目を瞑っていると、雨音がはっきりと聞こえてくる。
周りの乗客の息遣いも、電灯の消えかかってからまた点く音も。
乗客は皆ぐったりと項垂れるなりなんなりしていた。
正面の男は目を動かし続けている。
横の男は静かに眠っている。
斜向かいの女は俯いている。
俺は目を瞑って、まだ俺の心臓が動いていた時のことを思い返していた。
生前、俺はしがない会社員だった。
特に役職が上というわけでもなく、不平不満も無い生活を送っていた。
これと言って熱中していたようなものもなく、海月のように世の中を漂っていた気がする。
子供の頃から「何を考えているのか分からない、生きる目的がないように見受けられる」と言われてきた。
俺としても、何のために呼吸をして、食事をして、睡眠をとっているのか理解できていなかった。
中学に上がった頃から、根本的に生きていたくなくなった。
一概に「生きていたくない」と言っても死にたいわけではなくて、兎にも角にも生きていたくなかった。
いじめられていたわけでもないし、何か悩みがあったわけでもない。
ただただ、この世に飽きていた。
空の青さが、眩しさが嫌になって、空はもう少し薄暗くてもいいんじゃないかと思うようになった。
高校に入ってからは、「水」に興味を抱き始めた。
海の中の生き物の美しさにも海の蒼さにも恋し始めた。
いつか自分も海のように透明になって、海の一部になりたいと願い始めた。
「死ぬなら入水だな」
この時に決めた。
高校を卒業した後、普通の大学に行って、まあまあな企業に就職した。
俺の働いていた会社は、同じビルに二つの会社が入っていて、もう一方の会社はノルマがきついと聞いていた。
そのせいだろうか。
その会社に入社した若い新卒の社員がビルから飛び降りた。
デスクに向き合っていた時、その飛び降りた社員と目が合った気がした。
まあ、俺にとってはどうでもいいことだが。
同じ部署の連中は大騒ぎしていて、誰が飛び降りたのかを聞きにいったりしていた。
上司たちはそいつらを止めようと必死だった。
飛び降りたやつの姿を見て、俺も決心がついた。
少し遠出して、名前もない海に行った。
透明で青くて、吸い込まれてしまいそうだった。
俺は遺書も何も書かずにここにきた。
愛読していた小説を一冊。
それだけを持って海に飛び込んだ。
海は冷たくて心地が良かった。
上を見続けていたから、水面を通して光が届くのも素敵だった。
唯一俺が夢中になったものに殺されるなんて、幸せでたまらなかった。
意識が途切れ、気づいたらここにいた。
ふと向かいを見ると、女が泣いていた。
何かあったのだろうなと思い、目を瞑って海の冷たさに心を漂わせた。
周りの乗客の息遣いも、電灯の消えかかってからまた点く音も。
乗客は皆ぐったりと項垂れるなりなんなりしていた。
正面の男は目を動かし続けている。
横の男は静かに眠っている。
斜向かいの女は俯いている。
俺は目を瞑って、まだ俺の心臓が動いていた時のことを思い返していた。
生前、俺はしがない会社員だった。
特に役職が上というわけでもなく、不平不満も無い生活を送っていた。
これと言って熱中していたようなものもなく、海月のように世の中を漂っていた気がする。
子供の頃から「何を考えているのか分からない、生きる目的がないように見受けられる」と言われてきた。
俺としても、何のために呼吸をして、食事をして、睡眠をとっているのか理解できていなかった。
中学に上がった頃から、根本的に生きていたくなくなった。
一概に「生きていたくない」と言っても死にたいわけではなくて、兎にも角にも生きていたくなかった。
いじめられていたわけでもないし、何か悩みがあったわけでもない。
ただただ、この世に飽きていた。
空の青さが、眩しさが嫌になって、空はもう少し薄暗くてもいいんじゃないかと思うようになった。
高校に入ってからは、「水」に興味を抱き始めた。
海の中の生き物の美しさにも海の蒼さにも恋し始めた。
いつか自分も海のように透明になって、海の一部になりたいと願い始めた。
「死ぬなら入水だな」
この時に決めた。
高校を卒業した後、普通の大学に行って、まあまあな企業に就職した。
俺の働いていた会社は、同じビルに二つの会社が入っていて、もう一方の会社はノルマがきついと聞いていた。
そのせいだろうか。
その会社に入社した若い新卒の社員がビルから飛び降りた。
デスクに向き合っていた時、その飛び降りた社員と目が合った気がした。
まあ、俺にとってはどうでもいいことだが。
同じ部署の連中は大騒ぎしていて、誰が飛び降りたのかを聞きにいったりしていた。
上司たちはそいつらを止めようと必死だった。
飛び降りたやつの姿を見て、俺も決心がついた。
少し遠出して、名前もない海に行った。
透明で青くて、吸い込まれてしまいそうだった。
俺は遺書も何も書かずにここにきた。
愛読していた小説を一冊。
それだけを持って海に飛び込んだ。
海は冷たくて心地が良かった。
上を見続けていたから、水面を通して光が届くのも素敵だった。
唯一俺が夢中になったものに殺されるなんて、幸せでたまらなかった。
意識が途切れ、気づいたらここにいた。
ふと向かいを見ると、女が泣いていた。
何かあったのだろうなと思い、目を瞑って海の冷たさに心を漂わせた。