「姐さぁん……私やっぱり怖いですよぅ」
時刻は夜。
夜見世が始まっている時間帯でございます。
「なァに泣き言言ってんのさ。お前さんがやるって言ったんじゃないか」
後出しは無しだよ、と言いつつ雪華ちゃんに着物を着せてやります。丁度いいサイズでございます。
あとは髪型さえ変えれば完璧…なのですが。
何を隠そう雪華ちゃん禿でございますから、髪はおかっぱなのでございます。
この髪の長さで普通に髪を結うとなると、なかなか難しゅうございます。
「うーん、髪の長さが足りんねェ……」
あっ、と声を出して紅月姐さんは手を動かし始めます。
雪華ちゃんの左右の髪を少しづつ取り、後ろで一つにくくります。
現代でいうところのハーフアップのようなものでございます。
丁寧に結い上げ、姐さんも満足げです。
「姐さん、ありがとうございます!」
雪華ちゃんは嬉しそうに礼を言うと、襖を開けて出ていこうとしました。
「ああッ、ちょいとお待ちな」
姐さん、慌てて雪華ちゃんを呼び止めます。
「どうしたんです?書き取り用の紙も筆も持ったし、何も忘れちゃいませんよ」
「ほら、持っときな」
そう言いながら姐さんは雪華ちゃんに小さな包みのような物を渡します。
「これで好きなもん買っといで。お駄賃だ」
そう言って花魁はにやりと笑います。
「そんな、いただけませんよ!」
つっ返そうとする雪華ちゃんに、無理やり小包を握らせ、紅月姐さんは雪華ちゃんを送り出しました。
[水平線]
さてさてお店の外に出た雪華ちゃんですが、人の多さに辟易します。
切見世の方を通り抜け、遊郭の外に繋がる門に辿り着きましたが、問題発生。
門の前には見張りがおり、そいつらの前を通らなければなりません。
その上、今の雪華ちゃんの格好はthe・町人の娘でございます。
バレようもんなら速攻でとっ捕まえられます。
雪華ちゃんは覚悟を決め、人でごった返す門を走って潜り抜けました。
───────成功いたしました!
雪華ちゃん心臓バクバクでございます。
端っこに座り込み、ゆっくり息を整えます。
雪華ちゃんは立ち上がり、さらに進もうとすると、またもや問題発生でございます。
遊郭の周りには「お[漢字]歯黒溝[/漢字][ふりがな]はぐろどぶ[/ふりがな]」と称される堀のようなものがございまして、これは遊女の逃亡を防ぐためのものでございます。
そのため、遊郭へ参る際は小舟に乗ってから行かねばなりません。
しかし、雪華ちゃんは子供。
船に乗りたいなんて言い出せば連れ戻されるまで秒読みでございます。
泳ぐしかございませんが、雪華ちゃんは泳ぎがてんでダメでございます。
しばし考え、一か八かで飛び越えてみることにしました。
助走をつけて飛びます。
しかし、思いっきり落ちました。
現代には「池ポチャ」という単語がございますが、今回は「堀ポチャ」でございます。
クソ寒いシャレはここまでにしまして、堀に落っこちた雪華ちゃんでございますが、ぷかぷか浮くだけでございまして、動けません。
「はてどうしようか」と考えているところに、小舟が通りかかります。
ここで助けを求めれば風邪は引きません。しかし脱走がバレる。
雪華ちゃん、頭をフル回転させます。
やはり助けを求めるのは諦めて、自分で泳ぐことにいたしました。
ちらりと船の方に目をやると、若そうな旦那と船頭さんが乗っています。
チャポチャポしてたら若旦那と目が合いまして、若旦那さん、驚いた顔をしますな。
船頭さんに何か伝えてこちらに向わせます。
「おい!大丈夫か?今助けてやる!」
そういいながら若旦那さんが手を伸ばし、引き上げてくれました。
「まだ若いな……。なんだ?遊郭から逃げてきたのか?」
「いえ、わたしのお父ちゃんが最近、夜な夜な外へ出ていくので心配になってついてきたんです。そしたらここに着いて……」
雪華ちゃん、一世一代の演技でございます。
「そうか、親父さんが心配だったんだな。優しい子だ。名前は何と言うんだ?」
雪華ちゃん大ピンチです。
何を隠そう、雪華ちゃんは本名を覚えていません。
「ゆ、ゆきと言います」
「ゆきか。いい名前だな」
上手く乗り切りました。
「もう遅いから、私が送り届けよう。家への道は分かるか?」
