「ねえ、君。ここ好きなの?」
いつものように日向ぼっこをしていたら、学生くらいのお姉さんに声をかけられた。
「うん」と答えると、お姉さんは嬉しそうに笑って色々と質問してきた。
一つ一つ答えていると、昔のことを思い出した。
[水平線]
「アンタなんかいなくなればいいのに‼︎」
お母さんに言われた言葉。
狭いアパートの和室に、お母さんの叫ぶ声が響いた。
お母さんはよく知らない人を家に連れてきた。
その時は決まって、僕は外に出てなくちゃいけない。
誰かが来た時は大抵夜まで外にいなきゃいけないから、近くにある原っぱで日向ぼっこしていた。
太陽の暖かさと草の柔らかさだけは僕を否定しなかった。
目を瞑ると、まぶた越しに優しい光が見えてきて楽しかった。
草の匂いも、暖かい光も、優しく吹くそよ風も。
全部大好きだった。
でも、ある日からお母さんは僕を押し入れに閉じ込めるようになった。
「今日彼氏来るから押し入れにいてよ。子持ちだってバレたら洒落になんないから」
そう言いながらお母さんは押し入れの扉を閉めた。
細く開いた隙間からお母さんの姿が見えた。
彼氏が来る日は金茶色に染めたロングヘアを巻いて、似合わない濃いアイシャドウに真っ赤な口紅をつけていた。
ハリウッドスターなら似合うようなごてごての化粧をして、肩の露出した紫の洋服を着ていた。
黒の膝上のミニスカートで毎回違う[漢字]彼氏[/漢字][ふりがな]ひと[/ふりがな]を迎えて、腕を組んで部屋に連れ込んで。
押し入れの外から聞こえる声が大嫌いだった。
母親から「女」になる瞬間を嫌でも肌で感じさせられたから。
目の当たりにしないからこそ、耳で感じ取って、脳で情報処理をして、現実よりも嫌なことを想像させられた。
忘れもしない八月十日。
この日も変わらずお母さんは彼氏を連れてきた。
僕はいつものように押し入れに押し込まれた。
暗い押し入れの中は蒸し暑くて、足も満足に伸ばせなかった。
真夏の蒸し暑さ特有の匂いとタバコの煙、溜まったゴミの臭いが混ざり合って、毒々しい臭いが僕の鼻を突いた。
いつになっても彼氏は帰らなくて、聞こえた会話では何日か居座るらしかった。
「ねえユミちゃん、しばらく泊まってていい?今月電気代とか厳しくてさぁ」
その言葉にお母さんは一瞬動揺した。
「えっ……うちに?」
「うん、ユミちゃんち。ダメ?」
「別にいいんだけどさ…部屋汚いけど平気?大丈夫?」
「だいじょーぶ」
「わかった。そうだ、ご飯作るから待ってて」
そんな会話が聞こえてきた。
夜は涼しくなるとは言っても、八月の夜は十分暑苦しい。
蒸し暑い押し入れの中、充分に身体を動かせずにいると、自分が腐っていくような気がした。
お母さんに叩かれた時にできた傷口が膿んで汚くなった。
夏のじめじめした空気のせいか、傷から虫が湧いた。
息苦しくて、もう動く気力も出てこなくて、目を閉じた。
じわじわと自分が腐り落ちていく感覚がして、目を開けることができなかった。
[水平線]
はっとしてお姉さんの方を見ると、なんだか羨ましくなってきた。
「ねえ、お姉さんってお友達いる?」
そう尋ねるとお姉さんは不思議そうな顔をして頷いた。
「お友達は多い?少ない?」
お姉さんは少し考えてから「どっちかというと少ないかなぁ」と寂しそうに笑った。
でも、お姉さんの表情から友情は感じられなかった。
仕方ないからお姉さんだけで我慢することにした。
前から友達はいなかった僕にとって、一人でも隣に誰かいてくれるのは嬉しいことだった。
「じゃあ、お姉さんだけでもいいや」
そう言うと、お姉さんはよく分かっていないような顔をした。
お姉さんの腕を掴んで、[漢字]友達[/漢字][ふりがな]死人[/ふりがな]にするとかに決めた。
優しそうなお姉さんなら、永遠に遊んでくれるはず。
酷いお友達といるより、僕といた方が楽しい。
そうに決まってる。
