私の祖母は田舎に住んでいて、毎年夏休みになると、子供だけで祖母の家へ泊まりに行くのが恒例でした。
私には四つ年下の弟がいて、六つ下の従姉妹もいました。
夏休みになると、弟や従姉妹と祖母の家に集まり、一緒に虫取りをしたり、駄菓子屋でアイスを買うのが大好きでした。
青く晴れ渡った空、鮮やかな緑の田んぼ、蝉の鳴き声。
そんな中を、三人で歩くのは子供ながらに趣があると感じていました。
祖母はよく私たちにお使いを頼み、私たちが帰ってくると縁側から瓶に入ったラムネやスイカをすすめてくれました。
優しい祖母が、私は大好きでした。
ある日のことです。
その日もとても暑かったのを覚えています。
祖母はいつものように私たち三人にお使いを頼んできました。
私たちもいつものようにお店への道を歩いていたのですが、ふと横を見ると、長い石の階段の先に、朱色の鳥居が見えました。
普段はあまり意識していなかったので素通りしていましたが、その時は猛烈に神社へ行きたくなったのです。
それは弟や従姉妹も同じだったようで、誰が言い出したのかはわかりませんが、おそらく私でしょう。
「神社をのぞいてみよう」ということになり、私たちは苔むした階段を登りました。
階段の左右は木々に囲われていて、日陰が涼しかったのを覚えています。
鳥居をくぐると、そこにはこぢんまりとした本殿がありました。
「ねえ、あれ開けてもいい?」
弟の無邪気な声にはっとし、従姉妹と弟の手を引いて買い物に行きました。
家に帰ると、祖母はいつものようににこやかに出迎えてくれました。
しかし、私たちを一瞥すると、青ざめてどこかへ走っていきました。
そして、私たちに居間で待つようにいうと、バタバタと出掛けていきました。
二、三十分してから祖母は戻ってきました。
隣には三十代前半と思しき男性がいて、その男性は私たちを一目見るなり「神社へ行ったな?」と問いかけてきました。
最年長である私が頷くと、男性は深いため息をつきました。
「あそこには古くからいる土地神様が祀られている。お前たちはその神様に気に入られた。お前たち三人の中から、誰か一人を選んで差し出さないとみんな死んでしまう」
男性はそのような話をした後、「でも、お前たちはまだみんな子供だからな。誰だって死ぬのは嫌だろう」と続けました。
当時、私は十一歳、弟は七歳、従姉妹は五歳でした。
「みんな助かる方法はないの?どうして誰かが死ななきゃいけないの?」
幼い私は必死に祖母たちに尋ねました。
しかし、「もうどうしようもない」と言われ、祖母は夕飯とお風呂の支度をした後、「ご飯を食べて、お風呂に入ったら寝なさい」と言って先ほどの男性と奥の座敷に行ってしまいました。
[水平線]
大人たちが座敷にこもってから、時々話し声が聞こえてきました。
「…はダメだ、やはり……べ…は?」
「…あの…は、……ごだから、誰も…」
途切れ途切れに聞こえる声に飽きてしまった私たちは、早々に布団にもぐりました。
[水平線]
翌朝、祖母と男性は私たちを居間に集めました。
重苦しい空気の中、男性が口を開きました。
「昨日の夜話し合ったんだけどね、やっぱり誰かが神様のところへ行くしかないんだ。そこで……」
祖母の咽び泣く声が話を遮りました。
しかし、男性は言葉を続けました。
「なほちゃん(従姉妹)、君を差し出すことになった」
その言葉は、私たちの脳天を貫きました。
従姉妹は首を傾げ、「どういうこと?」と尋ねていました。
「君のお兄さんたちのために、君は死ななきゃいけないんだよ。ごめんね」
「えっ、やだ!やだ!なほ痛いのやだ!いやぁ!」
従姉妹は甲高い声で叫んでいました。
祖母は土下座せんばかりの勢いで謝っていて、地獄絵図でした。
「ごめんねぇ、ごめんねぇ。けんちゃん(私)もこうちゃん(弟)はだめなの、女の子じゃなきゃいけないの」
祖母は何度も何度も謝っていました。
男性は従姉妹を抱えると、家から出ていきました。
結局、従姉妹は帰ってきませんでした。
叔父や叔母には祖母がいきさつを説明したらしく、二人とも「仕方ない」というような顔をしていました。
あの日以降、従姉妹の話はタブーとなり、あの神社のことも、あの男性のことも、分からずじまいでした。
ただ一つ、わかったことがあります。
