春滝は混乱していた。
「お前に身請け話が来ている」と楼主に言われ、勝手に話を進められそうになったからである。
「ちょ、ちょっと待っておくんなんし!
どうしてあちき抜きで話を進めようとしたのでありんすか?!
あちきの…あちきの意思は無視でありんすか?」
春滝は楼主の袖を引っ張って喚いた。
「こんなにありがたい話、断るところがないだろう。
それに、お相手は金貸し業の方だ。生活には困らんし、何よりお前を愛してくれている。何故嫌がるんだ?」
「あちきには…心に決めた人がいるでありんす。その方と一生添い遂げると決めんした故」
春滝は凛として答えた。
「それでは、話は破談にしておいておくんなんし」
春滝は着物の裾を翻して、月志乃のもとへ歩いていった。
[水平線]
「はあ?!身請け話を断っただなんて、どうしてそんな……」
話を聞いた月志乃は驚いて叫んでしまった。
「いいかい春滝。
身請けなんて、普通の遊女じゃそうそう訪れねえ滅多に無い機会でござんすよ。
それを袖にするだなんて、どれだけ贅沢なことをしたのか分かってるんでありんすか?」
月志乃は優しく春滝を諭した。
「まだ間に合うから、話を受けてきなんし」
我が子を諭すような声で言うと、月志乃は春滝の頬を撫でた。
「それにしても、心に決めた人だなんて、一体誰でござんすか?」
月志乃が微笑むと、春滝は顔を赤くした。
「……でありんす」
「え?」
「だから、主さんでありんすよ!」
春滝は顔を真っ赤にして叫んだ。
月志乃はというと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、やがてけらけらと笑い出した。
「はははっ!金持ちの旦那を差し置いて、あちきが一番になっちまうとは……。
けんど、あんたは男と幸せになるのが一番でありんすよ」
月志乃は笑っていたが、目は悲しげだった。
「笑わないでおくんなんし!あちきは本気でありんすよ!」
「でも、あちきたちが幸せになる方法はありんせんでしょう?
どうするつもりでありんすか?」
月志乃が尋ねると、春滝は口ごもった。
「そ、それは……」
やれやれと言わんばかりに月志乃がため息をつくと、「これはあくまで最後の手段でありんす。実行するなら、相当な覚悟が必要でありんすよ」と言った。
「最後の手段……心中でありんす」
春滝は血の気が引いた。
「春滝さんはまだ死にとうありんせんでしょう?
それなら大人しゅう身請け話を……」
月志乃がここまで言うと、春滝は覚悟を決めたように月志乃の手を握りしめた。
「あちきは…月志乃さんと一緒に逝きとうござりんす」
月志乃は満足そうに笑うと、淡々と用意を始めた。
「お前に身請け話が来ている」と楼主に言われ、勝手に話を進められそうになったからである。
「ちょ、ちょっと待っておくんなんし!
どうしてあちき抜きで話を進めようとしたのでありんすか?!
あちきの…あちきの意思は無視でありんすか?」
春滝は楼主の袖を引っ張って喚いた。
「こんなにありがたい話、断るところがないだろう。
それに、お相手は金貸し業の方だ。生活には困らんし、何よりお前を愛してくれている。何故嫌がるんだ?」
「あちきには…心に決めた人がいるでありんす。その方と一生添い遂げると決めんした故」
春滝は凛として答えた。
「それでは、話は破談にしておいておくんなんし」
春滝は着物の裾を翻して、月志乃のもとへ歩いていった。
[水平線]
「はあ?!身請け話を断っただなんて、どうしてそんな……」
話を聞いた月志乃は驚いて叫んでしまった。
「いいかい春滝。
身請けなんて、普通の遊女じゃそうそう訪れねえ滅多に無い機会でござんすよ。
それを袖にするだなんて、どれだけ贅沢なことをしたのか分かってるんでありんすか?」
月志乃は優しく春滝を諭した。
「まだ間に合うから、話を受けてきなんし」
我が子を諭すような声で言うと、月志乃は春滝の頬を撫でた。
「それにしても、心に決めた人だなんて、一体誰でござんすか?」
月志乃が微笑むと、春滝は顔を赤くした。
「……でありんす」
「え?」
「だから、主さんでありんすよ!」
春滝は顔を真っ赤にして叫んだ。
月志乃はというと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、やがてけらけらと笑い出した。
「はははっ!金持ちの旦那を差し置いて、あちきが一番になっちまうとは……。
けんど、あんたは男と幸せになるのが一番でありんすよ」
月志乃は笑っていたが、目は悲しげだった。
「笑わないでおくんなんし!あちきは本気でありんすよ!」
「でも、あちきたちが幸せになる方法はありんせんでしょう?
どうするつもりでありんすか?」
月志乃が尋ねると、春滝は口ごもった。
「そ、それは……」
やれやれと言わんばかりに月志乃がため息をつくと、「これはあくまで最後の手段でありんす。実行するなら、相当な覚悟が必要でありんすよ」と言った。
「最後の手段……心中でありんす」
春滝は血の気が引いた。
「春滝さんはまだ死にとうありんせんでしょう?
それなら大人しゅう身請け話を……」
月志乃がここまで言うと、春滝は覚悟を決めたように月志乃の手を握りしめた。
「あちきは…月志乃さんと一緒に逝きとうござりんす」
月志乃は満足そうに笑うと、淡々と用意を始めた。