若旦那さん、突然の提案です。
雪華ちゃんしどろもどろになります。
「わ、分かります。でも悪いですよ!」
若旦那さんはいいからいいからと言って、結局送ってもらえることになりました。
船を降り、暗い道を歩きます。
「なあゆき。お前の親はどんな商売をしているんだ?」
若旦那さんの質問に、雪華ちゃんは大人しく答えます。
「町でかんざし屋をしてます」
これは嘘ではございません。
雪華ちゃんの過去は、まあそのうち書くでしょう。
「そうなのか。いつか嫁をもらったら、お前の店にかんざしを買いに行くよ」
ありがとうございます、と微笑むと、雪華ちゃんはふと若旦那に尋ねます。
「若旦那さん、お名前何と言うのですか?」
「私か?[漢字]高野伊織[/漢字][ふりがな]たかのいおり[/ふりがな]という」
ここからは面倒なので伊織さんと呼びますが、更に話を聞くと伊織さんは町で菓子屋を営んでいるらしく、そこそこ繁盛しているようでございます。
歩き続けていると、空が白み始めました。
夜明けが近づいております。
すごく綺麗な光景でございます。
てくてく歩き続け、目的のお店にたどり着きます。
「伊織さん、ありがとうございました」
「ああ、またいつか会おう」
伊織さんにお礼をいい、お店の裏にまわります。
お店が開くまで待ちますな。
[水平線]
ようやくお店が開き始め、町に活気があふれ始めます。
そして、目的のお店も人が出てきました。
「あっ!」と雪華ちゃんは声を上げます。
店主が出てきました。
待った甲斐があります。
「あのう……」
雪華ちゃん、遠慮がちに声をかけます。
「ん?どうしたんだお嬢ちゃん。迷子かい?」
店主はそう言って笑います。
お世辞にもお上品とは言えない笑い方です。
「あ、あなたの身の周りで狐憑き事件が起きていると聞いてきたんです!解決したくて……」
店主、目をまんまるくします。
そして、「お前、まさか紅月んとこの禿か?」と。
バレました。やっちまった────それしか言えません。
「こっ、このことはどうかご内密に……!」
雪華ちゃんは頭を思いっきり下げます。
「そんな顔すんなよ。言わねえから。ま、上がれよ」
店主、意外に優しいです。
こうして、雪華ちゃんは店主から話を聞けることになりました。
時刻は夜。
夜見世が始まっている時間帯でございます。
「なァに泣き言言ってんのさ。お前さんがやるって言ったんじゃないか」
後出しは無しだよ、と言いつつ雪華ちゃんに着物を着せてやります。丁度いいサイズでございます。
あとは髪型さえ変えれば完璧…なのですが。
何を隠そう雪華ちゃん禿でございますから、髪はおかっぱなのでございます。
この髪の長さで普通に髪を結うとなると、なかなか難しゅうございます。
「うーん、髪の長さが足りんねェ……」
あっ、と声を出して紅月姐さんは手を動かし始めます。
雪華ちゃんの左右の髪を少しづつ取り、後ろで一つにくくります。
現代でいうところのハーフアップのようなものでございます。
丁寧に結い上げ、姐さんも満足げです。
「姐さん、ありがとうございます!」
雪華ちゃんは嬉しそうに礼を言うと、襖を開けて出ていこうとしました。
「ああッ、ちょいとお待ちな」
姐さん、慌てて雪華ちゃんを呼び止めます。
「どうしたんです?書き取り用の紙も筆も持ったし、何も忘れちゃいませんよ」
「ほら、持っときな」
そう言いながら姐さんは雪華ちゃんに小さな包みのような物を渡します。
「これで好きなもん買っといで。お駄賃だ」
そう言って花魁はにやりと笑います。
「そんな、いただけませんよ!」
つっ返そうとする雪華ちゃんに、無理やり小包を握らせ、紅月姐さんは雪華ちゃんを送り出しました。
[水平線]
さてさてお店の外に出た雪華ちゃんですが、人の多さに辟易します。
切見世の方を通り抜け、遊郭の外に繋がる門に辿り着きましたが、問題発生。
門の前には見張りがおり、そいつらの前を通らなければなりません。
その上、今の雪華ちゃんの格好はthe・町人の娘でございます。
バレようもんなら速攻でとっ捕まえられます。
雪華ちゃんは覚悟を決め、人でごった返す門を走って潜り抜けました。
───────成功いたしました!
