「ガタンガタン、ザーザー」
列車の音が雨音と混じって鳴り響く。
ジジジッと音を立てながら電灯が消えかかる。
周りは皆、俯くか何かしらしている。
隣に座っている女はじっと俯いていて、ぴくりとも動かない。
正面の男は静かに下を向いていた。
更にその横にいる男は首をもたげて眠っていた。
そうだ、俺はあいつを捜さなきゃならないんだった。
他所に男を作って娘を連れて逃げたあいつを。
俺には孝子「タカコ」と言う妻と穂波「ホナミ」と言う娘がいた。
二人は常に俺の機嫌を伺っていた。
そんな二人に嫌気が差していたある日会社の部下にあたる速水 月乃「ハヤミツキノ」という23歳の若い女子社員と飲みに行った。
月乃は俺の愚痴を真剣に聞いてくれて、優しく慰めてくれた。
「……でよぉ、あいつらと来たら俺の機嫌気にしてばっかなんだよ!そんなに亭主が怖えかっつーの!猫の前にいる鼠みてぇにおどおどきょろきょろして気持ち悪りぃ」
月乃はうんうんと頷いて、「靖博さんかわいそぉ〜。あたしならそんな思いさせないのになぁ……」と言いながら俺の手を握ってくれた。
その魔性の瞳に吸い寄せられるような感覚があったが、俺はなんとか耐えた。
孝子は昔から三歩下がって歩くタイプの女だった。
自分のことは後回しにして、俺を一番に考えていた。
「今日のお夕飯は何にしましょうか?」
「あなた、穂波が帰ってきましたよ。顔を見てあげてはいかがですか?」
こんな具合に、いつも俺に対して敬語を使う。
何故敬語なのか聞いたことがあるが、「妻はそういうものでしょう?」と言って躱された。
一方娘はと言うと、反抗期だかなんだか知らないが常に俺にキツく当たってきた。
返事は基本「へえ」、「だから?」、「そうなんだ」くらいしか言わなかった。
高校生なら反抗期が来てもおかしくないが、一家の主にそんな態度を取るなと叱ったことがある。
すると、穂波は俺を睨んで一言「だからお母さんに嫌われるんだよ」。
足元が崩れていくような感覚がした。
ああ、こいつらをどうにかしなきゃ。
そんな衝動に駆られて、俺は家を飛び出した。
「夜遅くにすまない。今から会えるか?」
月乃にそうLINEすると、「OK」のスタンプが返ってきた。
すぐ近くのホテルで待つと連絡を入れて、近所のビジホに入った。
しばらく待つと月乃が来て、不思議そうな顔をしていた。
「どおしたんですかぁ〜?こんな夜中にぃ。奥さんたち心配しませぇん?」
「月乃。急で悪いんだが……。否、やっぱりいい。すまないな」
月乃は奇妙なものを見るような顔をしていた。
「どおしたんですかっ!あたし、靖博さんのこと好きなんですよ?!なんでも言ってくださいよぉ!」
そう叫びながら俺の手に顔をうずめた。
その姿に言い知れぬ安心感を覚え、素直に言葉にすることにした。
「月乃…嫌だったら本気で逃げてくれ。俺と、あー、し、心中してくれないか……?」
月乃はその言葉に目を大きく見開いた。
しかし、次の瞬間には優しく笑って頷いてくれた。
「いいですよぉ。あたし、どうせ生きてても楽しくないんでぇ」
その言葉に、思わず「よかった」と思ってしまった。
一人で逝くのは、恐ろしいからだ。
近くのドラッグストアで頭痛薬だの風邪薬だのを買い込み、ホテルに持ち帰った。
二人でベッドに向かい合って座り、薬を大量に飲み込んだ。
じきに頭がくらくらして、笑い出してしまいそうだった。
苦し紛れに月乃の方を見ると、まだ平気な様子だった。
俺の意識が途切れた時、彼女がどうなっていたかなんて分からなかったが、一つだけ分かることがあった。
