今日もまた、私は「バー・eternal」に向かう。
掛けられた小さな看板には、洒落た筆記体でeternalと書かれている。
今日は何を頼もうか、なんて考えながら私は扉を開ける。
「いらっしゃい」
マスターのしゃがれた声が店の中に響く。
私はいつもの席に座って、マスターと少しだけ話をする。
「最近、元気が無いねェ、どうかしたのかい?」
「近頃仕事が繁忙期でな。休みが取りにくいんだ。」
「そうかい。なら、元気が出るようなデザートでも出してあげよう」
「…ありがとう」
マスターの心遣いが身に沁みる。
「それで、ご注文は?」
そう尋ねられて私は「お勧めを」とだけ言った。
マスターは「お任せを」と小さな声で言った。
そして、シェーカーを振る音だけが響き渡る。
サイドカー。
ブランデーがベースの、度の高いカクテル。
仕事の疲れを忘れさせるために、度が高いカクテルを選んだのだろう。
「いつも二人で」
顔を上げると、マスターがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「いつも二人で、ここに来ていたねェ。二人が出会ったのも、ここだったな。」
そうだった。
こんなに大切なことを、何故忘れていたのだろう。
妻は、端の席に座って、マティーニを飲んでいたのを覚えている。
懐かしい。
コトリ、と音がしてカウンターを見てみると、ティラミスが置かれていた。
「私を元気づけて…こういうのは、私から言うものではないかな?」
少しおどけながら尋ねると、マスターは「まァ、そうだね」と言いながら、スコッチの入ったボトルを拭いていた。
棚に置かれた緑色の洋酒。
ラベルには、「absinthe」と書かれていた。
マスターに尋ねてみると、かのゴッホも愛したと言われるもので、どうやらニガヨモギやアニスで作られたリキュールらしく、昔は飲むと幻覚が見えたり痙攣を起こすことがあったとかそういう話で、禁止されていた時代があったそうだ。
「アブサンも、追加で」
酔いが回ってきているのだろうか、少し途切れ途切れになりながら伝えた。
「了解。角砂糖は?」
……角砂糖?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、マスターは「アブサンの定番の飲み方さ。専用のポットの上に角砂糖を乗せて、水を少しづつ垂らす。好みの甘さに調節して飲むんだよ」
「じゃあ、角砂糖も頼む」
「了解」
目の前に置かれたアブサン。
角砂糖が溶けて、中に落ちる。
砂糖のせいか、アブサンが白く濁ってきた。
待つのも面倒なので、これでいいと思ったタイミングで口に含む。
ハーブの味が強く、癖のある味だ。
私は嫌いでは無いが、これは好き嫌いが分かれるだろうな、なんて思いながら飲み込んでいく。
これで、最後だ。
やはりこの時期の寒さは骨身に沁みる。
かじかむ指先を吐息で温めながら、私は家路についた。
掛けられた小さな看板には、洒落た筆記体でeternalと書かれている。
今日は何を頼もうか、なんて考えながら私は扉を開ける。
「いらっしゃい」
マスターのしゃがれた声が店の中に響く。
私はいつもの席に座って、マスターと少しだけ話をする。
「最近、元気が無いねェ、どうかしたのかい?」
「近頃仕事が繁忙期でな。休みが取りにくいんだ。」
「そうかい。なら、元気が出るようなデザートでも出してあげよう」
「…ありがとう」
マスターの心遣いが身に沁みる。
「それで、ご注文は?」
そう尋ねられて私は「お勧めを」とだけ言った。
マスターは「お任せを」と小さな声で言った。
そして、シェーカーを振る音だけが響き渡る。
サイドカー。
ブランデーがベースの、度の高いカクテル。
仕事の疲れを忘れさせるために、度が高いカクテルを選んだのだろう。
「いつも二人で」
顔を上げると、マスターがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「いつも二人で、ここに来ていたねェ。二人が出会ったのも、ここだったな。」
そうだった。
こんなに大切なことを、何故忘れていたのだろう。
妻は、端の席に座って、マティーニを飲んでいたのを覚えている。
懐かしい。
コトリ、と音がしてカウンターを見てみると、ティラミスが置かれていた。
「私を元気づけて…こういうのは、私から言うものではないかな?」
少しおどけながら尋ねると、マスターは「まァ、そうだね」と言いながら、スコッチの入ったボトルを拭いていた。
棚に置かれた緑色の洋酒。
ラベルには、「absinthe」と書かれていた。
マスターに尋ねてみると、かのゴッホも愛したと言われるもので、どうやらニガヨモギやアニスで作られたリキュールらしく、昔は飲むと幻覚が見えたり痙攣を起こすことがあったとかそういう話で、禁止されていた時代があったそうだ。
「アブサンも、追加で」
酔いが回ってきているのだろうか、少し途切れ途切れになりながら伝えた。
「了解。角砂糖は?」
……角砂糖?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、マスターは「アブサンの定番の飲み方さ。専用のポットの上に角砂糖を乗せて、水を少しづつ垂らす。好みの甘さに調節して飲むんだよ」
「じゃあ、角砂糖も頼む」
「了解」
目の前に置かれたアブサン。
角砂糖が溶けて、中に落ちる。
砂糖のせいか、アブサンが白く濁ってきた。
待つのも面倒なので、これでいいと思ったタイミングで口に含む。
ハーブの味が強く、癖のある味だ。
私は嫌いでは無いが、これは好き嫌いが分かれるだろうな、なんて思いながら飲み込んでいく。
これで、最後だ。
やはりこの時期の寒さは骨身に沁みる。
かじかむ指先を吐息で温めながら、私は家路についた。