「花椿と寿造が心中した」
この話はすぐに広まった。
二人の遺体は、川に飛び込んでから一週間後に見つかった。
奇妙なことに、二人の遺体は同じ場所で見つかり、一週間も経ったはずなのに綺麗なままだった。
花椿の方は水の中でも白粉が落ちず、髪が乱れていることもなかった。
寿造も、着物が乱れることもなく、下駄もそのままだった。
二人の遺体の様子を確認した連中は口を揃えて「生きてるみたいに綺麗な状態だった。水を吸ってぶよぶよになることもなく、死んでから一時間も経っていないように感じた」と言った。
皆、二人の死を悼み、川縁に小さな石碑を建てた。
石碑が建てられてから、人々は霞草を供えるようになった。
読者諸氏は「無邪気」を表す霞草は、遊女であった花椿には似つかわしくないと考えるだろう。
しかし、人々は二人の恋を純粋で無邪気なものだと考えた。
想う人と添い遂げることができた二人の恋はなによりも無邪気だった。
もちろん、夜桜もこの石碑に花を供えた。
「どうか、幸せになっておくれよ……。生まれ変わった未来では、私たちみたいにならないで、普通の女の子として生きておくれ」
石碑の前で、一人夜桜は語りかけた。
そして霞草を一束供えると、涙があふれて止まらなかった。
一通り泣くと、石碑の後ろにある木に目を向けた。
そこには乙女椿の花が咲いていた。
乙女椿は、花椿の源氏名の由来になった花だった。
「私たちはここにいる」
二人にそう言われた気がした夜桜は、また泣き出してしまいそうだった。
「ここで泣いたら、あんたたちに笑われるね」
夜桜は気丈に振る舞おうとして、にこりと笑った。
乙女椿を一輪摘むと、満足げに店に帰った。
部屋に戻った夜桜は、椿を花瓶に挿した。
ふと思い立って、その椿を「寿椿」と呼ぶことにした。
「寿椿」と書いて「としつばき」と読ませる。
寿造と花椿の名前から取ったものだ。
仕事の後、夜桜は二人を想って寿椿を眺めるようになった。
今日も今日とて、夜桜は寿椿を眺めていた。
特段意味もなく夜空を見上げると、満天の星空が浮かんでいた。
「綺麗な空だねェ」
「本当にな。この空で着物を染めたら、きっとお前さんに似合うよ」
「本当かい?それじゃあ、今度仕立てておくれよ」
「仕方ないなぁ。特別だぞ?」
もういない二人の懐かしい声がした気がして、夜桜ははっと真横を見た。
しかし、そこに誰かがいるわけもなく、自室の風景が広がるばかりだった。
「花椿も寿造も、あの日、こうやって夜空を眺めてたのかもねぇ……」
小さく呟くと、夜桜は煙管の煙をくゆらせた。
この話はすぐに広まった。
二人の遺体は、川に飛び込んでから一週間後に見つかった。
奇妙なことに、二人の遺体は同じ場所で見つかり、一週間も経ったはずなのに綺麗なままだった。
花椿の方は水の中でも白粉が落ちず、髪が乱れていることもなかった。
寿造も、着物が乱れることもなく、下駄もそのままだった。
二人の遺体の様子を確認した連中は口を揃えて「生きてるみたいに綺麗な状態だった。水を吸ってぶよぶよになることもなく、死んでから一時間も経っていないように感じた」と言った。
皆、二人の死を悼み、川縁に小さな石碑を建てた。
石碑が建てられてから、人々は霞草を供えるようになった。
読者諸氏は「無邪気」を表す霞草は、遊女であった花椿には似つかわしくないと考えるだろう。
しかし、人々は二人の恋を純粋で無邪気なものだと考えた。
想う人と添い遂げることができた二人の恋はなによりも無邪気だった。
もちろん、夜桜もこの石碑に花を供えた。
「どうか、幸せになっておくれよ……。生まれ変わった未来では、私たちみたいにならないで、普通の女の子として生きておくれ」
石碑の前で、一人夜桜は語りかけた。
そして霞草を一束供えると、涙があふれて止まらなかった。
一通り泣くと、石碑の後ろにある木に目を向けた。
そこには乙女椿の花が咲いていた。
乙女椿は、花椿の源氏名の由来になった花だった。
「私たちはここにいる」
二人にそう言われた気がした夜桜は、また泣き出してしまいそうだった。
「ここで泣いたら、あんたたちに笑われるね」
夜桜は気丈に振る舞おうとして、にこりと笑った。
乙女椿を一輪摘むと、満足げに店に帰った。
部屋に戻った夜桜は、椿を花瓶に挿した。
ふと思い立って、その椿を「寿椿」と呼ぶことにした。
「寿椿」と書いて「としつばき」と読ませる。
寿造と花椿の名前から取ったものだ。
仕事の後、夜桜は二人を想って寿椿を眺めるようになった。
今日も今日とて、夜桜は寿椿を眺めていた。
特段意味もなく夜空を見上げると、満天の星空が浮かんでいた。
「綺麗な空だねェ」
「本当にな。この空で着物を染めたら、きっとお前さんに似合うよ」
「本当かい?それじゃあ、今度仕立てておくれよ」
「仕方ないなぁ。特別だぞ?」
もういない二人の懐かしい声がした気がして、夜桜ははっと真横を見た。
しかし、そこに誰かがいるわけもなく、自室の風景が広がるばかりだった。
「花椿も寿造も、あの日、こうやって夜空を眺めてたのかもねぇ……」
小さく呟くと、夜桜は煙管の煙をくゆらせた。