匿名"失"望
また手紙がポストに入っている。
典型的なラブレターのような紙に、「小鳥遊雪(たかなしゆき)様へ」と綺麗な手書きで書かれているのだ。
この手紙は、私が小学生の時から毎週欠かさずポストに投函される。
中身を見ても、私の行動が逐一記されていて、気持ち悪くて仕方なかった。
何度警察に相談しても、「実際に被害が無いからにはどうしようもない」と言われる始末だ。
私はずっと、この手紙の呪いに付き纏われていた。
差出人は匿名希望と名乗っていて、私がテストでいい点を取って先生に褒められていたことに対する賞賛や、私が部活をこっそりサボってカラオケに行っていた事への苦言が書かれたりしていた。
小学校低学年の時は「私のこと好きな人が書いてるのかな〜♪」とか思っていたが、高学年ともなると流石に気味が悪くて両親に相談した。
しかし両親は「ただのいたずらでしょ〜?そんな深く考えちゃだめよー、どうせ同級生のおふざけなんだから」と取り合ってくれなかった。
大人になるにつれ、どんどん内容は私のプライベートに踏み込んだものになっていって、悍ましくてたまらなかった。
今日届いた手紙の内容は、「今日も雪ちゃん、上司に怒られてたね。全くポンコツなんだからっ!ナンテネでも、そんなとこが奏ちゃんの可愛いとこだよね♡それにしても、どうして僕を避けるの?僕は雪ちゃんをこんなに愛してるのに…ショボーンいつか面と向かってお話ししたいなぁ♡ところで、昨日一緒に歩いてた男、だあれ?僕以外とお話するだなんて、酷いなぁ。絶対に迎えに行くからね、僕の天使ちゃん♡」と書かれていて、背筋が凍った。
隣にいたのは私の彼氏だ。
そして丁度、彼に手紙のことを相談している最中だったのだ。
この話を聞かれていたら…そう考えると冷や汗が止まらなかった。
下手をすれば、私だけでなく、彼にも両親にも危害が加わる可能性がある。
私はもう限界を迎えかけていた。
そして、禁忌を犯してしまったのだ。
匿名希望を名乗る人物に、手紙を送ってしまったのだ。
手紙には「貴方は誰ですか?お願いですから、私に関わらないでください。私には生活があるんです。恋人だっています。私の生活を、これ以上壊さないでください。」と、できるだけ刺激しないように文章を書いた。
ポストに投函して、後は返事を待つのみとなった。
でも、心のどこかでは、返事が来ないのを期待している自分がいた。
返事が来なければ、私に興味を無くしたと解釈できると思ったから。
でもこの判断は間違いで、私の首を締めつけた。
手紙を投函した翌日、職場に向かっている最中に私は致命的なミスを犯したことに気づいた。
宛先の住所を書いていないのだ。
どうしよう。投函してしまった手紙を取り返すのは不可能に近い。
もう諦めるしかないのだろうか。
そんなことを考えながら私は仕事を終え、自宅に戻った。
きっと返事は届いていないだろう。
そう思いながら自宅のポストを開けた。
……え?
手紙が入っていた。
変わらず典型的なラブレターのような見た目で、綺麗な字で私の名前が書かれている。
震える手で手紙を取り出して、部屋に戻る。
荷物をソファに放って、手紙を開く。
「恋人?何言ってるの?雪ちゃんの恋人は僕だからね?雪ちゃんを傷つける悪いやつらは、僕が皆消してあげる。雪ちゃんのために、命を捧げてあげる。ずっとそう決めてたのに、どうして雪ちゃんは僕の期待をことごとく裏切るのかなぁ?僕はこんなにも雪ちゃんを想ってるのに。愛してるのに。雪ちゃんは応えてくれないね、寂しいなぁ。今までは雪ちゃんの我儘に付き合ってあげてたけど、そろそろ限界かな。君には失望したよ。雪ちゃんは他の人と違って賢くていい子だと思ってたんだけど、僕の思い違いだったみたいだね。まあいいか。雪ちゃんは必ず僕のものになる。これは決められた運命だからね、心配しないで!」
隙間もなく、みっちりと書かれた文字の数々に眩暈がした。
どうして?
