朝美琴音。なんと響きの美しい名前だろう。これから私の先輩となる人。
翌日。私は九条先生に入部届を提出した。九条先生は何も言わずにそれを受け取り、私も何も言わずに自分の席へ戻る。今日もあの準備室へ行き、顧問と呼ばれる人に会おうと思っている。何でか分からないけれど、胸が躍り出しそうな気分でいた。
放課後。今日も九条先生に話しかけられないうちに教室を出る。今日も朝美先輩に会って、昨日は会えなかった顧問の先生と会う。何とも楽しみだ。
準備室は昨日と同じように暗く、中には誰もいないようだった。昨日のように廊下で朝美先輩を待って居よう。そう思った瞬間、
「あれ、柊木さんじゃん。部活見学?」
背後から声をかけられる。聞いたことある、嫌な声。恐る恐る振り返る。そこにはー案の定九条先生が笑顔を浮かべて立っていた。
「そ、そうですけど…。せ、先生はなぜここに?」
朝美先輩、早く来てください、と思いつつ聞いてみる。九条先生は驚いたような顔をして
「何でって、僕、今年からこの部活の顧問だから。」
と淡々と言った。私は呆気にとられる。九条先生が「新聞・文藝部」の顧問?何でよりによって九条先生が顧問なの?頭が混乱する。こうなったら、朝美先輩に頼るしかー。
「ちなみにだけど、」
九条先生は話を続ける。
「朝美さんは、今日休みみたいだよ。」
ガーン、という音が聞こえた気がした。唯一の頼りである先輩がいないなんて、私がここに来た意味ないじゃん…。
「部活動見学は今日までだけど、柊木さんはもう入部届出したよね?」
「は、はい。昨日は顧問の先生がいらっしゃらなくて、明日もおいでって、朝美先輩に言われて…。」
昨日の状況を説明する。けれど、頭が回っていないのか、何を言っているかちんぷんかんぷんだ。
「そうか。じゃあ今日、僕がこの部活の顧問だって知ったわけだね。」
私は頷いておく。九条先生が顧問なんて、入るんじゃなかったと思う。けれど、あの朝美先輩の笑顔を見てしまった今、考えを変えることはできない。私はあの先輩のもとで活動したいと心から思ったのだ。
「今日って何かすることある?朝美さんから何か聞いてる?」
私は首を振る。
「そうか、じゃあ今日はもう帰っていいんじゃない?目的は達成したわけだし。」
九条先生は少し首を傾げながら言う。私もどうしていいか分からず、
「じ、じゃあ、失礼します。」
と言ってその場を後にした。さっと帰ろうと思ったが、「あ、そうだ」と九条先生に引き留められる。
「これからよろしくね、柊木さん?」
九条先生は小悪魔のように笑みを浮かべた。「柊木さん」という言い方に、少しトクンとした。
我に返り、私は頭を下げると急いで昇降口まで向かった。九条先生に話しかけられると、なんだか胸がざわざわする。
昇降口で靴を履き替えていると、外から多分バレー部であろう声がした。見学とはいえ、1年生ももう走りこみや声出しを行っているらしい。その中に早乙女さんの姿があった。みんなの中に紛れて、チームの一人として活動している姿に、胸がチクチクと痛んだ。私にはそんなことできない。チームなんて好きじゃない。そう思った。私のできないことを、難なくこなせるみんなが嫌いで、そんなことを思ってしまう自分が嫌いだった。
「バレー部、気になるの?」
ふいに声をかけられる。九条先生の声だ。
「せ、先生?どうしてここに?」
九条先生を少し睨んでから言う。
「いや、別に。君いつも一人だから見送ってあげようと思って」
つまり、これは九条先生のやさしさ。そう思うことにする。
「わざわざありがとうございます。私は大丈夫なので…」
言いかける。
「大丈夫、じゃないでしょ。無理しないで、なんかあったらすぐいいなよ。」
九条先生が私の耳元で囁く。私は驚いて飛びのき後ずさる。そんな私の様子を見て、九条先生は満足したかのように、
「じゃ、また明日。」
と言い、廊下の奥に消えてしまった。
「な、何…?今の…」
