文字サイズ変更

最終列車、あの世行き

#4

富内 幸隆「トミウチユキタカ」52歳

目を瞑っていると、雨音がはっきりと聞こえてくる。
周りの乗客の息遣いも、電灯の消えかかってからまた点く音も。


乗客は皆ぐったりと項垂れるなりなんなりしていた。
正面の男は目を動かし続けている。
横の男は静かに眠っている。
斜向かいの女は俯いている。

俺は目を瞑って、まだ俺の心臓が動いていた時のことを思い返していた。








































生前、俺はしがない会社員だった。
特に役職が上というわけでもなく、不平不満も無い生活を送っていた。
これと言って熱中していたようなものもなく、海月のように世の中を漂っていた気がする。



子供の頃から「何を考えているのか分からない、生きる目的がないように見受けられる」と言われてきた。
俺としても、何のために呼吸をして、食事をして、睡眠をとっているのか理解できていなかった。

中学に上がった頃から、根本的に生きていたくなくなった。

一概に「生きていたくない」と言っても死にたいわけではなくて、兎にも角にも生きていたくなかった。

いじめられていたわけでもないし、何か悩みがあったわけでもない。
ただただ、この世に飽きていた。

空の青さが、眩しさが嫌になって、空はもう少し薄暗くてもいいんじゃないかと思うようになった。



高校に入ってからは、「水」に興味を抱き始めた。
海の中の生き物の美しさにも海の蒼さにも恋し始めた。
いつか自分も海のように透明になって、海の一部になりたいと願い始めた。
「死ぬなら入水だな」
この時に決めた。




高校を卒業した後、普通の大学に行って、まあまあな企業に就職した。

俺の働いていた会社は、同じビルに二つの会社が入っていて、もう一方の会社はノルマがきついと聞いていた。

そのせいだろうか。
その会社に入社した若い新卒の社員がビルから飛び降りた。
デスクに向き合っていた時、その飛び降りた社員と目が合った気がした。
まあ、俺にとってはどうでもいいことだが。

同じ部署の連中は大騒ぎしていて、誰が飛び降りたのかを聞きにいったりしていた。
上司たちはそいつらを止めようと必死だった。




飛び降りたやつの姿を見て、俺も決心がついた。






















少し遠出して、名前もない海に行った。
透明で青くて、吸い込まれてしまいそうだった。
俺は遺書も何も書かずにここにきた。

愛読していた小説を一冊。
それだけを持って海に飛び込んだ。

海は冷たくて心地が良かった。
上を見続けていたから、水面を通して光が届くのも素敵だった。
唯一俺が夢中になったものに殺されるなんて、幸せでたまらなかった。


意識が途切れ、気づいたらここにいた。

ふと向かいを見ると、女が泣いていた。
何かあったのだろうなと思い、目を瞑って海の冷たさに心を漂わせた。

2025/03/30 14:32

月町 桔梗
ID:≫ 7r5tHLeuz1RfY
コメント

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は月町 桔梗さんに帰属します

TOP