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最終投稿プレビュー

# 異世界集合パフェパーティー

夏休みの中盤、正午。ルオはスマホを三脚に固定し、配信を開始した。
「みんな、聞こえる?ハナだよー!」
画面には「異世界転移実験!」というタイトルが表示され、視聴者数はゆっくりと増えていた。ルオは机の上に置かれた古びた魔導書をカメラに向けた。
「今日はこの本に書いてある呪文を試してみるよ。ちゃんと戻ってくるかは……まあ、やってみなきゃわからない!」
視聴者コメントが流れる。「マジでやるの?」「編集でしょ」「楽しみ〜」。ルオは少し緊張しながらも、呪文を唱え始めた。
「フェアリリリンク!」
次の瞬間、視界が歪み、意識が遠のいた。
気がつくと、ルオは石畳の広場に立っていた。スマホは圏外。周囲を見渡すと、中世ヨーロッパ風の建物が並び、人々は時代劇のような服装をしている。
「どうした?そなたは何者か?」
声の主を振り返ると、王冠を戴き、赤いガウンを羽織った少女が立っていた。彼女の後ろには、鎧をまとった兵士たちが控えている。
「わしの方から先に名乗ろうか。わしの名はリン。この国の王だ」
ルオは慌ててスマホをポケットにしまい、丁寧にお辞儀をした。
「ぼくはルオです。異世界転移の呪文でここに来てしまいました」
「ほう、異世界からの来訪者か!面白い!」
王様のリンは目を輝かせた。彼女の横にいた、鎧を着た青年が小声でつぶやく。
「陛下、そろそろ魔王討伐の準備を……」
「ああ、そうだった!レン、準備はできておるか?」
「はい、陛下。ですが、本当に私が勇者でいいんでしょうか……」
勇者のレンは少し疲れたような表情を浮かべていた。ルオはこのまま立ち話を続けるわけにもいかず、そっとスマホを取り出し、こっそりと風景の写真を一枚撮影した。
「すみません、ぼくは用事があるのでまた来ます」
「待っておるぞー!」
王様のリンが手を振る中、ルオは写真をじっと見つめ、次の世界へと移動した。
次に現れたのは、現代的なオフィス街だった。しかし空を見上げると、ある地点を境に空の色がくっきりと分かれている。片方は青空、もう片方は薄紫色だった。
「ちょっと君、そこで何をしているのか?」
紫色のスーツを着た二人の警官が近づいてきた。スーツの前をきちんと閉めている男性警官の名札には「レン」、スーツを羽織るように着ている女性警官の名札には「リン」と書かれている。
「あ、すみません。ちょっと迷子になってしまって」
ルオが答えると、警官のリンが優しい口調で言った。
「この辺りはあまりうろつかない方がいいよ。8月は『絶望罪』の取り締まり強化月間だから」
「絶望罪って、具体的にどういうものなんですか?」
警官のレンが説明を続けた。
「まあ、要するに、絶望したら軽犯罪、ってこと。特に『ネガティ部』ってのを追っているんだ。あの連中、ネガティブな思想を広めてる」
警官のリンが付け加える。
「ただ、素性を掴みかけてたところで突然ネガティ部の部室に来なくなったの。部室の区画整理でもあったのかな。見つけたら教えて」
ルオは適当に相槌を打ち、写真を撮影すると、空の境目を目指して歩き出した。
二十分ほど歩くと、景色ががらりと変わった。住宅街だ。近くには学校も見える。そこで出会ったのは、学ランを着た陽気な少年と、少し控えめそうな少女だった。
「おっ、見ない顔だな!俺はレン、ポジティ部の部長だ!こっちはリン、元々ネガティ部の部長だったけど、今は俺たちの部に入ってるんだ!」
ポジティ部のレンは快活に自己紹介した。横リボンのリンは小さく会釈した。
「ネガティ部について、何か情報は持ってる?持ってるだけ教えて!」