雪華ちゃん心臓バクバクでございます。
端っこに座り込み、ゆっくり息を整えます。
雪華ちゃんは立ち上がり、さらに進もうとすると、またもや問題発生でございます。
遊郭の周りには「お[漢字]歯黒溝[/漢字][ふりがな]はぐろどぶ[/ふりがな]」と称される堀のようなものがございまして、これは遊女の逃亡を防ぐためのものでございます。
そのため、遊郭へ参る際は小舟に乗ってから行かねばなりません。
しかし、雪華ちゃんは子供。
船に乗りたいなんて言い出せば連れ戻されるまで秒読みでございます。
泳ぐしかございませんが、雪華ちゃんは泳ぎがてんでダメでございます。
しばし考え、一か八かで飛び越えてみることにしました。
助走をつけて飛びます。
しかし、思いっきり落ちました。
現代には「池ポチャ」という単語がございますが、今回は「堀ポチャ」でございます。
クソ寒いシャレはここまでにしまして、堀に落っこちた雪華ちゃんでございますが、ぷかぷか浮くだけでございまして、動けません。
「はてどうしようか」と考えているところに、小舟が通りかかります。
ここで助けを求めれば風邪は引きません。しかし脱走がバレる。
雪華ちゃん、頭をフル回転させます。
やはり助けを求めるのは諦めて、自分で泳ぐことにいたしました。
ちらりと船の方に目をやると、若そうな旦那と船頭さんが乗っています。
チャポチャポしてたら若旦那と目が合いまして、若旦那さん、驚いた顔をしますな。
船頭さんに何か伝えてこちらに向わせます。
「おい!大丈夫か?今助けてやる!」
そういいながら若旦那さんが手を伸ばし、引き上げてくれました。
「まだ若いな……。なんだ?遊郭から逃げてきたのか?」
「いえ、わたしのお父ちゃんが最近、夜な夜な外へ出ていくので心配になってついてきたんです。そしたらここに着いて……」
雪華ちゃん、一世一代の演技でございます。
「そうか、親父さんが心配だったんだな。優しい子だ。名前は何と言うんだ?」
雪華ちゃん大ピンチです。
何を隠そう、雪華ちゃんは本名を覚えていません。
「ゆ、ゆきと言います」
「ゆきか。いい名前だな」
上手く乗り切りました。
「もう遅いから、私が送り届けよう。家への道は分かるか?」
若旦那さん、突然の提案です。
雪華ちゃんしどろもどろになります。
「わ、分かります。でも悪いですよ!」
若旦那さんはいいからいいからと言って、結局送ってもらえることになりました。
船を降り、暗い道を歩きます。
「なあゆき。お前の親はどんな商売をしているんだ?」
若旦那さんの質問に、雪華ちゃんは大人しく答えます。
「町でかんざし屋をしてます」
これは嘘ではございません。
雪華ちゃんの過去は、まあそのうち書くでしょう。
「そうなのか。いつか嫁をもらったら、お前の店にかんざしを買いに行くよ」
ありがとうございます、と微笑むと、雪華ちゃんはふと若旦那に尋ねます。
「若旦那さん、お名前何と言うのですか?」
「私か?[漢字]高野伊織[/漢字][ふりがな]たかのいおり[/ふりがな]という」
ここからは面倒なので伊織さんと呼びますが、更に話を聞くと伊織さんは町で菓子屋を営んでいるらしく、そこそこ繁盛しているようでございます。
歩き続けていると、空が白み始めました。
夜明けが近づいております。
すごく綺麗な光景でございます。
てくてく歩き続け、目的のお店にたどり着きます。
「伊織さん、ありがとうございました」
「ああ、またいつか会おう」
伊織さんにお礼をいい、お店の裏にまわります。
お店が開くまで待ちますな。
[水平線]
ようやくお店が開き始め、町に活気があふれ始めます。
そして、目的のお店も人が出てきました。
「あっ!」と雪華ちゃんは声を上げます。
店主が出てきました。
待った甲斐があります。
「あのう……」
雪華ちゃん、遠慮がちに声をかけます。
「ん?どうしたんだお嬢ちゃん。迷子かい?」
店主はそう言って笑います。
お世辞にもお上品とは言えない笑い方です。
「あ、あなたの身の周りで狐憑き事件が起きていると聞いてきたんです!解決したくて……」
店主、目をまんまるくします。
そして、「お前、まさか紅月んとこの禿か?」と。
バレました。やっちまった────それしか言えません。
「こっ、このことはどうかご内密に……!」
雪華ちゃんは頭を思いっきり下げます。
「そんな顔すんなよ。言わねえから。ま、上がれよ」
店主、意外に優しいです。
こうして、雪華ちゃんは店主から話を聞けることになりました。