その日は放課後まで、ずっと水瀬律について考えていた。
水瀬が放った、「かっこいい」という言葉。やけに胸に響いた気がした。日向里に言われた時とは違う、心から嬉しいと思えた。
「颯太!」
日向里の声。俺は思わず聞いてみる。
「日向里さ、水瀬についてなんか知ってる?」
日向里は呆れた顔をして、俺の机に腕をつく。
「また水瀬君?私は何も知らないよ!」
日向里はふくれっ面で俺を見る。それどころか、
「ねえ、それより聞いてよ!」
と普通に話を変えてくる。俺が何も言わないのを良いことに、
「見てよ、外。雨降ってるんですけど⁉」
と話を続ける。俺は窓の外を見る。朝、お天気キャスターが言っていた通り、「所により雨が降った」ようだ。傘、持ってきといて良かった。
「颯太さ、傘持ってる?」
日向里は首を傾げて尋ねる。俺は頷くと、
「あっそ、」
と言い残し、俺から離れた。と思ったのも束の間、友達に紛れて教室を出て行ってしまった。
「なんだよ、あいつ。」
俺がそう吐き捨てると、後ろの方で席を立つ音が聞こえた。俺はチラッと見る。水瀬が席を立ったようだ。
気が付くと、俺と水瀬以外教室にいないことに気が付いた。帰りのHRも終え、みんな各自解散したようだ。
いい機会だ。もう一度話しかけてみることにするか。さっきのことも気になるし。
「よお、水瀬。」
俺は偶然を装って水瀬に話しかけた。水瀬はあからさまに混乱しているような顔をして、
「な、何でしょう?」
と返してきた。
「外、凄い雨だな。傘、持ってるか?」
普通に話しかけてみる。内心は何を話そうか焦っているが、とりあえず天気の話題でも。
「雨、凄いですね。か、傘、持ってないです…。」
水瀬は恥ずかしそうに俯く。
「そうか、じゃあ俺の使えよ。」
「えっ…!でも、そしたら一条さんが…」
水瀬はアワアワし出した。その様子につい、吹き出しそうになってしまう。
「俺はいいよ、別に。それか、一緒に入るか?」
冗談交じりでそう付け加えた。「使えよ」。そう言おうとした瞬間、
「い、一緒に、か、帰りましょう。」
水瀬は顔を真っ赤にしながら答えた。予想外の答えに呆気にとられる。
マジか、俺、水瀬と相合傘しながら帰るのか?
「ま、まぁいいけど…」
俺は動揺しながら、水瀬と一緒に教室を出た。
昇降口にはもう誰もいなく、ただ雨の音だけが響いていた。
「狭いかもしれないけど、入れよ。」
俺は傘の片方に避け、水瀬を入れた。水瀬は肩身が狭そうに入ってきたが、傘の柄をぎゅっと握り締めていた。
学校を離れてしばらくしたとき、俺は無言の時間に耐えられなくなった。信号待ちをした時、
「水瀬はさ、何で昨日試合来てたんだ?」
と聞いてみた。水瀬はより赤くなり、
「ただ、ちょっと興味があって…」
とだけ答え、黙り込んでしまった。俺はもっと質問してみようと思った。
「興味?だってお前、弓道部じゃん?何でバスケに?」
水瀬は眼鏡をかけ直すと。
「べ、別に…」
と言い、顔を手で覆った。そしてこう言った。
[大文字]「一条さんが、いたから…」[/大文字]
思わず立ち止まってしまう。俺が、いたから?どういう理由だよ、それ?
