まさか、こんな時間に呼び出されるなんて思ってもみなかった。
現在時刻は午後八時。
この時間帯なら、基本的にはお風呂に入ったり遅めの夕食をとったりしている頃だろう。
しかし、僕の先輩は違う。
「ちょっと〇〇公園集合」というメッセージだけで後輩を呼び出す。
用件も言わずに。
そんなところが先輩らしい。
秋とはいえ夜は冷える。
赤く色づいた指先を握り、アスファルトを踏む。
目的の公園に着くと、先輩は迎えを待つ子供のような顔をしていた。
「あ〜!おーそーいー!待ってたんですけど⁈」
「先輩、うるさいです」
たしなめると、先輩はてへっと言いながら歩き出した。
「そういえば、なんで僕を呼んだんですか」
僕が尋ねると、先輩はこちらに目もくれずに答えた。
「お前、最近本売れてないんでしょ?だから慰めてあげようと思って。俺も売れてないしさ。酒飲めたっけ?これからバー行くんだけど」
一尋ねれば五返すところが先輩らしい。
どこからそんなに言うことが出てくるのか、僕は毎回疑問に思っていた。
[水平線]
連れてこられたバーは雰囲気が良く、少し時代遅れなジャズが流れていた。
先輩はカウンターの方にいる店主らしき男性に軽く会釈すると、その男性の向かい側に腰掛けた。
僕も慌てて先輩の横に座ると、先輩は早速注文を始めた。
「フローズンマルガリータをお願いします」
聞きなれない名前に、僕は首を傾げた。
「マルガリータは聞いたことがありますけど……フローズン、ですか?」
「ああ。マルガリータと違って、こっちは氷ごと砕いてるからな。シャーベットに近い感じなんだよ」
「へえ……、お詳しいんですね」
僕が感心していると、早速目の前でカクテルが作られ始めた。
テキーラをベースに、コアントロー、ライムジュース、シロップを加え、クラッシュアイスと共にミキサーに入れ撹拌する。
白く濁ったカクテルは、爽やかさを感じさせた。
「お客様はどうなさいますか?」
柔らかな声が降ってきて、つい「あっあの、お任せします」と情けない返事をしてしまった。
店主は笑顔で頷くと、またカクテルを作り始めた。
ウイスキー、レモンジュース、ライムジュース、グレナデンシロップ、ソーダを加え、優しく混ぜる。
「カリフォルニアレモネードでございます。カクテル言葉は、「永遠の感謝」です」
永遠の感謝、僕には意味が分からなかった。
店主は微笑むと、「フローズンマルガリータのカクテル言葉は「元気を出して」です。彼は、あなたを元気づけたかったのでしょう。そこで、返答としてこちらのカクテルをご用意させていただいたのです」
僕は先輩に視線を向けた。
すると、いたずらっぽい笑みが返ってきた。
ちなみにな、と先輩が言葉を紡ぐ。
「マルガリータの由来って、とあるバーテンダーが恋人と狩猟に行ったとき、流れ弾に当たって亡くなった恋人を偲んで作られた……ですよね、マスター?」
先輩がマスターに確認すると、マスターは「お見事」と言うかのように拍手をした。
カクテルを味わい、店を出た。
夜の街を歩くのは慣れている。
しかし、今日は一風変わった雰囲気だ。
きっと、先輩の元気づけのおかげだろう。
「いいかぁ?小説なんてな、馬鹿みたいに売れなくたっていいんだよ。小遣い程度稼げりゃ十分なのさ」
先輩が急にそんなことを言い出すので、僕は立ち止まってしまった。
「人気小説家なんかじゃなくていい。ただ、自分の小説を楽しみにしてくれてる人がいるのを忘れるなよ」
先輩はそれだけ言うと、背中を向けて歩き出した。
「先輩!」
僕の口じゃないみたいに、でも勝手に喉が動いた。
「ありがとうございます」
照れのせいか消え入りそうな声で言うと、先輩はにやっと笑った。
「どーいたしまして」