「ねえ。遊ぼ?」
いつものように日向ぼっこをしていたら、学生くらいのお姉さんに声をかけられた。
「うん」と答えると、お姉さんは嬉しそうに笑って色々と質問してきた。
一つ一つ答えていると、昔のことを思い出した。
[水平線]
「アンタなんかいなくなればいいのに‼︎」
お母さんに言われた言葉。
狭いアパートの和室に、お母さんの叫ぶ声が響いた。
お母さんはよく知らない人を家に連れてきた。
その時は決まって、僕は外に出てなくちゃいけない。
誰かが来た時は大抵夜まで外にいなきゃいけないから、近くにある原っぱで日向ぼっこしていた。
太陽の暖かさと草の柔らかさだけは僕を否定しなかった。
目を瞑ると、まぶた越しに優しい光が見えてきて楽しかった。
草の匂いも、暖かい光も、優しく吹くそよ風も。
全部大好きだった。
でも、ある日からお母さんは僕を押し入れに閉じ込めるようになった。
「今日彼氏来るから押し入れにいてよ。子持ちだってバレたら洒落になんないから」
そう言いながらお母さんは押し入れの扉を閉めた。
細く開いた隙間からお母さんの姿が見えた。
彼氏が来る日は金茶色に染めたロングヘアを巻いて、似合わない濃いアイシャドウに真っ赤な口紅をつけていた。
ハリウッドスターなら似合うようなごてごての化粧をして、肩の露出した紫の洋服を着ていた。
黒の膝上のミニスカートで毎回違う[漢字]彼氏[/漢字][ふりがな]ひと[/ふりがな]を迎えて、腕を組んで部屋に連れ込んで。
押し入れの外から聞こえる声が大嫌いだった。
母親から「女」になる瞬間を嫌でも肌で感じさせられたから。
目の当たりにしないからこそ、耳で感じ取って、脳で情報処理をして、現実よりも嫌なことを想像させられた。
忘れもしない八月十日。
この日も変わらずお母さんは彼氏を連れてきた。
僕はいつものように押し入れに押し込まれた。
暗い押し入れの中は蒸し暑くて、足も満足に伸ばせなかった。
真夏の蒸し暑さ特有の匂いとタバコの煙、溜まったゴミの臭いが混ざり合って、毒々しい臭いが僕の鼻を突いた。
いつになっても彼氏は帰らなくて、聞こえた会話では何日か居座るらしかった。
「ねえユミちゃん、しばらく泊まってていい?今月電気代とか厳しくてさぁ」
その言葉にお母さんは一瞬動揺した。
「えっ……うちに?」
「うん、ユミちゃんち。ダメ?」
「別にいいんだけどさ…部屋汚いけど平気?大丈夫?」
「だいじょーぶ」
「わかった。そうだ、ご飯作るから待ってて」
そんな会話が聞こえてきた。
夜は涼しくなるとは言っても、八月の夜は十分暑苦しい。
蒸し暑い押し入れの中、充分に身体を動かせずにいると、自分が腐っていくような気がした。
お母さんに叩かれた時にできた傷口が膿んで汚くなった。
夏のじめじめした空気のせいか、傷から虫が湧いた。
息苦しくて、もう動く気力も出てこなくて、目を閉じた。
じわじわと自分が腐り落ちていく感覚がして、目を開けることができなかった。
[水平線]
はっとしてお姉さんの方を見ると、なんだか羨ましくなってきた。
「ねえ、お姉さんってお友達いる?」
そう尋ねるとお姉さんは不思議そうな顔をして頷いた。
「お友達は多い?少ない?」
お姉さんは少し考えてから「どっちかというと少ないかなぁ」と寂しそうに笑った。
でも、お姉さんの表情から友情は感じられなかった。
仕方ないからお姉さんだけで我慢することにした。
前から友達はいなかった僕にとって、一人でも隣に誰かいてくれるのは嬉しいことだった。
「じゃあ、お姉さんだけでもいいや」
そう言うと、お姉さんはよく分かっていないような顔をした。
お姉さんの腕を掴んで、[漢字]友達[/漢字][ふりがな]死人[/ふりがな]にするとかに決めた。
優しそうなお姉さんなら、永遠に遊んでくれるはず。
酷いお友達といるより、僕といた方が楽しい。
そうに決まってる。
「ねえ。遊ぼ?」