寿造は店の中をぐるぐると巡っていた。
特に意味があるわけでもないが、こうしたほうがいい方法が思い浮かぶ気がしたのである。
「ううむ…花椿をどう身請けしようか?身請けできる程の金はあるが、やはり俺のような町人ではなくどこぞの金持ちのところへ行った方が幸せだろうに。だが、あいつが誰かの妻になると思うとどうにも嫌でたまらない。本人の意思を優先すべきだろうし、空いてる時に会いに行くか」
近頃、遊郭によく出入りするようになった寿造を家族は少しではあるものの心配していた。
「遊郭に入り浸るだなんてはしたない」と言って、二人の関係を蔑むばかりだった。
さて、寿造は待ち望んでいた休日に花椿に会いに行った。
今回は彼女が好きだと言っていた羊羹を持って。
「花椿、いるかい」
楼主に案内された寿造は、襖をそっと開けて顔を覗かせた。
顔をぱあっと明るくさせた花椿は、とてとて足音を立てながら走り寄った。
普段は姉御肌な花椿も、想い人が来ると幼子のようになる。
「おや、来てくれたのかい?嬉しいねェ。……その羊羹、どうしたんだい?」
「お前さんが好きだって言ってたやつさ。ほら、置いておくから後でみんなで食べてくれ」
「ありがとうよ。それにしても、今日はどうしたんだい?」
その言葉に寿造は素直に言おうか迷った。
「いや、実を言うとな…お前さんは俺のことが好きかい?もちろん、遊女としてじゃなくて一人の人間としてだ」
目をまん丸くした花椿は、穴が開くほど寿造の顔を見つめた。
目をぱちぱちと瞬かせ、糸が切れたようにふっと笑った。
「もちろん、愛してるさァ。あんたも私のことが好きなら、身請けしてもらいたいもんだよ」
冗談混じりに言うと、寿造の表情を見て花椿の表情が固まった。
寿造は本気の目をしていた。
「あんたの家族が私を嫌がってるのは十分知ってるさ。無理にとは言わないよ」
花椿は悲しそうに笑った。
「いや、俺はお前さんと添い遂げたい!どうにか、どうにかするから…」
泣き出しそうになりながら寿造は叫んだ。
しばらく、沈黙が流れた。
花椿の声が静寂を破った。
その声は震えていた。
「いっぺん遊女になっちまったからには仕方ない。町人のお前さんと添い遂げるには、"あれ"しか方法がないんだよ。それでもいいのかい?」
焦ったような声音が寿造の耳朶を打つ。
「ああ。俺はお前さんが好きだ。だから一緒になれる道を選ぶんだ。お前さんはまだ生きていたいか?もし生きていたいなら、俺はお前さんを身請けして、どこかへ駆け落ちでもするかな」
軽い笑い声を上げると、花椿に返事を催促するような視線を送った。
「私は…」
花椿は言葉を詰まらせた。
一筋の後悔が頬を伝った。
「やっぱりお前さんといたいよぉ……。死んでもいいから、隣にいさせておくれよ……」
泣きじゃくる花椿を抱きしめ、寿造は優しく微笑んだ。
「わかったわかった。ほら、もう泣くのはおよし。それじゃあ、一緒に逝こうか」
平気そうに言った寿造の頬も、涙が伝っていた。
特に意味があるわけでもないが、こうしたほうがいい方法が思い浮かぶ気がしたのである。
「ううむ…花椿をどう身請けしようか?身請けできる程の金はあるが、やはり俺のような町人ではなくどこぞの金持ちのところへ行った方が幸せだろうに。だが、あいつが誰かの妻になると思うとどうにも嫌でたまらない。本人の意思を優先すべきだろうし、空いてる時に会いに行くか」
近頃、遊郭によく出入りするようになった寿造を家族は少しではあるものの心配していた。
「遊郭に入り浸るだなんてはしたない」と言って、二人の関係を蔑むばかりだった。
さて、寿造は待ち望んでいた休日に花椿に会いに行った。
今回は彼女が好きだと言っていた羊羹を持って。
「花椿、いるかい」
楼主に案内された寿造は、襖をそっと開けて顔を覗かせた。
顔をぱあっと明るくさせた花椿は、とてとて足音を立てながら走り寄った。
普段は姉御肌な花椿も、想い人が来ると幼子のようになる。
「おや、来てくれたのかい?嬉しいねェ。……その羊羹、どうしたんだい?」
「お前さんが好きだって言ってたやつさ。ほら、置いておくから後でみんなで食べてくれ」
「ありがとうよ。それにしても、今日はどうしたんだい?」
その言葉に寿造は素直に言おうか迷った。
「いや、実を言うとな…お前さんは俺のことが好きかい?もちろん、遊女としてじゃなくて一人の人間としてだ」
目をまん丸くした花椿は、穴が開くほど寿造の顔を見つめた。
目をぱちぱちと瞬かせ、糸が切れたようにふっと笑った。
「もちろん、愛してるさァ。あんたも私のことが好きなら、身請けしてもらいたいもんだよ」
冗談混じりに言うと、寿造の表情を見て花椿の表情が固まった。
寿造は本気の目をしていた。
「あんたの家族が私を嫌がってるのは十分知ってるさ。無理にとは言わないよ」
花椿は悲しそうに笑った。
「いや、俺はお前さんと添い遂げたい!どうにか、どうにかするから…」
泣き出しそうになりながら寿造は叫んだ。
しばらく、沈黙が流れた。
花椿の声が静寂を破った。
その声は震えていた。
「いっぺん遊女になっちまったからには仕方ない。町人のお前さんと添い遂げるには、"あれ"しか方法がないんだよ。それでもいいのかい?」
焦ったような声音が寿造の耳朶を打つ。
「ああ。俺はお前さんが好きだ。だから一緒になれる道を選ぶんだ。お前さんはまだ生きていたいか?もし生きていたいなら、俺はお前さんを身請けして、どこかへ駆け落ちでもするかな」
軽い笑い声を上げると、花椿に返事を催促するような視線を送った。
「私は…」
花椿は言葉を詰まらせた。
一筋の後悔が頬を伝った。
「やっぱりお前さんといたいよぉ……。死んでもいいから、隣にいさせておくれよ……」
泣きじゃくる花椿を抱きしめ、寿造は優しく微笑んだ。
「わかったわかった。ほら、もう泣くのはおよし。それじゃあ、一緒に逝こうか」
平気そうに言った寿造の頬も、涙が伝っていた。