やはり、俺は選択を間違えた。
列車の音が雨音と混じって鳴り響く。
ジジジッと音を立てながら電灯が消えかかる。
周りは皆、俯くか何かしらしている。
隣に座っている女はじっと俯いていて、ぴくりとも動かない。
正面の男は静かに下を向いていた。
更にその横にいる男は首をもたげて眠っていた。
そうだ、俺はあいつを捜さなきゃならないんだった。
他所に男を作って娘を連れて逃げたあいつを。
俺には孝子「タカコ」と言う妻と穂波「ホナミ」と言う娘がいた。
二人は常に俺の機嫌を伺っていた。
そんな二人に嫌気が差していたある日会社の部下にあたる速水 月乃「ハヤミツキノ」という23歳の若い女子社員と飲みに行った。
月乃は俺の愚痴を真剣に聞いてくれて、優しく慰めてくれた。
「……でよぉ、あいつらと来たら俺の機嫌気にしてばっかなんだよ!そんなに亭主が怖えかっつーの!猫の前にいる鼠みてぇにおどおどきょろきょろして気持ち悪りぃ」
月乃はうんうんと頷いて、「靖博さんかわいそぉ〜。あたしならそんな思いさせないのになぁ……」と言いながら俺の手を握ってくれた。
その魔性の瞳に吸い寄せられるような感覚があったが、俺はなんとか耐えた。
孝子は昔から三歩下がって歩くタイプの女だった。
自分のことは後回しにして、俺を一番に考えていた。
「今日のお夕飯は何にしましょうか?」
「あなた、穂波が帰ってきましたよ。顔を見てあげてはいかがですか?」
こんな具合に、いつも俺に対して敬語を使う。
何故敬語なのか聞いたことがあるが、「妻はそういうものでしょう?」と言って躱された。
一方娘はと言うと、反抗期だかなんだか知らないが常に俺にキツく当たってきた。
返事は基本「へえ」、「だから?」、「そうなんだ」くらいしか言わなかった。
高校生なら反抗期が来てもおかしくないが、一家の主にそんな態度を取るなと叱ったことがある。
すると、穂波は俺を睨んで一言「だからお母さんに嫌われるんだよ」。
足元が崩れていくような感覚がした。
ああ、こいつらをどうにかしなきゃ。
そんな衝動に駆られて、俺は家を飛び出した。
「夜遅くにすまない。今から会えるか?」
月乃にそうLINEすると、「OK」のスタンプが返ってきた。
すぐ近くのホテルで待つと連絡を入れて、近所のビジホに入った。
しばらく待つと月乃が来て、不思議そうな顔をしていた。
「どおしたんですかぁ〜?こんな夜中にぃ。奥さんたち心配しませぇん?」
「月乃。急で悪いんだが……。否、やっぱりいい。すまないな」
月乃は奇妙なものを見るような顔をしていた。
「どおしたんですかっ!あたし、靖博さんのこと好きなんですよ?!なんでも言ってくださいよぉ!」
そう叫びながら俺の手に顔をうずめた。
その姿に言い知れぬ安心感を覚え、素直に言葉にすることにした。
「月乃…嫌だったら本気で逃げてくれ。俺と、あー、し、心中してくれないか……?」
月乃はその言葉に目を大きく見開いた。
しかし、次の瞬間には優しく笑って頷いてくれた。
「いいですよぉ。あたし、どうせ生きてても楽しくないんでぇ」
その言葉に、思わず「よかった」と思ってしまった。
一人で逝くのは、恐ろしいからだ。
近くのドラッグストアで頭痛薬だの風邪薬だのを買い込み、ホテルに持ち帰った。
二人でベッドに向かい合って座り、薬を大量に飲み込んだ。
じきに頭がくらくらして、笑い出してしまいそうだった。
苦し紛れに月乃の方を見ると、まだ平気な様子だった。
俺の意識が途切れた時、彼女がどうなっていたかなんて分からなかったが、一つだけ分かることがあった。
やはり、俺は選択を間違えた。