ルオが尋ねると、横リボンのリンが小声で答えた。
「ネガティ部は、今はもうないよ。廃部になって、メンバー全員がポジティ部に移ったの」
ポジティ部のレンが笑いながら続けた。
「そうそう!前向きに生きようぜ!ってことで、みんなで楽しくやってるよ!」
ルオはまた写真を一枚撮り、次の世界へと向かった。
三つ目の世界は、まるで格闘ゲームのステージのような場所だった。広場では人々が戦い、鍛錬に励んでいる。そこで出会ったのは、緑のジャージを着た少女と、赤いジャージの少年だった。
「……また会ったな」
緑ジャージのリンが冷たい目でルオを見た。彼女の視線には、何か強い決意のようなものが宿っていた。
「おっ、新しい顔だな!おれはレン!強くなるために毎日鍛えてるぜ!」
赤ジャージのレンは拳を握りしめ、闘志を燃やしていた。二人の間には、一触即発の緊張感が漂っている。
「いつか必ず勝つ。覚えておけ」
緑ジャージのリンがそう言うと、赤ジャージのレンが笑った。
「こっちのセリフだよ!絶対にいつか勝つからな!」
ルオは静かに写真を撮影し、その場を離れた。
四つ目の世界は、ごく普通の現代日本の街並みだった。カフェのテラスで、二人の学生が楽しそうに話している。
「ねえ、この漫画すごく面白くない?主人公がさ……」
赤い丸メガネをかけた眼鏡リンが、漫画の単行本を興奮しながらめくっている。
「ああ、それより新しいゲームの方が気になるな。今度一緒にやらない?」
青いスクエアメガネの眼鏡レンがスマホの画面を見せた。
二人は漫画やゲームの話で盛り上がり、時折笑い声をあげていた。ルオは遠くからそっと写真を一枚撮り、最後の世界へと向かう準備をした。
気がつくと、外はすっかり暗くなっていた。スマホの時計は午後十一時を指している。
「今日は次で最後にしよう」
ルオは呪文を唱え、最後の世界へと移動した。
そこは薄いベージュ色の、何もない空間だった。床も天井も、壁……があるのかは分からないが、すべてが同じ色に染まっている。
「あ、ルオさん!また会ったな!」
警官のレンが声をかけてきた。ルオが周囲を見渡すと、これまでに出会った八人の少年少女たちが、全員そこにいた。さらに、大人と思われる男女も二人加わっている。
「うお、ここどこだ?めちゃくちゃワクワクするぜ!」
ポジティ部のレンが興奮して跳びはねた。
「この世界はなにかの夢の中?なんであたしがいっぱいいるの?」
眼鏡リンが困惑した様子で首をかしげる。
「わぁ……。この世界、どうなってるんだろう……」
緑ジャージのリンが警戒しながら周囲を見回した。
「どうなっておるのじゃ?この世界は。眠っていて気づいたらここにいたわけじゃからおそらく夢の中だと思うのじゃが、異空間のような気もする……」
王様のリンが不思議そうに言う。
ルオは突然、かつて読んだ本の内容を思い出した。運よく、その本はカバンに入っていた。急いで取り出し、該当するページを開く。
「パラレルワールドで人と出会うと、その世界から持ち帰った魂の欠片が別の世界に散らばる。条件を満たすと、空間で共鳴して、意識だけが呼び出される。条件は四つ……」
ルオは声を出して読み上げた。
「一.魂の持ち主の意識が不安定になること。睡眠や気絶状態のとき。二.その世界が不安定な世界であること。三.人物同士に深い接点があること。同一人物とかだね。四.魂をつなぎ合わせる芯となる人物がその世界にいること。ぼくのこと」
「なるほど。ルオがここにいることを条件として夢の中で何度でもこの世界に行ける、ってこと?」
警官のリンが理解したように言った。
「まあ、そういうこと」
ルオはうなずき、そしてあることを思いついた。ずっと食べたかった「カフェ・ブラックスワン」デラックスジャンボパフェを想像してみた。
