雨の降り続く夜空の下を走る列車。
真向かいの男性は目を瞑ったまま動かない。
真横の男性は目をしきりに動かし、繰り返し何かを呟いていた。
斜向かいの男性は下を向いたままだった。
かく言う私も、下を向くことしかできなかった。
この列車は、浮世に未練のある死者を乗せている。
私もその一人だ。
未練があると言っても、その内容はさまざまだ。
恋人がいたとか、やり残したことがあるとか、そんな感じだ。
私の場合、残してきた子供のことが心残りで仕方がない。
生前、私には子供がいた。
美幸「ミユキ」と言って、可愛い女の子だった。
まだ幼い美幸は、何かあるたびに私に教えてくれていた。
「今日は先生に褒められた」、「小さな石を拾った」、「お母さん、大好き!」
どれもこれも些細なことだけど、私にとっては愛おしくてたまらなかった。
この幸せが、ずっと続くと思っていた。
ある日、私は美幸の手を引いて家に帰る途中だった。
帰り道の途中で横断歩道があり、私と美幸は信号が青になるのを待っていた。
信号が青になり、美幸を連れて歩き出した瞬間、大型のトラックが突っ込んできた。
咄嗟の判断で美幸を抱きしめ、衝撃が行かないようにした。
私の身体は撥ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。
手足は折れ曲がり、そこから大量の血が流れた。
叩きつけられて掠った皮膚はめくれ、骨が見えた。
「美幸…大丈夫?」
それが私の最期の言葉だった。
ふと気がつくと涙が溢れていた。
人目も気にせず、私は泣き出してしまった。
「美幸…一人にしてごめんね、美幸……」
どうしようもなく悲しくなって、泣き続けた。
ひとしきり泣いて、私は俯いてしまった。
美幸への申し訳なさと、人前で泣き出してしまった恥ずかしさからだ。
向かい側からの視線を感じた。
少しだけ目を動かして前を見ると、まだ若そうな男性が座っていた。
色が白く、まだ20代前半であろう人だ。
斜向かいの人は青白い顔をしていて、せっかくワックスで整えたであろう髪が少し乱れていた。
夫に似ていて、少し見惚れていたら目が合った。
恥ずかしくなり、慌てて目を逸らしてしまった。
真隣の男性は目を大きく見開き、目をぎょろぎょろさせていた。
骨張った手が印象的で、ぶつぶつと人の名前を呟いていた。
もう乗客の観察も疲れたので、目を瞑って下を向いた。
娘を置いてきてしまった私は酷い母親なのだろうか。
お父さんがいても、美幸はお母さんがいなくて寂しがってないだろうか。
そんなことが頭の中をぐるぐると巡ってなかなか落ち着かなかった。
こんなことを考えても仕方がないのだろうか。
こんなんだから、私は[漢字]列車[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]にいるのだろうか。
そんな思考をしてしまう自分が嫌になって、もう何もしたくなくなった。
電車が止まって、ドアが開いた。
降りる人はおらず、乗る人の方が多かった。
ドアが閉まると、電車はまた雨夜の中を滑り出した。
真向かいの男性は目を瞑ったまま動かない。
真横の男性は目をしきりに動かし、繰り返し何かを呟いていた。
斜向かいの男性は下を向いたままだった。
かく言う私も、下を向くことしかできなかった。
この列車は、浮世に未練のある死者を乗せている。
私もその一人だ。
未練があると言っても、その内容はさまざまだ。
恋人がいたとか、やり残したことがあるとか、そんな感じだ。
私の場合、残してきた子供のことが心残りで仕方がない。
生前、私には子供がいた。
美幸「ミユキ」と言って、可愛い女の子だった。
まだ幼い美幸は、何かあるたびに私に教えてくれていた。
「今日は先生に褒められた」、「小さな石を拾った」、「お母さん、大好き!」
どれもこれも些細なことだけど、私にとっては愛おしくてたまらなかった。
この幸せが、ずっと続くと思っていた。
ある日、私は美幸の手を引いて家に帰る途中だった。
帰り道の途中で横断歩道があり、私と美幸は信号が青になるのを待っていた。
信号が青になり、美幸を連れて歩き出した瞬間、大型のトラックが突っ込んできた。
咄嗟の判断で美幸を抱きしめ、衝撃が行かないようにした。
私の身体は撥ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。
手足は折れ曲がり、そこから大量の血が流れた。
叩きつけられて掠った皮膚はめくれ、骨が見えた。
「美幸…大丈夫?」
それが私の最期の言葉だった。
ふと気がつくと涙が溢れていた。
人目も気にせず、私は泣き出してしまった。
「美幸…一人にしてごめんね、美幸……」
どうしようもなく悲しくなって、泣き続けた。
ひとしきり泣いて、私は俯いてしまった。
美幸への申し訳なさと、人前で泣き出してしまった恥ずかしさからだ。
向かい側からの視線を感じた。
少しだけ目を動かして前を見ると、まだ若そうな男性が座っていた。
色が白く、まだ20代前半であろう人だ。
斜向かいの人は青白い顔をしていて、せっかくワックスで整えたであろう髪が少し乱れていた。
夫に似ていて、少し見惚れていたら目が合った。
恥ずかしくなり、慌てて目を逸らしてしまった。
真隣の男性は目を大きく見開き、目をぎょろぎょろさせていた。
骨張った手が印象的で、ぶつぶつと人の名前を呟いていた。
もう乗客の観察も疲れたので、目を瞑って下を向いた。
娘を置いてきてしまった私は酷い母親なのだろうか。
お父さんがいても、美幸はお母さんがいなくて寂しがってないだろうか。
そんなことが頭の中をぐるぐると巡ってなかなか落ち着かなかった。
こんなことを考えても仕方がないのだろうか。
こんなんだから、私は[漢字]列車[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]にいるのだろうか。
そんな思考をしてしまう自分が嫌になって、もう何もしたくなくなった。
電車が止まって、ドアが開いた。
降りる人はおらず、乗る人の方が多かった。
ドアが閉まると、電車はまた雨夜の中を滑り出した。