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花は笑えど恋焦がれ

#1

白梅の章

花街は今日も多くの花が咲き誇っていた。
笑顔をたたえ、色欲を振り撒く。
あの手この手で客を捕まえ、餌食にする。
そんな恐ろしい花々が咲いていた。



そんな中に一人、伏し目がちな遊女がいた。
気品の溢れる立ち姿、儚さを纏う白い肌、ぼんやりと赤い目元の化粧、淑やかさの中に溢れ出る自信に艶やかさといい、まさにお江戸の「華」。
名は「花椿」。

一目見た時こそ気弱に見えたものの、自信に満ち溢れた口調、相手に絡みついて離さない視線、妖艶な仕草。
楼主はそんな彼女を痛く気に入り、自身の店へと迎え入れた。

周りの遊女たちは誰も花椿に楯突くような真似をしなかった。
確かに花椿は気弱がちだが、見つめる目が恐ろしく冷ややかなのだ。
自分の気に食わない相手を見つめる目が。
死人のような冷酷さと、相手に対する侮蔑が混ざり合った目。
それが彼女だった。
最初こそいじめられそうになったものの、先述の理由で誰も花椿に手を出すことは無かった。


基本、遊女は自ら客を選べるような贅沢な真似はできなかった。
しかし、花椿だけは例外だった。
客のあれやこれやが気に食わないだの今日は客を取る気が起きないだのといった我儘を、控えめに伝えてそれがまかり通るのだ。

いつしか、新参者の間で「花椿に客として認められた者は持て囃される」といった風潮が生まれた。
現に、花椿は時々しか我儘を言わぬので、遊び慣れてる者の間ではそれほど持て囃されることでもなかった。


花椿は、誰がつけたかも分からぬ呼び名があった。
「白梅の君」。
気品を称えた花椿には相応しい呼び名であった。
花椿自身もこの呼び名を気に入り、自ら名乗ることも少なくなかった。

「いよぉ〜白梅の君も別嬪だねぇ。俺もお前さんの客になれるくらい金が欲しいよ」
冷やかしに来た連中に対して、花椿はいつも煙管の煙をふうっと吹きつけ、「冷やかしかい?まァ、精々頑張っておくんなよ、旦那ァ」と言うのであった。
その振る舞いが堪らなく艶やかで、誰も彼もが虜になってしまうのだ。



しかし、そんな花椿にも恋相手がいた。
着物屋の若旦那、寿造「としぞう」だ。
若く、顔立ちも申し分ない。
そして、誰よりも初心な男だった。
女遊びなんかしたこともなく、ましてや花街だなんて来る機会さえなかった。

だがある日、友人に誘われ渋々ついていく羽目になった。
そこで、夜見世の場で初めて花椿に出会った。
最初は花椿の方から話しかけた。

「ねェ、そこの若旦那。私と遊ばないかい?今なら少し安くしてやるからさァ」
花椿の色香に気圧され、見世の方に近づいた。

「お前さんが噂の花椿かい。こりゃあ、噂に違わず別嬪だな」
「あんた、着物屋のとこの若旦那なんだろゥ。だったら金くらいあるだろうサ。なんで遊んでかないんだい?」
「俺はあくまで友人に無理矢理連れてこられたんだよ。遊びに来たわけじゃない」
「そうかい、残念だねェ」

そこまで言うと、寿造は見世から離れていった。
花椿の方は、言い知れぬ気持ちに悶々とするばかりであった。

2025/04/30 21:25

月町 桔梗
ID:≫ 7r5tHLeuz1RfY
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