軽いノリで返してきた先輩は、かっこよかった。
現在時刻は午後八時。
この時間帯なら、基本的にはお風呂に入ったり遅めの夕食をとったりしている頃だろう。
しかし、僕の先輩は違う。
「ちょっと〇〇公園集合」というメッセージだけで後輩を呼び出す。
用件も言わずに。
そんなところが先輩らしい。
秋とはいえ夜は冷える。
赤く色づいた指先を握り、アスファルトを踏む。
目的の公園に着くと、先輩は迎えを待つ子供のような顔をしていた。
「あ〜!おーそーいー!待ってたんですけど⁈」
「先輩、うるさいです」
たしなめると、先輩はてへっと言いながら歩き出した。
「そういえば、なんで僕を呼んだんですか」
僕が尋ねると、先輩はこちらに目もくれずに答えた。
「お前、最近本売れてないんでしょ?だから慰めてあげようと思って。俺も売れてないしさ。酒飲めたっけ?これからバー行くんだけど」
一尋ねれば五返すところが先輩らしい。
どこからそんなに言うことが出てくるのか、僕は毎回疑問に思っていた。
[水平線]
連れてこられたバーは雰囲気が良く、少し時代遅れなジャズが流れていた。
先輩はカウンターの方にいる店主らしき男性に軽く会釈すると、その男性の向かい側に腰掛けた。
僕も慌てて先輩の横に座ると、先輩は早速注文を始めた。
「フローズンマルガリータをお願いします」
聞きなれない名前に、僕は首を傾げた。
「マルガリータは聞いたことがありますけど……フローズン、ですか?」
「ああ。マルガリータと違って、こっちは氷ごと砕いてるからな。シャーベットに近い感じなんだよ」
「へえ……、お詳しいんですね」
僕が感心していると、早速目の前でカクテルが作られ始めた。
テキーラをベースに、コアントロー、ライムジュース、シロップを加え、クラッシュアイスと共にミキサーに入れ撹拌する。
白く濁ったカクテルは、爽やかさを感じさせた。
「お客様はどうなさいますか?」
柔らかな声が降ってきて、つい「あっあの、お任せします」と情けない返事をしてしまった。
店主は笑顔で頷くと、またカクテルを作り始めた。
ウイスキー、レモンジュース、ライムジュース、グレナデンシロップ、ソーダを加え、優しく混ぜる。
「カリフォルニアレモネードでございます。カクテル言葉は、「永遠の感謝」です」
永遠の感謝、僕には意味が分からなかった。
店主は微笑むと、「フローズンマルガリータのカクテル言葉は「元気を出して」です。彼は、あなたを元気づけたかったのでしょう。そこで、返答としてこちらのカクテルをご用意させていただいたのです」
僕は先輩に視線を向けた。
すると、いたずらっぽい笑みが返ってきた。
ちなみにな、と先輩が言葉を紡ぐ。
「マルガリータの由来って、とあるバーテンダーが恋人と狩猟に行ったとき、流れ弾に当たって亡くなった恋人を偲んで作られた……ですよね、マスター?」
先輩がマスターに確認すると、マスターは「お見事」と言うかのように拍手をした。
カクテルを味わい、店を出た。
夜の街を歩くのは慣れている。
しかし、今日は一風変わった雰囲気だ。
きっと、先輩の元気づけのおかげだろう。
「いいかぁ?小説なんてな、馬鹿みたいに売れなくたっていいんだよ。小遣い程度稼げりゃ十分なのさ」
先輩が急にそんなことを言い出すので、僕は立ち止まってしまった。
「人気小説家なんかじゃなくていい。ただ、自分の小説を楽しみにしてくれてる人がいるのを忘れるなよ」
先輩はそれだけ言うと、背中を向けて歩き出した。
「先輩!」
僕の口じゃないみたいに、でも勝手に喉が動いた。
「ありがとうございます」
照れのせいか消え入りそうな声で言うと、先輩はにやっと笑った。
「どーいたしまして」
軽いノリで返してきた先輩は、かっこよかった。