住所を書いていないのに、手紙が届くわけがない。
ましてや、返事が私の下に届くことだってありえないのに。
視界が暗転して、私は意識を失ってしまった。
意識を失う直前、耳元で「ずうっと一緒にいるからね…♡」と言う声が聞こえた気がした。
典型的なラブレターのような紙に、「小鳥遊雪(たかなしゆき)様へ」と綺麗な手書きで書かれているのだ。
この手紙は、私が小学生の時から毎週欠かさずポストに投函される。
中身を見ても、私の行動が逐一記されていて、気持ち悪くて仕方なかった。
何度警察に相談しても、「実際に被害が無いからにはどうしようもない」と言われる始末だ。
私はずっと、この手紙の呪いに付き纏われていた。
差出人は匿名希望と名乗っていて、私がテストでいい点を取って先生に褒められていたことに対する賞賛や、私が部活をこっそりサボってカラオケに行っていた事への苦言が書かれたりしていた。
小学校低学年の時は「私のこと好きな人が書いてるのかな〜♪」とか思っていたが、高学年ともなると流石に気味が悪くて両親に相談した。
しかし両親は「ただのいたずらでしょ〜?そんな深く考えちゃだめよー、どうせ同級生のおふざけなんだから」と取り合ってくれなかった。
大人になるにつれ、どんどん内容は私のプライベートに踏み込んだものになっていって、悍ましくてたまらなかった。
今日届いた手紙の内容は、「今日も雪ちゃん、上司に怒られてたね。全くポンコツなんだからっ!ナンテネでも、そんなとこが奏ちゃんの可愛いとこだよね♡それにしても、どうして僕を避けるの?僕は雪ちゃんをこんなに愛してるのに…ショボーンいつか面と向かってお話ししたいなぁ♡ところで、昨日一緒に歩いてた男、だあれ?僕以外とお話するだなんて、酷いなぁ。絶対に迎えに行くからね、僕の天使ちゃん♡」と書かれていて、背筋が凍った。
隣にいたのは私の彼氏だ。
そして丁度、彼に手紙のことを相談している最中だったのだ。
この話を聞かれていたら…そう考えると冷や汗が止まらなかった。
下手をすれば、私だけでなく、彼にも両親にも危害が加わる可能性がある。
私はもう限界を迎えかけていた。
そして、禁忌を犯してしまったのだ。
匿名希望を名乗る人物に、手紙を送ってしまったのだ。
手紙には「貴方は誰ですか?お願いですから、私に関わらないでください。私には生活があるんです。恋人だっています。私の生活を、これ以上壊さないでください。」と、できるだけ刺激しないように文章を書いた。
ポストに投函して、後は返事を待つのみとなった。
でも、心のどこかでは、返事が来ないのを期待している自分がいた。
返事が来なければ、私に興味を無くしたと解釈できると思ったから。
でもこの判断は間違いで、私の首を締めつけた。
手紙を投函した翌日、職場に向かっている最中に私は致命的なミスを犯したことに気づいた。
宛先の住所を書いていないのだ。
どうしよう。投函してしまった手紙を取り返すのは不可能に近い。
もう諦めるしかないのだろうか。
そんなことを考えながら私は仕事を終え、自宅に戻った。
きっと返事は届いていないだろう。
そう思いながら自宅のポストを開けた。
……え?
手紙が入っていた。
変わらず典型的なラブレターのような見た目で、綺麗な字で私の名前が書かれている。
震える手で手紙を取り出して、部屋に戻る。
荷物をソファに放って、手紙を開く。
「恋人?何言ってるの?雪ちゃんの恋人は僕だからね?雪ちゃんを傷つける悪いやつらは、僕が皆消してあげる。雪ちゃんのために、命を捧げてあげる。ずっとそう決めてたのに、どうして雪ちゃんは僕の期待をことごとく裏切るのかなぁ?僕はこんなにも雪ちゃんを想ってるのに。愛してるのに。雪ちゃんは応えてくれないね、寂しいなぁ。今までは雪ちゃんの我儘に付き合ってあげてたけど、そろそろ限界かな。君には失望したよ。雪ちゃんは他の人と違って賢くていい子だと思ってたんだけど、僕の思い違いだったみたいだね。まあいいか。雪ちゃんは必ず僕のものになる。これは決められた運命だからね、心配しないで!」
隙間もなく、みっちりと書かれた文字の数々に眩暈がした。
どうして?
住所を書いていないのに、手紙が届くわけがない。
ましてや、返事が私の下に届くことだってありえないのに。
視界が暗転して、私は意識を失ってしまった。
意識を失う直前、耳元で「ずうっと一緒にいるからね…♡」と言う声が聞こえた気がした。
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