しばらく私はその場を動けないでいた。
翌日。私は九条先生に入部届を提出した。九条先生は何も言わずにそれを受け取り、私も何も言わずに自分の席へ戻る。今日もあの準備室へ行き、顧問と呼ばれる人に会おうと思っている。何でか分からないけれど、胸が躍り出しそうな気分でいた。
放課後。今日も九条先生に話しかけられないうちに教室を出る。今日も朝美先輩に会って、昨日は会えなかった顧問の先生と会う。何とも楽しみだ。
準備室は昨日と同じように暗く、中には誰もいないようだった。昨日のように廊下で朝美先輩を待って居よう。そう思った瞬間、
「あれ、柊木さんじゃん。部活見学?」
背後から声をかけられる。聞いたことある、嫌な声。恐る恐る振り返る。そこにはー案の定九条先生が笑顔を浮かべて立っていた。
「そ、そうですけど…。せ、先生はなぜここに?」
朝美先輩、早く来てください、と思いつつ聞いてみる。九条先生は驚いたような顔をして
「何でって、僕、今年からこの部活の顧問だから。」
と淡々と言った。私は呆気にとられる。九条先生が「新聞・文藝部」の顧問?何でよりによって九条先生が顧問なの?頭が混乱する。こうなったら、朝美先輩に頼るしかー。
「ちなみにだけど、」
九条先生は話を続ける。
「朝美さんは、今日休みみたいだよ。」
ガーン、という音が聞こえた気がした。唯一の頼りである先輩がいないなんて、私がここに来た意味ないじゃん…。
「部活動見学は今日までだけど、柊木さんはもう入部届出したよね?」
「は、はい。昨日は顧問の先生がいらっしゃらなくて、明日もおいでって、朝美先輩に言われて…。」
昨日の状況を説明する。けれど、頭が回っていないのか、何を言っているかちんぷんかんぷんだ。
「そうか。じゃあ今日、僕がこの部活の顧問だって知ったわけだね。」
私は頷いておく。九条先生が顧問なんて、入るんじゃなかったと思う。けれど、あの朝美先輩の笑顔を見てしまった今、考えを変えることはできない。私はあの先輩のもとで活動したいと心から思ったのだ。
「今日って何かすることある?朝美さんから何か聞いてる?」
私は首を振る。
「そうか、じゃあ今日はもう帰っていいんじゃない?目的は達成したわけだし。」
九条先生は少し首を傾げながら言う。私もどうしていいか分からず、
「じ、じゃあ、失礼します。」
と言ってその場を後にした。さっと帰ろうと思ったが、「あ、そうだ」と九条先生に引き留められる。
「これからよろしくね、柊木さん?」
九条先生は小悪魔のように笑みを浮かべた。「柊木さん」という言い方に、少しトクンとした。
我に返り、私は頭を下げると急いで昇降口まで向かった。九条先生に話しかけられると、なんだか胸がざわざわする。
昇降口で靴を履き替えていると、外から多分バレー部であろう声がした。見学とはいえ、1年生ももう走りこみや声出しを行っているらしい。その中に早乙女さんの姿があった。みんなの中に紛れて、チームの一人として活動している姿に、胸がチクチクと痛んだ。私にはそんなことできない。チームなんて好きじゃない。そう思った。私のできないことを、難なくこなせるみんなが嫌いで、そんなことを思ってしまう自分が嫌いだった。
「バレー部、気になるの?」
ふいに声をかけられる。九条先生の声だ。
「せ、先生?どうしてここに?」
九条先生を少し睨んでから言う。
「いや、別に。君いつも一人だから見送ってあげようと思って」
つまり、これは九条先生のやさしさ。そう思うことにする。
「わざわざありがとうございます。私は大丈夫なので…」
言いかける。
「大丈夫、じゃないでしょ。無理しないで、なんかあったらすぐいいなよ。」
九条先生が私の耳元で囁く。私は驚いて飛びのき後ずさる。そんな私の様子を見て、九条先生は満足したかのように、
「じゃ、また明日。」
と言い、廊下の奥に消えてしまった。
「な、何…?今の…」
しばらく私はその場を動けないでいた。