「カラン」
小さな鈴の音と共に、扉を開ける。
いつまで経っても、このバーは全く変わらない。
それは、妻がいなくなってもだ。
古臭い時代遅れのジャズ、薄暗い店内、少し古びたカウンター、棚に並ぶ数多くの酒。
そして、全く変わらない白髪混じりのマスター。
カウンターに腰掛け、今日は何を頼もうか考える。
ぼんやりしていると、マスターが私に声をかけてきた。
「懐かしいねェ、奥さんを連れてきていた時が、つい昨日のことみたいに思えるよ。」
その少ししゃがれた声に安心する。
妻を亡くしてもう5年経つのか。時の流れは早いものだ。
「それで、注文は?」
ふと我に帰ると、マスターがメニューを差し出していた。
「……」
私が黙り込んでいると、マスターは私の心を読んだかのような目でこちらを見てきた。
そして、私の目の前に「ライラ」が置かれた。
ライラはウォッカにコアントロー、ライムジュースでできたカクテルだ。
度数が高いのに飲みやすい、軽やかな味わいだ。
マスターに「何故ライラを?」と尋ねると、マスターは微かに笑みを浮かべてこう言った。
「ライラのカクテル言葉はね、今、君を想うなんだよ。今まさに、奥さんのことを想っているだろう?今の貴方にはぴったりなカクテルじゃないか。」
…確かにそうだ。
私は今、妻が生きていた頃一緒に来ていたバーで、妻との思い出を思い出しながらカクテルを嗜んでいる。
そういえば、妻はスクリュードライバーが好きで、よく飲んでいたのを思い出した。
ウォッカとオレンジジュースの組み合わせが大好きだったのだろう。
…帰ってきておくれ。
そろそろ夜も更けてきた。
帰ろうかと考えていると、マスターは一杯のカクテルを私に差し出した。
そのカクテルは「アレキサンダー」。
ブランデーにカカオリキュールと生クリームを加えたカクテルで、甘く濃厚な口当たりだ。
何故、私にこれを差し出したのだろうか。
ほんの少し考えて、気づいた。
アレキサンダーのカクテル言葉は「完全無欠」だ。
確かに、妻はそんな女性だった。
カクテルを飲み干して、会計をして、バーの扉を開ける。
外には涼しい風が吹いていた。
マスターは「お気をつけて。貴方が飲んだものは度数が高いからね」と冗談めかして私に言った。
私も「ああ、気をつけるよ。道で酔ってしまっては困るからね」と言い、道を歩き始めた。
涼しい夜風に吹かれつつ、帰り道を歩く。
5年前までは、この隣に妻が立っていて、私を支えてくれていたのに。
今はもう、隣には誰もいない。
まるで、「一人だけでも、強く生きていけるようになれ」と鼓舞されている気分だ。
ふと、妻の笑い声が蘇った。
その声に驚いて、思わず立ち止まってしまった。
そして、「さ、帰りましょ」と言う声も。
「ああ、帰ろう」
そう呟くと、私はバッグを持ち直し、また歩き始めた。
小さな鈴の音と共に、扉を開ける。
いつまで経っても、このバーは全く変わらない。
それは、妻がいなくなってもだ。
古臭い時代遅れのジャズ、薄暗い店内、少し古びたカウンター、棚に並ぶ数多くの酒。
そして、全く変わらない白髪混じりのマスター。
カウンターに腰掛け、今日は何を頼もうか考える。
ぼんやりしていると、マスターが私に声をかけてきた。
「懐かしいねェ、奥さんを連れてきていた時が、つい昨日のことみたいに思えるよ。」
その少ししゃがれた声に安心する。
妻を亡くしてもう5年経つのか。時の流れは早いものだ。
「それで、注文は?」
ふと我に帰ると、マスターがメニューを差し出していた。
「……」
私が黙り込んでいると、マスターは私の心を読んだかのような目でこちらを見てきた。
そして、私の目の前に「ライラ」が置かれた。
ライラはウォッカにコアントロー、ライムジュースでできたカクテルだ。
度数が高いのに飲みやすい、軽やかな味わいだ。
マスターに「何故ライラを?」と尋ねると、マスターは微かに笑みを浮かべてこう言った。
「ライラのカクテル言葉はね、今、君を想うなんだよ。今まさに、奥さんのことを想っているだろう?今の貴方にはぴったりなカクテルじゃないか。」
…確かにそうだ。
私は今、妻が生きていた頃一緒に来ていたバーで、妻との思い出を思い出しながらカクテルを嗜んでいる。
そういえば、妻はスクリュードライバーが好きで、よく飲んでいたのを思い出した。
ウォッカとオレンジジュースの組み合わせが大好きだったのだろう。
…帰ってきておくれ。
そろそろ夜も更けてきた。
帰ろうかと考えていると、マスターは一杯のカクテルを私に差し出した。
そのカクテルは「アレキサンダー」。
ブランデーにカカオリキュールと生クリームを加えたカクテルで、甘く濃厚な口当たりだ。
何故、私にこれを差し出したのだろうか。
ほんの少し考えて、気づいた。
アレキサンダーのカクテル言葉は「完全無欠」だ。
確かに、妻はそんな女性だった。
カクテルを飲み干して、会計をして、バーの扉を開ける。
外には涼しい風が吹いていた。
マスターは「お気をつけて。貴方が飲んだものは度数が高いからね」と冗談めかして私に言った。
私も「ああ、気をつけるよ。道で酔ってしまっては困るからね」と言い、道を歩き始めた。
涼しい夜風に吹かれつつ、帰り道を歩く。
5年前までは、この隣に妻が立っていて、私を支えてくれていたのに。
今はもう、隣には誰もいない。
まるで、「一人だけでも、強く生きていけるようになれ」と鼓舞されている気分だ。
ふと、妻の笑い声が蘇った。
その声に驚いて、思わず立ち止まってしまった。
そして、「さ、帰りましょ」と言う声も。
「ああ、帰ろう」
そう呟くと、私はバッグを持ち直し、また歩き始めた。