「えっと、それってどういう…」
聞いてみたが、水瀬は黙ったまま。俺も口を[漢字]噤[/漢字][ふりがな][/ふりがな]んでしまう。
しばらく無言のまま歩き、分かれ道に着いた。
「ぼ、僕、家こっちなんで。わ、わざわざありがとうございました。」
水瀬はそう言うと、雨に濡れながら走って行ってしまった。何なんだよあいつ、ますます分かんねぇよ。
________________________________________________________
言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった。
[斜体]「一条さんが、いたから。」[/斜体]
自分の言葉が頭の中で響いている。一条さんー颯太君の顔が思い浮かぶ。あの、困惑したような顔。
言うつもりはなかった。けど、言ってしまった。ー後悔はしていない。伝えられたから。
僕は今来た道を振り返る。もちろんそこに颯太君の姿はなく、少し小降りになった雨が僕を打っているだけだ。
「明日も、話せるかな…?」
そう呟いて、僕は家まで走った。
水瀬が放った、「かっこいい」という言葉。やけに胸に響いた気がした。日向里に言われた時とは違う、心から嬉しいと思えた。
「颯太!」
日向里の声。俺は思わず聞いてみる。
「日向里さ、水瀬についてなんか知ってる?」
日向里は呆れた顔をして、俺の机に腕をつく。
「また水瀬君?私は何も知らないよ!」
日向里はふくれっ面で俺を見る。それどころか、
「ねえ、それより聞いてよ!」
と普通に話を変えてくる。俺が何も言わないのを良いことに、
「見てよ、外。雨降ってるんですけど⁉」
と話を続ける。俺は窓の外を見る。朝、お天気キャスターが言っていた通り、「所により雨が降った」ようだ。傘、持ってきといて良かった。
「颯太さ、傘持ってる?」
日向里は首を傾げて尋ねる。俺は頷くと、
「あっそ、」
と言い残し、俺から離れた。と思ったのも束の間、友達に紛れて教室を出て行ってしまった。
「なんだよ、あいつ。」
俺がそう吐き捨てると、後ろの方で席を立つ音が聞こえた。俺はチラッと見る。水瀬が席を立ったようだ。
気が付くと、俺と水瀬以外教室にいないことに気が付いた。帰りのHRも終え、みんな各自解散したようだ。
いい機会だ。もう一度話しかけてみることにするか。さっきのことも気になるし。
「よお、水瀬。」
俺は偶然を装って水瀬に話しかけた。水瀬はあからさまに混乱しているような顔をして、
「な、何でしょう?」
と返してきた。
「外、凄い雨だな。傘、持ってるか?」
普通に話しかけてみる。内心は何を話そうか焦っているが、とりあえず天気の話題でも。
「雨、凄いですね。か、傘、持ってないです…。」
水瀬は恥ずかしそうに俯く。
「そうか、じゃあ俺の使えよ。」
「えっ…!でも、そしたら一条さんが…」
水瀬はアワアワし出した。その様子につい、吹き出しそうになってしまう。
「俺はいいよ、別に。それか、一緒に入るか?」
冗談交じりでそう付け加えた。「使えよ」。そう言おうとした瞬間、
「い、一緒に、か、帰りましょう。」
水瀬は顔を真っ赤にしながら答えた。予想外の答えに呆気にとられる。
マジか、俺、水瀬と相合傘しながら帰るのか?
「ま、まぁいいけど…」
俺は動揺しながら、水瀬と一緒に教室を出た。
昇降口にはもう誰もいなく、ただ雨の音だけが響いていた。
「狭いかもしれないけど、入れよ。」
俺は傘の片方に避け、水瀬を入れた。水瀬は肩身が狭そうに入ってきたが、傘の柄をぎゅっと握り締めていた。
学校を離れてしばらくしたとき、俺は無言の時間に耐えられなくなった。信号待ちをした時、
「水瀬はさ、何で昨日試合来てたんだ?」
と聞いてみた。水瀬はより赤くなり、
「ただ、ちょっと興味があって…」
とだけ答え、黙り込んでしまった。俺はもっと質問してみようと思った。
「興味?だってお前、弓道部じゃん?何でバスケに?」
水瀬は眼鏡をかけ直すと。
「べ、別に…」
と言い、顔を手で覆った。そしてこう言った。
[大文字]「一条さんが、いたから…」[/大文字]
思わず立ち止まってしまう。俺が、いたから?どういう理由だよ、それ?
「えっと、それってどういう…」
聞いてみたが、水瀬は黙ったまま。俺も口を[漢字]噤[/漢字][ふりがな][/ふりがな]んでしまう。
しばらく無言のまま歩き、分かれ道に着いた。
「ぼ、僕、家こっちなんで。わ、わざわざありがとうございました。」
水瀬はそう言うと、雨に濡れながら走って行ってしまった。何なんだよあいつ、ますます分かんねぇよ。
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言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった。
[斜体]「一条さんが、いたから。」[/斜体]
自分の言葉が頭の中で響いている。一条さんー颯太君の顔が思い浮かぶ。あの、困惑したような顔。
言うつもりはなかった。けど、言ってしまった。ー後悔はしていない。伝えられたから。
僕は今来た道を振り返る。もちろんそこに颯太君の姿はなく、少し小降りになった雨が僕を打っているだけだ。
「明日も、話せるかな…?」
そう呟いて、僕は家まで走った。