「そこのお兄さん、ちょっと寄って行きなよゥ」
見世の中から、遊女たちが猫撫で声で話しかけてまいります。
「いやァお前さんたちは俺の懐事情で買うにゃ高すぎる。俺が金持ちになったら来てやるよ」
「連れないねェお兄さん。冷やかし職人かい?」
「ンなのと一緒にされちゃあ困るぜ」
遊女はくすくすと笑うと、煙管の煙を男に吹きかけました。
「いつでも来ておくんなんし」
そんな遊女の思わせぶりな態度を見て、紅月花魁は昔を思い出していました。
「どうしたんです?姐さん。そんな昔を思い出したような顔して」
「お前は勘が鋭いなァ、雪華」
合ってたんですね、と雪華ちゃんは笑いました。
「私も、昔はあんなふうに客を招いたもんさ。客が来なけりゃその日のおまんまは無かったからね。ああ、売られてきた日のことが懐かしいよ」
「姐さんって、いくつのときに売られてきたんですか?」
「確か……六つかそこいらの時だねェ。お前さんはどうなんだい」
「私は七つです」
「そうかい。私はクソ田舎からこっちへ来たからね、江戸の町が輝いて見えたもんさ」
そう言いながら、姐さんは語り始めました。
[水平線]
「私が売られたのは六つになったばかりの頃だった。
家の周りで兄弟と遊んでたら、ずいぶんと上等な着物を着た男が来たのさ。
「あんさん誰だ?おらのうちに何しに来たっぺ?」
私が尋ねると、男はにこにこしながら私の頭を撫でたんだ。
「お嬢ちゃん、江戸へおいでよ。江戸には吉原というところがあってね、そこへ行けば白いご飯が食べられるよ」
田舎娘の私には天国みたいな話だったよ。
「それにね、綺麗な着物だって着れる。たくさん働けば、金持ちと結婚できるかもしれない。お金があれば、家族を助けてやれるよ」
子供の私には信じられない話だったよ。
話してたらおっかさんが出てきてね、何やら男と話してたんだ。
そして、「ふみ、おめえは江戸へ行きてぇか?」って聞いてきたのさ。
もちろん行きたいし、何より家族のために金が欲しかった。
私は覚悟を決めて、家族と離れたのさ。
吉原に来て、まずは色々な店を回ったよ。
どいつもこいつも私を欲しがった。
でも[漢字]女衒[/漢字][ふりがな]げぜん[/ふりがな]はなかなか売ろうとしなかった。
店側の出す金が足りなかったからさ。
そして、一番高い金を出した葉月屋に売られたってわけさ。
売られてきて禿、新造を経験して、ようやく遊女になれたと思ったら、夜見世で冷やかしばっか引いちまったね。
悪態ついてばかりの毎日だったさ。
ある日のことだ。
店の遊女たちが集められたんだよ。
私たちは何事かと思ってたら、「花魁に昇格するやつがいる」なんて言われたから驚いた。
みんな自分だと思って鼻高々にしてたら、私の名前が呼ばれた。
みんな妬ましげにこっちを見てたよ。
でも私は気にせず、花魁として稽古に励んだり、客の相手をする日々が続いた。
そんな時だったよ。
お前に会ったのは。
「お付きの禿がいるから仲良くしろ」って言われたときは驚いたさ。
でもお前はよく働くし、いい子だと思ってるよ」
姐さんはそう言って笑うと、雪華ちゃんの頭を撫でました。
「褒めたってなんにも出てきませんからね!」と怒りつつ、雪華ちゃんは内心すごく喜んでいました。
「紅月ー!お客様だよ!」
女将さんの声が響いてきます。
「はあい」
姐さんは返事をすると、雪華ちゃんを連れて下へ行きました。
夜見世は今、始まりを迎えました。
見世の中から、遊女たちが猫撫で声で話しかけてまいります。
「いやァお前さんたちは俺の懐事情で買うにゃ高すぎる。俺が金持ちになったら来てやるよ」
「連れないねェお兄さん。冷やかし職人かい?」
「ンなのと一緒にされちゃあ困るぜ」
遊女はくすくすと笑うと、煙管の煙を男に吹きかけました。
「いつでも来ておくんなんし」
そんな遊女の思わせぶりな態度を見て、紅月花魁は昔を思い出していました。
「どうしたんです?姐さん。そんな昔を思い出したような顔して」
「お前は勘が鋭いなァ、雪華」
合ってたんですね、と雪華ちゃんは笑いました。
「私も、昔はあんなふうに客を招いたもんさ。客が来なけりゃその日のおまんまは無かったからね。ああ、売られてきた日のことが懐かしいよ」
「姐さんって、いくつのときに売られてきたんですか?」
「確か……六つかそこいらの時だねェ。お前さんはどうなんだい」
「私は七つです」
「そうかい。私はクソ田舎からこっちへ来たからね、江戸の町が輝いて見えたもんさ」
そう言いながら、姐さんは語り始めました。
[水平線]
「私が売られたのは六つになったばかりの頃だった。
家の周りで兄弟と遊んでたら、ずいぶんと上等な着物を着た男が来たのさ。
「あんさん誰だ?おらのうちに何しに来たっぺ?」
私が尋ねると、男はにこにこしながら私の頭を撫でたんだ。
「お嬢ちゃん、江戸へおいでよ。江戸には吉原というところがあってね、そこへ行けば白いご飯が食べられるよ」
田舎娘の私には天国みたいな話だったよ。
「それにね、綺麗な着物だって着れる。たくさん働けば、金持ちと結婚できるかもしれない。お金があれば、家族を助けてやれるよ」
子供の私には信じられない話だったよ。
話してたらおっかさんが出てきてね、何やら男と話してたんだ。
そして、「ふみ、おめえは江戸へ行きてぇか?」って聞いてきたのさ。
もちろん行きたいし、何より家族のために金が欲しかった。
私は覚悟を決めて、家族と離れたのさ。
吉原に来て、まずは色々な店を回ったよ。
どいつもこいつも私を欲しがった。
でも[漢字]女衒[/漢字][ふりがな]げぜん[/ふりがな]はなかなか売ろうとしなかった。
店側の出す金が足りなかったからさ。
そして、一番高い金を出した葉月屋に売られたってわけさ。
売られてきて禿、新造を経験して、ようやく遊女になれたと思ったら、夜見世で冷やかしばっか引いちまったね。
悪態ついてばかりの毎日だったさ。
ある日のことだ。
店の遊女たちが集められたんだよ。
私たちは何事かと思ってたら、「花魁に昇格するやつがいる」なんて言われたから驚いた。
みんな自分だと思って鼻高々にしてたら、私の名前が呼ばれた。
みんな妬ましげにこっちを見てたよ。
でも私は気にせず、花魁として稽古に励んだり、客の相手をする日々が続いた。
そんな時だったよ。
お前に会ったのは。
「お付きの禿がいるから仲良くしろ」って言われたときは驚いたさ。
でもお前はよく働くし、いい子だと思ってるよ」
姐さんはそう言って笑うと、雪華ちゃんの頭を撫でました。
「褒めたってなんにも出てきませんからね!」と怒りつつ、雪華ちゃんは内心すごく喜んでいました。
「紅月ー!お客様だよ!」
女将さんの声が響いてきます。
「はあい」
姐さんは返事をすると、雪華ちゃんを連れて下へ行きました。
夜見世は今、始まりを迎えました。