すると、目の前に、想像通りの巨大なパフェが現れた。クリーム、アイスクリーム、フルーツ、チョコレートソース……すべてが完璧に再現されている。
「やっぱり、思ったとおりだよ。ここはすごく不安定な世界だから、思い浮かぶものを全部具現化できちゃうんだ!」
「なるほど!じゃあ、ジャンボパフェをあと十人分出すのじゃ!」
王様のリンが宣言すると、空中に次々とパフェが現れた。
「いいじゃないか!夢なんだし、食べ放題だぜ!」
ポジティ部のレンが一番乗りでスプーンを手に取った。
「確かに……カロリーを気にしなくていいなら……」
横リボンのリンも少し嬉しそうに呟き、小さくスプーンを伸ばした。
「ふふ、みんなで食べると美味しいね」
眼鏡リンが笑顔を見せた。
「……変な世界ね」
緑ジャージのリンは呆れ顔ながらも、小さくスプーンを手に取った。
こうして、異世界から集まった面々は、ジャンボパフェを囲み、笑い合った。会話も自然に弾み始める。
「あー、これいいね!現実でも食べたいなあ!」
ポジティ部のレンが頬張りながら叫んだ。
「でも現実でこんなの食べたら確実に太るよ……」
横リボンのリンが現実的な指摘をした。
「大丈夫だって、ポジティ部の部員は前向きに食べる!それに、あとで運動すればチャラ!」
「運動……か。あたしあんまり運動好きじゃないな……」
眼鏡リンが苦笑いした。
「それとこれとは話が別な上に全くウチが理解できない思想すぎる!」
緑ジャージのリンが呆れたように言うと、周囲から笑い声が上がった。
その後、彼らは遊園地を作ったり、無意味に謎のダンジョンを作ったりして楽しんだ。時間は無限にあるようだったが、ルオのスマホのアラームが鳴り始めると、世界は少しずつ薄れていった。
「また明日、会おう」
ルオがそう言うと、みんなが笑顔でうなずいた。
現実に戻ったルオは、急いでSNSに写真をアップロードした。そして、思い出として一枚を額縁に入れ、机の上に飾った。
次の日は中間確認の登校日だった。ルオは慌てて準備をし、家を飛び出した。
しかし、うっかり額縁に入れた写真をカバンに入れたまま学校に行ってしまい、休み時間にクラスメートに見つかってしまう。
「なにこれ、コスプレ?」
「すごいクオリティ! どこのイベント?」
クラスメートが騒ぎ出し、あっという間にルオの周りに人が集まった。ルオは焦りながらも、なんとかごまかそうとしたが……
「ちょっと待って、この人たち、みんな同じ人に見えない?」
一人の女子生徒が指さした。確かに、写真に写っている八人の少年少女は、男女それぞれが非常に似た顔をしていた。
「そ、それは合成!」
「じゃあこの人とこの人の身長が違うのは何なの?」
「それは企業秘密! お姉ちゃん提供の新技術!」
放課後、ルオは家に帰るとすぐにスマホをチェックした。昨日アップロードした写真には、すでに多くの「いいね」とコメントがついていた。
「これ本当?すごい!」
「ハナちゃん男? 女?」
「もっと話聞かせて!」
ルオは微笑みながら、新しい配信の準備を始めた。
「みんな、聞こえる?今日は特別配信だよ。実はね……」
ルオはカメラに向かって、ゆっくりと話し始めた。すべてを包み隠さず、これまでの冒険を語っていく。
画面の向こうからは、温かいコメントが次々と寄せられた。
夜になり、ルオはベッドに入った。明日もまた、あのベージュ色の世界でみんなに会える。そう思うと、自然に笑みがこぼれた。
スマホのアラームをセットし、目を閉じる。
「おやすみ。また明日」
ルオが呟くと、枕元の額縁の中の写真が、ほんの少し光ったような気がした。

リレー小説「ワンオポアンソロ!」

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