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最終列車、あの世行き

#3

深澤 靖博「フカザワヤスヒロ」 42歳

「ガタンガタン、ザーザー」
列車の音が雨音と混じって鳴り響く。
ジジジッと音を立てながら電灯が消えかかる。
周りは皆、俯くか何かしらしている。

隣に座っている女はじっと俯いていて、ぴくりとも動かない。

正面の男は静かに下を向いていた。

更にその横にいる男は首をもたげて眠っていた。


そうだ、俺はあいつを捜さなきゃならないんだった。
他所に男を作って娘を連れて逃げたあいつを。






























俺には孝子「タカコ」と言う妻と穂波「ホナミ」と言う娘がいた。
二人は常に俺の機嫌を伺っていた。

そんな二人に嫌気が差していたある日会社の部下にあたる速水 月乃「ハヤミツキノ」という23歳の若い女子社員と飲みに行った。
月乃は俺の愚痴を真剣に聞いてくれて、優しく慰めてくれた。

「……でよぉ、あいつらと来たら俺の機嫌気にしてばっかなんだよ!そんなに亭主が怖えかっつーの!猫の前にいる鼠みてぇにおどおどきょろきょろして気持ち悪りぃ」

月乃はうんうんと頷いて、「靖博さんかわいそぉ〜。あたしならそんな思いさせないのになぁ……」と言いながら俺の手を握ってくれた。

その魔性の瞳に吸い寄せられるような感覚があったが、俺はなんとか耐えた。






















孝子は昔から三歩下がって歩くタイプの女だった。
自分のことは後回しにして、俺を一番に考えていた。
「今日のお夕飯は何にしましょうか?」
「あなた、穂波が帰ってきましたよ。顔を見てあげてはいかがですか?」

こんな具合に、いつも俺に対して敬語を使う。
何故敬語なのか聞いたことがあるが、「妻はそういうものでしょう?」と言って躱された。


一方娘はと言うと、反抗期だかなんだか知らないが常に俺にキツく当たってきた。
返事は基本「へえ」、「だから?」、「そうなんだ」くらいしか言わなかった。

高校生なら反抗期が来てもおかしくないが、一家の主にそんな態度を取るなと叱ったことがある。
すると、穂波は俺を睨んで一言「だからお母さんに嫌われるんだよ」。

足元が崩れていくような感覚がした。
ああ、こいつらをどうにかしなきゃ。
そんな衝動に駆られて、俺は家を飛び出した。





「夜遅くにすまない。今から会えるか?」
月乃にそうLINEすると、「OK」のスタンプが返ってきた。

すぐ近くのホテルで待つと連絡を入れて、近所のビジホに入った。

しばらく待つと月乃が来て、不思議そうな顔をしていた。
「どおしたんですかぁ〜?こんな夜中にぃ。奥さんたち心配しませぇん?」

「月乃。急で悪いんだが……。否、やっぱりいい。すまないな」
月乃は奇妙なものを見るような顔をしていた。
「どおしたんですかっ!あたし、靖博さんのこと好きなんですよ?!なんでも言ってくださいよぉ!」
そう叫びながら俺の手に顔をうずめた。

その姿に言い知れぬ安心感を覚え、素直に言葉にすることにした。

「月乃…嫌だったら本気で逃げてくれ。俺と、あー、し、心中してくれないか……?」

月乃はその言葉に目を大きく見開いた。
しかし、次の瞬間には優しく笑って頷いてくれた。

「いいですよぉ。あたし、どうせ生きてても楽しくないんでぇ」

その言葉に、思わず「よかった」と思ってしまった。
一人で逝くのは、恐ろしいからだ。


近くのドラッグストアで頭痛薬だの風邪薬だのを買い込み、ホテルに持ち帰った。
二人でベッドに向かい合って座り、薬を大量に飲み込んだ。

じきに頭がくらくらして、笑い出してしまいそうだった。
苦し紛れに月乃の方を見ると、まだ平気な様子だった。
俺の意識が途切れた時、彼女がどうなっていたかなんて分からなかったが、一つだけ分かることがあった。



やはり、俺は選択を間違えた。

2025/03/29 18:31

月町 桔梗
ID:≫ 7r5tHLeuz1RfY
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