光を反射してキラリと光った。
店の外で少し世間話をしてから「ありがとうございました〜」と言って彼女を送り出す。
茶色く染めて少しウェーブのかかった髪。
お洒落な髪飾り。
シンプルなのに上品さを全く損なっていない服装。
そんな彼女の後ろ姿に見惚れていた。







家に帰って、自分が何故ネイリストになったのかを思い返す。
私は学生の頃から人の指を見るのが好きだった。
人それぞれ違いがあって、それぞれ違う魅力があって大好きだった。

友人と好きなものの話をしていた時、大して違和感を抱かずに「人の指が好き。人それぞれ違いがあって面白い」と言うと、「気色悪い。歪んでる」などと散々に言われてしまった。

私はただ、好きなものを素直に好きだと言っただけなのに。
そのことがあって以降、私は人前で好きなものの話をしなくなった。
私の好きなものを否定されるのが怖かったから。

だから、誰にも邪魔されないようにネイリストになって、思う存分人の指を眺められるようにした。
いろんな人の指を眺めてきた。
その中でも、彼女の指は特別だった。

同じようなものを何度も見てきたはずなのに、他のものとは違う感じがしたのだ。
白くて細く、すらりとした指。
ネイルも何もしていない、薄紅色の綺麗な爪。
ごくごく普通の指なのに、私を惑わせる魔力を持っていた。

いつしか彼女の細い指を独占したい。
私はそんな欲望に駆られていた。
でも、彼女とはこれといって仲がいいわけでもないし、ただただお客様として来てくれるだけなので、私の望みは叶わない…と思っていた。









三ヶ月ほど前だったろうか。
お店の前で交通事故が起きた。
轢かれたのは彼女だった。
遺体は悲惨な有様で、手足がちぎれてバラバラになり、周りに肉片と彼女の血液が散乱していた。
衝突音を聞いてお店から出て来た人や、その場にいた人たちは悲鳴をあげたり、気を失う人もいた。

私はそんな人たちに紛れてそっと彼女の遺体に近づき、ちぎれた右手首を拾い上げてさっさと逃げた。
何とかバレないようにしてながら仕事を終え、自宅に手首を持ち帰った。
彼女の綺麗な指が傷ついていないか急いで確認すると、幸運なことに指は綺麗なままだった。

私は安心すると同時に、「この手首をどうやって保存しようか」と考えた。
そのまま放置していればいずれ腐敗してしまう。
絶対にこの綺麗な状態を保ちたかった。
そこで私は、ホルマリン漬けにしようと思って、早速ネットでホルマリンを購入し、水を加えて10%のホルマリン液を使った。
そこに彼女の手首を入れて保管していた。

テレビではニュースであの事故のことが報道されていた。
遺体の右手首が見つからないとも言われていた。
見つけられるわけがない。

だって彼女の手は、永遠に私のものなんだから。

2024/11/10 17:35

月町 桔梗
ID:≫ 7r5tHLeuz1RfY
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