従姉妹は、ずっと私のそばにいます。
私には四つ年下の弟がいて、六つ下の従姉妹もいました。
夏休みになると、弟や従姉妹と祖母の家に集まり、一緒に虫取りをしたり、駄菓子屋でアイスを買うのが大好きでした。
青く晴れ渡った空、鮮やかな緑の田んぼ、蝉の鳴き声。
そんな中を、三人で歩くのは子供ながらに趣があると感じていました。
祖母はよく私たちにお使いを頼み、私たちが帰ってくると縁側から瓶に入ったラムネやスイカをすすめてくれました。
優しい祖母が、私は大好きでした。
ある日のことです。
その日もとても暑かったのを覚えています。
祖母はいつものように私たち三人にお使いを頼んできました。
私たちもいつものようにお店への道を歩いていたのですが、ふと横を見ると、長い石の階段の先に、朱色の鳥居が見えました。
普段はあまり意識していなかったので素通りしていましたが、その時は猛烈に神社へ行きたくなったのです。
それは弟や従姉妹も同じだったようで、誰が言い出したのかはわかりませんが、おそらく私でしょう。
「神社をのぞいてみよう」ということになり、私たちは苔むした階段を登りました。
階段の左右は木々に囲われていて、日陰が涼しかったのを覚えています。
鳥居をくぐると、そこにはこぢんまりとした本殿がありました。
「ねえ、あれ開けてもいい?」
弟の無邪気な声にはっとし、従姉妹と弟の手を引いて買い物に行きました。
家に帰ると、祖母はいつものようににこやかに出迎えてくれました。
しかし、私たちを一瞥すると、青ざめてどこかへ走っていきました。
そして、私たちに居間で待つようにいうと、バタバタと出掛けていきました。
二、三十分してから祖母は戻ってきました。
隣には三十代前半と思しき男性がいて、その男性は私たちを一目見るなり「神社へ行ったな?」と問いかけてきました。
最年長である私が頷くと、男性は深いため息をつきました。
「あそこには古くからいる土地神様が祀られている。お前たちはその神様に気に入られた。お前たち三人の中から、誰か一人を選んで差し出さないとみんな死んでしまう」
男性はそのような話をした後、「でも、お前たちはまだみんな子供だからな。誰だって死ぬのは嫌だろう」と続けました。
当時、私は十一歳、弟は七歳、従姉妹は五歳でした。
「みんな助かる方法はないの?どうして誰かが死ななきゃいけないの?」
幼い私は必死に祖母たちに尋ねました。
しかし、「もうどうしようもない」と言われ、祖母は夕飯とお風呂の支度をした後、「ご飯を食べて、お風呂に入ったら寝なさい」と言って先ほどの男性と奥の座敷に行ってしまいました。
[水平線]
大人たちが座敷にこもってから、時々話し声が聞こえてきました。
「…はダメだ、やはり……べ…は?」
「…あの…は、……ごだから、誰も…」
途切れ途切れに聞こえる声に飽きてしまった私たちは、早々に布団にもぐりました。
[水平線]
翌朝、祖母と男性は私たちを居間に集めました。
重苦しい空気の中、男性が口を開きました。
「昨日の夜話し合ったんだけどね、やっぱり誰かが神様のところへ行くしかないんだ。そこで……」
祖母の咽び泣く声が話を遮りました。
しかし、男性は言葉を続けました。
「なほちゃん(従姉妹)、君を差し出すことになった」
その言葉は、私たちの脳天を貫きました。
従姉妹は首を傾げ、「どういうこと?」と尋ねていました。
「君のお兄さんたちのために、君は死ななきゃいけないんだよ。ごめんね」
「えっ、やだ!やだ!なほ痛いのやだ!いやぁ!」
従姉妹は甲高い声で叫んでいました。
祖母は土下座せんばかりの勢いで謝っていて、地獄絵図でした。
「ごめんねぇ、ごめんねぇ。けんちゃん(私)もこうちゃん(弟)はだめなの、女の子じゃなきゃいけないの」
祖母は何度も何度も謝っていました。
男性は従姉妹を抱えると、家から出ていきました。
結局、従姉妹は帰ってきませんでした。
叔父や叔母には祖母がいきさつを説明したらしく、二人とも「仕方ない」というような顔をしていました。
あの日以降、従姉妹の話はタブーとなり、あの神社のことも、あの男性のことも、分からずじまいでした。
ただ一つ、わかったことがあります。
従姉妹は、ずっと私のそばにいます。