「この成績では、〇〇中学への進学は不可能です。」
[漢字]川田美和[/漢字][ふりがな]かわたみわ[/ふりがな]は現実を受け入れられなかった。
「あ、あの、先生?不可能とはどういうことですか?少し、ほんの少しでも可能性はないんですか?」
縋るように尋ねても、担任は首を横に振るだけだった。
「いいですか?お母さん。今の川田くんの成績では、〇〇中学は愚か、××中学もギリギリ入れるかどうかといったところです。まず、彼の成績で中受は無理と断言できます。やはり私立は諦めて、公立の中学校に入れる他ありませんよ」
川田美和は小学校6年生の息子を持つ母親である。
彼女の夫の家系は医者や弁護士など、頭のいい人間が多く、名門校を卒業している者も数多くいる。
その中でも、息子の蓮也はかなり期待を寄せられていた。
それなのに、三者面談でこんなことを言われては、自分が何と言われるかわからない。
それに、このタイミングで言われてしまっては勉強しても巻き返せない。
教室を出ると、廊下が暗く、永遠に続くように見えて仕方がなかった。
「お母さん」
隣から飛んできた息子の声にはっとして横を見ると、蓮也が今にも泣き出しそうな表情でこちらを見ていた。
「ごめんなさい、お父さんとか、おじいちゃんみたいになれなくて」
「謝らないで」と言おうとしたのに、吐き出されるのは恨めしい言葉ばかりだった。
「どうするつもりなの?お父さんやおじいちゃんたちにはなんて言うつもりなの?あなたはあんなに成績も優秀だったのに、どうして…」
蓮也はただ、「ごめんなさい」と言ったっきり、黙り込んでしまった。
[水平線]
家に帰ってきて、美和はさっそく夫に面談の時の話をした。
夫は「そうか」と言うと、「そこまで私立校にこだわらなくたっていいじゃないか。蓮也の好きにさせてあげなさい」とだけ言った。
そんな呑気な夫の態度が、美和は許せなかった。
蓮也の部屋に入ると、机に問題集を置いた。
「これ全部解き終わるまで、お母さん夕飯作らないから」
それだけ言うと、部屋を後にした。
美和はソファに座り込むと、自分を責めた。
自分の教え方が悪かったんじゃないのか、もっと面倒を見てあげていればこうはならなかったんじゃないか。
ぐるぐる思考を巡らせていると、足音が聞こえた。
前を向くと、蓮也が立っていた。
泣いている。
「お母さん、僕、もう嫌だよ」
すすり泣く声は、ただの音として美和の耳を流れた。
「お母さんたちが僕のために頑張ってくれてたのは知ってるし、嬉しかった。でも、申し訳ないけど、僕に中受は向いてなかったんだと思う」
美和は叫んだ。
「申し訳なかったって思うんなら最後まで頑張ってよ!どうして途中で諦めちゃうの?蓮也は賢い子なんだから、これくらい簡単でしょ?お父さんたちだってやってきたことなんだから、あなたにできないわけがない。そんなにやめたいなら、お母さんたちがあなたに注ぎ込んだお金返してよ、ねえ!」
蓮也は黙り込むと、自室へと戻った。
美和は自責の念に駆られた。
あの子はあの子なのに、どうして夫たちと比べてしまったんだろう。
そうだ、今日の晩ご飯はあの子の好きなものをたくさん作ろう。
そうしたら、あの子に謝らなくちゃ。
美和は蓮也の好物である鶏の照り焼きを作ると、蓮也の部屋の扉を叩いた。
「蓮也、ご飯食べよう。お母さんね、蓮也の大好きな照り焼き作ったんだ。一緒に食べよう」
返事はない。
ドアノブをひねると、蓮也がいた。
真っ赤に染まった蓮也が。
ダイニングテーブルには、冷め切った料理だけが残されていた。
[漢字]川田美和[/漢字][ふりがな]かわたみわ[/ふりがな]は現実を受け入れられなかった。
「あ、あの、先生?不可能とはどういうことですか?少し、ほんの少しでも可能性はないんですか?」
縋るように尋ねても、担任は首を横に振るだけだった。
「いいですか?お母さん。今の川田くんの成績では、〇〇中学は愚か、××中学もギリギリ入れるかどうかといったところです。まず、彼の成績で中受は無理と断言できます。やはり私立は諦めて、公立の中学校に入れる他ありませんよ」
川田美和は小学校6年生の息子を持つ母親である。
彼女の夫の家系は医者や弁護士など、頭のいい人間が多く、名門校を卒業している者も数多くいる。
その中でも、息子の蓮也はかなり期待を寄せられていた。
それなのに、三者面談でこんなことを言われては、自分が何と言われるかわからない。
それに、このタイミングで言われてしまっては勉強しても巻き返せない。
教室を出ると、廊下が暗く、永遠に続くように見えて仕方がなかった。
「お母さん」
隣から飛んできた息子の声にはっとして横を見ると、蓮也が今にも泣き出しそうな表情でこちらを見ていた。
「ごめんなさい、お父さんとか、おじいちゃんみたいになれなくて」
「謝らないで」と言おうとしたのに、吐き出されるのは恨めしい言葉ばかりだった。
「どうするつもりなの?お父さんやおじいちゃんたちにはなんて言うつもりなの?あなたはあんなに成績も優秀だったのに、どうして…」
蓮也はただ、「ごめんなさい」と言ったっきり、黙り込んでしまった。
[水平線]
家に帰ってきて、美和はさっそく夫に面談の時の話をした。
夫は「そうか」と言うと、「そこまで私立校にこだわらなくたっていいじゃないか。蓮也の好きにさせてあげなさい」とだけ言った。
そんな呑気な夫の態度が、美和は許せなかった。
蓮也の部屋に入ると、机に問題集を置いた。
「これ全部解き終わるまで、お母さん夕飯作らないから」
それだけ言うと、部屋を後にした。
美和はソファに座り込むと、自分を責めた。
自分の教え方が悪かったんじゃないのか、もっと面倒を見てあげていればこうはならなかったんじゃないか。
ぐるぐる思考を巡らせていると、足音が聞こえた。
前を向くと、蓮也が立っていた。
泣いている。
「お母さん、僕、もう嫌だよ」
すすり泣く声は、ただの音として美和の耳を流れた。
「お母さんたちが僕のために頑張ってくれてたのは知ってるし、嬉しかった。でも、申し訳ないけど、僕に中受は向いてなかったんだと思う」
美和は叫んだ。
「申し訳なかったって思うんなら最後まで頑張ってよ!どうして途中で諦めちゃうの?蓮也は賢い子なんだから、これくらい簡単でしょ?お父さんたちだってやってきたことなんだから、あなたにできないわけがない。そんなにやめたいなら、お母さんたちがあなたに注ぎ込んだお金返してよ、ねえ!」
蓮也は黙り込むと、自室へと戻った。
美和は自責の念に駆られた。
あの子はあの子なのに、どうして夫たちと比べてしまったんだろう。
そうだ、今日の晩ご飯はあの子の好きなものをたくさん作ろう。
そうしたら、あの子に謝らなくちゃ。
美和は蓮也の好物である鶏の照り焼きを作ると、蓮也の部屋の扉を叩いた。
「蓮也、ご飯食べよう。お母さんね、蓮也の大好きな照り焼き作ったんだ。一緒に食べよう」
返事はない。
ドアノブをひねると、蓮也がいた。
真っ赤に染まった蓮也が。
ダイニングテーブルには、冷め切った料理だけが残されていた。