「姐さん、姐さん。近頃、やけに嬉しそうだけど、誰か上客でも捕まえたの?」
急に禿に尋ねられた花椿は驚き、眼を丸くした。
「いや、別に大したことじゃないんだよ」
彼女は笑いながら首を横に振った。
「最近、よく私のところに来てくれる客がいてね。そら、花街を出て橋を渡ってから町に出たところにお茶屋があるだろう?そこの三軒先を行ったところの着物屋の若旦那だよ。なかなかに色男なンだよ」
着ている着物を指しながら言った。
「今着てるのだって、そこの旦那が作ってくれたもんなんだよ。この帯も、あいつが作ってくれたんだ」
嬉しそうに話す花椿に、禿も頬を緩ませながら話を聞いていた。
不意に、禿が思い出したように話し出した。
「そういえば、斜向かいの店の花魁、足抜けに失敗して心中したらしいよ」
その言葉に、花椿は眉間に皺を寄せた。
足抜けとは、遊女などが借金を完済せずに逃げ出すことである。
足抜けに失敗すると、楼主などから酷い扱いを受けることも少なくなかった。
実際に逃げられるのはほんの一握りで、ほとんどの場合は相手の男と心中したり店に連れ戻されてしまう。
「姐さんはそんなことしないでしょ?」
「あ、ああ…!もちろんさ!しっかり金を返すなり身請けしてもらうなりするよ」
「よかった!姐さんも、あたしを置いていっちゃうのかと思うと悲しくて…」
禿は微笑むと部屋から出ていった。
花椿自身、自分が逃げられない身なのは嫌と言うくらい理解していた。
それでも、恋をしている事実は変えられない。
「あの若旦那に賭けるしかないねェ…。報われない恋なことくらい、あそこの姐さんも分かっただろうに。
そういえば昔、身請けされたはいいが他に好いた相手と川に身投げした遊女がいたね。何と言ったかな…」
花椿は着物の裾に目をやった。
そこには見事な水仙の刺繍が施されている。
「喇叭水仙ねェ……」
それだけ呟くと、花椿は外が騒がしくなったのに気づいた。
下の方に目をやると、花魁道中の真っ最中で、派手に着飾った花魁が道を歩いていた。
花椿はその顔に見覚えがあった。
「夜桜……?」
夜桜は花椿の同期で、店は違えど文通をする仲だった。
「ヘぇ、あいつも花魁になったのかい。すごいもんじゃないか」
花魁道中に見惚れていた花椿は、煙管の火が消えかかっているのに気が付き、慌てて火をつけ直した。
細い煙をくゆらせながら、花椿は心ゆくまで花魁道中を眺めていた。
急に禿に尋ねられた花椿は驚き、眼を丸くした。
「いや、別に大したことじゃないんだよ」
彼女は笑いながら首を横に振った。
「最近、よく私のところに来てくれる客がいてね。そら、花街を出て橋を渡ってから町に出たところにお茶屋があるだろう?そこの三軒先を行ったところの着物屋の若旦那だよ。なかなかに色男なンだよ」
着ている着物を指しながら言った。
「今着てるのだって、そこの旦那が作ってくれたもんなんだよ。この帯も、あいつが作ってくれたんだ」
嬉しそうに話す花椿に、禿も頬を緩ませながら話を聞いていた。
不意に、禿が思い出したように話し出した。
「そういえば、斜向かいの店の花魁、足抜けに失敗して心中したらしいよ」
その言葉に、花椿は眉間に皺を寄せた。
足抜けとは、遊女などが借金を完済せずに逃げ出すことである。
足抜けに失敗すると、楼主などから酷い扱いを受けることも少なくなかった。
実際に逃げられるのはほんの一握りで、ほとんどの場合は相手の男と心中したり店に連れ戻されてしまう。
「姐さんはそんなことしないでしょ?」
「あ、ああ…!もちろんさ!しっかり金を返すなり身請けしてもらうなりするよ」
「よかった!姐さんも、あたしを置いていっちゃうのかと思うと悲しくて…」
禿は微笑むと部屋から出ていった。
花椿自身、自分が逃げられない身なのは嫌と言うくらい理解していた。
それでも、恋をしている事実は変えられない。
「あの若旦那に賭けるしかないねェ…。報われない恋なことくらい、あそこの姐さんも分かっただろうに。
そういえば昔、身請けされたはいいが他に好いた相手と川に身投げした遊女がいたね。何と言ったかな…」
花椿は着物の裾に目をやった。
そこには見事な水仙の刺繍が施されている。
「喇叭水仙ねェ……」
それだけ呟くと、花椿は外が騒がしくなったのに気づいた。
下の方に目をやると、花魁道中の真っ最中で、派手に着飾った花魁が道を歩いていた。
花椿はその顔に見覚えがあった。
「夜桜……?」
夜桜は花椿の同期で、店は違えど文通をする仲だった。
「ヘぇ、あいつも花魁になったのかい。すごいもんじゃないか」
花魁道中に見惚れていた花椿は、煙管の火が消えかかっているのに気が付き、慌てて火をつけ直した。
細い煙をくゆらせながら、花椿は心ゆくまで花魁道中を眺めていた。